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41 上級妃二人に協力を願いましょう

 翌日。新たな悩みが一つ増えた鈴花は、陽泉と潤に誘われて園林(ていえん)の一つで、飲茶をしていた。この前鈴花が行こうとしていた苔が見どころの庭であり、評判通り池の中に立っている水亭(あずまや)の屋根や、池の周辺に苔が生い茂っている。また観賞用として、亭の欄干には様々な苔が入った小鉢がかかっていた。

 鳳蓮国ではあまり苔を鑑賞することはなかったが、この十数年の間に東の島国から伝わったらしい。


(苔ってよくみると可愛い形をしているのね)


 花や築山、滝の音とはまた違う楽しみ方に、鈴花は女の子二人のおしゃべりを聞きながら心癒されていた。口の中にはしっかり蜜柑が入っている。陽泉も潤も変わりはないようで、会って席につくなり鈴花を気遣う言葉をかけてくれた。暗殺未遂という重大事件であり、普通の妃嬪なら一週間ほどふさぎ込んでもおかしくない。


 さすがに自分で撃退したなど言えず、曖昧に笑っていたら無理をしていると感じたのか、二人は健康にいい食べ物や、気分転換ができる遊び道具などを話題にし始め、ただいま盛り上がっている。二人は話を続けながらも、鈴花の皿が空いたのを見るや点心やら果物やらを盛るので、鈴花は口に運ぶ手を止められなかった。二人とも世話焼きである。


「よし決めたわ、鈴鈴。辛い時はおいしいものをたくさん食べるのに限るもの。南方から珍しい茘枝(ライチ)という果物を取り寄せましょ」

「鈴妃、素晴らしい音楽を聴くのもよいと思います。宮廷楽団に演奏してもらいましょう。私、舞も見たいです」


 結局二人の趣味が出た提案になっており、鈴花はおだやかな笑みを浮かべて「ありがとう」と言葉を返す。それに今日は世間話をしにきたのではない。だから鈴花は、早々に呼び水を使うことにした。


「気遣ってくれなくても大丈夫よ。なんたって、玄家の娘だもの。災難には慣れているわ」


 そう言って大した事ではないと笑顔を見せれば、二人の表情が一瞬強張った。一秒にも満たない間があり、潤が「あはは」と軽い笑い声をあげる。


「器用貧乏の玄家だものね。色んな分野に首をつっこんでいるから、厄介ごとには強そう」


 そこに口もとに手をやった陽泉が、少し間を置いてから話に入ってきた。


「たしか……護身術の道場をお持ちでしたよね。しつこい求婚者から身を守るのに、護身術を勧められたことがあったんです」


 そんな当たり障りのない話をする三人の視線が交錯した。互いに探り合うような目で、言葉の裏を取っていく。どこまで踏み込むか、鈴花は線引きを探ろうと言葉を散りばめ会話を続けた。


「護身術はいいと思うわ。少し型を覚えたら、毎日運動するきっかけにもなるし、陽妃は大人しそうに見えるから、相手も油断するし。……たしかうちの道場は、古式の護身術だったわね」

「……はい、蓮国が発祥だと伺いました」


 おずおずと静かに、それでいて芯のある声で話す陽泉に「そうそう」と頷き返し、鈴花は潤へと顔を向ける。


「女性が習いにくることも多いから、お父様が護身にも使える簪を作ったのよ。確か、黄家に材料の調達でお世話になっていたわね」

「漆塗りの簪でしょ? あの艶のある黒漆は貴重なものだから、感謝してよね」


 少し唇を尖らせ、潤は頬杖をつく。視線を落とした先にあった干し杏子に手を伸ばし、口に放り込んだ。そんな二人を交互に見て、鈴花は笑みを深くする。

 器用貧乏の玄家といえども、護身術の道場など開いていない。黒漆の簪も作っておらず、全て金か銀細工だ。それを二人は故意に間違えた。


(二人は、玄家が何か知っているのね……)


 名家にはいまだに伝わっているとは思っていたが、意外と正しく伝わっているようだ。鈴花は少し冷めたお茶を飲み、一息入れる。


「いいの?」


 それは最終確認だ。言外に、今なら知らないふりができると尋ねれば、二人は力強く頷いた。


「今まで黄家は様子見を続けてたけど、昨日の襲撃は許せないの。目にものを見せてやる! って感じ」

「翠家も同じです。超えてはいけない一線を越えました」


 潤はともかく、陽泉も語気が強くなっており、鈴花は少し目を丸くした。表情に不思議だと思っていることが出ており、潤が姿勢を正して鈴花に向き直る。


「……知っているだろうけど、黄家と翠家は蓮国の流れを組む家よ。遠い先祖のありがた~いお言葉が山ほどあるの」

「そのうちの一つに、何かあれば玄家を頼り、また助けよとあるのです」


 その言葉は郭昭も口にしていたもので、鈴花は思わず「律儀ねぇ」と呟いてしまった。鳳蓮国が建国してから数百年の時が流れたのに、言葉とは残るものだ。


「あとは、黄家に口うるさいおばあちゃんがいてね……陽陽と一緒にこの国のありがた~い歴史を、耳がたこになるくらい聞かされてさ」

「勉強になりました……」


 二人は顔を合わせて力なく笑っており、ずいぶん歴史好きなおばあさんのようだ。


(忘れ去られても、問題ないのにね)


 父親もそのことについて教えてくれた時に、「もうなかったことにしてもいい」と苦笑するほど遠い過去のことだ。玄家には二つの裏の顔がある。一つが闇の玄家。そしてもう一つが、彼女たちと繋げるもの。

 さびついた鎖のようなものだが、役に立つこともあるのねと鈴花は複雑そうな表情を作った。


「じゃぁ、お言葉に甘えて……教えてほしいことがあるのだけど」


 鈴花は二人に向き直って、鋭い眼差しを向けた。闇に潜み、情報を集め、ひたすら腕を磨く。そんな闇の玄家の一面が顔に滲み出ていて、二人は張り詰め始めた空気に唾を飲みこむのだった。


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