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【書籍化】悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~  作者: 狭山ひびき


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エルボリスの第二王子 1

 国境付近にあるエルボリスの町ダラスは、四代前の国王が現在の王都に都を移すまで王都として栄えた町である。

 リニア王国の王都エルラッカから馬車で一週間ほどで到着するダラスにある旧王城は、毎年、リニア王国とエルボリス国で行われる親善試合の打ち合わせに利用されていた。

 そのほか、エルボリスの王族の別荘的な役割で利用されていることから、旧王城の管理はきっちりとされている。

 馬車に揺られて一週間。長旅から解放されたジョシュアは、馬車を降りるなり、旧王城を見上げながら大きく伸びをした。


「あー、肩凝った」


 ジョシュアは年末に行われる親善試合の打ち合わせのためエルボリスの旧王城へやってきたのだ。

 代表者のみで行われる打ち合わせには、ジョシュアのほかに騎士団から五人、そして王太子であるディアスがついてきた。

 どういう風の吹きまわしか、今年の親善試合に参加すると言い出したディアスは、打ち合わせにも混ぜろと言ってついて来たのだ。

 王太子が動くとさすがに護衛も必要だが、大人数で移動すると効率が悪いため、打ち合わせに参加させる騎士団のメンバーが王太子の護衛も兼ねている。

 途中に使う宿の手配など、王族がついてくるとそれなりに気を遣わないといけないため、いらぬ仕事がでてジョシュア的には迷惑極まりなかったが、母譲りでこの王太子は言い出したら聞かないのだから仕方がない。

 ジョシュアは長旅の疲れなど微塵も見せず、すたすたと旧王城の中へと歩いていくディアスの後姿を見てこっそりとため息をついた。


(……まったく、これ以上面倒ごとはごめんだからな)


 ジョシュアは出発前に届いた、元上官で友人のフリーデリックからの手紙を思い出す。

 目下、ジョシュアを一番面倒ごとに巻き込んでいるのはこの友人だ。

 だが、一度巻き込まれてしまったのだから、最後までつきあってやらなければならない。


「殿下、お願いですから、一人でうろうろしないでください!」


 落ち着いたら二週間くらいの長期休暇をぶんどってやろう――、ジョシュアはそう硬く決意して、ディアスのあとを追った。




     ☆




 アリシアは針をおくと、窓外に広がる青空を見やって小さく息をついた。

 ラジアンからの接触を警戒して、ここ二週間ほど、ステビアーナ城に籠っている。

 結婚式の準備も、アリシアができることはいったん片付いたので、現在は、結婚後、夫婦の部屋に置く小物類を制作中だ。

 今はクッションカバーを制作中だった、深い紺色にビーズを縫い付けて、まるで夜の空を見上げたような様子に仕上げたい。


 もともと針仕事は教養として身に着けていたし、悪徳令嬢と言われて使用人が執事を残してみないなくなってしまった後は、繕い物などもしていたので、自分で言うのもなんだが、まあまあの腕前だと思う。

 クッションカバーを二つ作ったあとは、ベッドの上掛けに、テーブルクロスを作りたい。フリーデリックが執務中に仕えるひざ掛けなども編む予定だ。

 細かい作業に没頭していると、余計なことを考えなくてすむからいい。

 ぼーっとしているとどうしてもマイナスの方に思考が傾いてしまうからだ。


「いい天気ね」


 アリシアがつぶやくと、隣でアリシアの作業を手伝っていたジーンが同調した。


「本当ですわね。二日続いた雨が嘘のように晴れましたわ。午後から気晴らしに、フリーデリック様とお庭でお茶をなさったらいかがでしょう? たまには気晴らしも必要ですもの」

「そうね……、じゃあ、あとでティータイム用のクッキーでも焼こうかしら」

「それはよろしゅうございますね。フリーデリック様はアリシア様の作るお菓子が大好きですもの。普段あまり甘いものを食べませんのに、アリシア様の手作りだけは別のようですわね。本当に、アリシア様が大好きなのですわ」

「そ、そんなこと……」


 アリシアは頬を染めて俯いた。「ない」とは言えない。フリーデリックに愛されているのは痛いほどよくわかっている。

 ジーンは頬を染めおろおろしているアリシアを見て悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふふふ、仲良くなられて本当によかったですわ。そうそう、フリーデリック様のひざ掛けに使う毛糸ですけど、何色になさるかお決めになりましたの?」

「まだなの。あまり派手な色でない方がいいと思うのだけど、模様を何にするかも決めてなくて……」

「それでしたら、絵柄は少し難しゅうございますが、薔薇はいかがでしょう?」

「薔薇? できると思うけど、でもどうして?」


 ジーンは針を片付けてお茶の用意をしながら、微笑む。


「実は昔――、アリシア様がこちらへいらっしゃる前のことですわ。フリーデリック様が、アリシア様に花を贈られたいと言われたことがあって、そのとき選ばれた花が七本の薔薇でしたの。結局、うじうじ悩まれて実際にはお渡しになれなかったみたいですけどね」

「七本の、薔薇……」


 七本の薔薇の花言葉は、「ひそかな愛」。それに気づいたアリシアは真っ赤になった。フリーデリックが花を贈ろうとしてくれたことにも驚きだ。ただ、あの時のアリシアだったら、きっと受け取らなかったと思う。受け取らず、彼を傷つけることになっていたと思うから、その時フリーデリックに薔薇を贈られなくてよかったと思った。


(薔薇……、それだったら)


 今、アリシアはフリーデリックのことを愛している。でもきっと、この気持ちは、フリーデリックが自分に向けてくれる気持ちには到底かなわないのだろう。それでも、少しでも気持ちが伝わればいいと思うから――


「それなら、リックのひざ掛けの絵柄は、九本の薔薇にしますわ」


 九本の薔薇の花言葉は「いつもあなたを想っています」。フリーデリックがこの花言葉を知っているかどうかはわからないけれど。


「素敵ですわね」


 我が事のように嬉しそうなジーンとともに、九本の薔薇を軸としたひざ掛けの図案を考えながら、フリーデリックの喜ぶ顔を思い浮かべて、少しだけうれしくなった。



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