亀の横断歩道渡り
亀つきのホテルマンが亀を部屋まで案内した。亀は長いこと滞在している。その亀についてフロントの裏では、浦島太郎とりが浦島太郎になったと、亀は笑われている。
亀は長い滞在中、ホテルのなかのレストランーイタリアン、フレンチ、洋食店、和食、寿司、バー、喫茶ーそこで食事をして、外出は亀が歩いても大変でない港の公園に限った。港の公園に行くにはホテル前の横断歩道を渡る必要があったので、大変な危険に用心してホテルマンに付き添わせた。
横断歩道を渡る途中に亀の甲羅より鉄の方が硬い事を話した。また人が足の裏で執拗に亀を蹴り潰し続ければ亀も無事ではいられないことも話した。亀は甲羅で命を守りきれない。車にはねられた死骸は朝の路肩で回収され、また人に蹴られて伸びた甲羅の中身は包丁で削ぎ出されて食べられる。
あなたを食べやしませんよとホテルマンが言っても顔を背けた。ホテルマンは、すっぽんは食べても普通の亀は食べないなと、思った。
あの亀は考えが古いなと、浦島太郎だなと思った。
亀が頑なに鉄の方が硬いことと人に蹴られ続ければ死ぬと言ってしつこいので、ホテルマンは面倒な年寄りを相手にしているようで疲れてしまって、つきあいに開放されると職場の裏で亀の悪口を言い始めた。