9.謁見
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セオの言っていたとおり、入り口から国王の座する玉座まで真っ直ぐに赤い一本道が出来ている。
残念王子レナルドによく似た人物が玉座にいるということは、あのロマンスグレーなイケオジ風の人物が国王陛下その人なのだろう。
隣に座するのは、豪華なティアラをつけた貴婦人。まあ、王妃陛下だろうな。興味津々といった熱の籠った視線を向けてくる。王子を彷彿とさせるその熱視線から、性格は間違いなく王妃似だと察した。
国王を挟んで座するのは、件の残念王子レナルドだ。黙ってればイケメンなのにな。
王子が腰の位置でにこやかにこっそりと手を振ってきた。それって公の場でやっちゃいけないやつじゃねえの……? 作法に疎い俺でもそれくらいは分かるぞ。
あ、ほら。国王に見つかって手を叩かれてるじゃん。何やってんだよ、まったく。
セオとネイトを引き連れて、玉座までの道を歩く。堂々と歩けと言われているから、そこはもう意識して、場の雰囲気に呑まれないよう凛とした態度で挑んだ。
恐らく国の重鎮たちであろう貴族達が、俺を値踏みするようにねっとりとした視線を向けてくる。それを不快に思いながら、玉座から三馬身の位置で足を止めた。
背後でばさりと音がして、ちらりと確認すれば、セオはパールホワイトのローブの裾を、ネイトはダックブルーのマントを捌き、跪いていた。
会釈も駄目、つられて跪くのは論外。念仏のように繰り返し頭の中で唱えて、真っ直ぐに国王を見つめ返した。
「ようこそいらしてくだされた。余はアウストレイル第四の名を冠するエバーレスト・カトルの王、クラレンス・エバーレストと申す。突然の召喚に、さぞ驚かれたことだろう」
「初めまして。ユウキ・サダツキと申します。唐突に家族と引き離されて色々と思うところはありますが、こちらに控えるセオドア・ティアニーから召喚に踏み切った経緯を聞きました。それでも消化できないわだかまりはありますけど、あなた方の切迫した現状は理解しました」
ざわりと貴族たちがさざめく。
何と高慢なとか、男ではないかとか、魔導師団は儀式の失敗を紛い物で隠そうとしているだの、まあ言いたい放題だ。
「確かに聖女殿の申されるとおり、我が国を含むアウストレイル全土は危機に瀕している。だがそれはこちらの事情。そのとおりだ」
「陛下! ですが!」
「静まれ。聖女殿には異世界での人生があったのだ。我々と同じようにな。それを承諾なしに無理矢理お連れした。あちらへ戻る方法などないと知りながらだ。同じ仕打ちを受けて、そなたらは聖女殿のように理解を示そうと思えるのか?」
しんと水を打ったように静かになったが、幾人かは俺を睨んでいる。昨日召喚されたばかりで、恨まれる理由も言われもないけどな。
「家族に会うことも出来る、こちらで誕生する聖女とは違う。異世界からの召喚とは、すべてのものを奪い、それ以上の重石を聖女殿に強制的に背負わせてしまうのだ。本来であればまったく関係なく、アウストレイルへの義理も義務もない聖女殿に、だ。断罪されるべきは異世界より拐った我等。その存在を慈しみ、労い、感謝せねばならぬ立場でありながら、聖女殿を責めるそなたらには失望したぞ」
国王が真っ当な思考力を持っていて安心した。国王の性格や方針如何では、俺の今後の明暗がはっきりと別れてしまうからな。
国のトップが召喚に対してきちんと罪悪感を感じてくれているのなら、俺から嫌味を言うことはこれきりない。
まあ、一部の人間は未だに視線で殺せそうなほど殺気の込められた一瞥をくれてやがるけどな。ホント何なのあいつら。女じゃないのは俺のせいじゃないぞ。
「聖女殿。数々の非礼を御詫び申し上げる。昨晩は少しはお休みになれただろうか」
「はい。恥ずかしながら驚くほどにぐっすりと」
「おお、それはよかった。衣装は女性ものしか揃えておらず、ご不便をおかけした。随時増やしていくよう命じておるゆえ、ご容赦願いたい」
「お心遣い、痛み入ります」
うんうん、と国王が朗らかに笑んだ。
「食事の面では如何であろうか? 何か不備などはありませぬか?」
「いいえ。とても美味しく頂きました。俺の――いえ、私の世界で食べているものとよく似ていて、食文化の共通性に驚いていたところです」
「それは重畳。食は生きる上で一番重要ですからな。アウストレイルの食事がお口に合った様子で安堵しましたぞ」
同感だ。食事の合う合わないは大切だ。その土地で生きていく為には絶対はずせないからな。
「何か要望があれば、遠慮なく言って頂きたい。可能なかぎりお応えしよう」
「ありがとうございます」
◆◆◆
「陛下。よろしいのですか。真実あの方が聖女であられたとして、早々に各地へ赴いて頂かなくては、我が国だけでも穢れの侵食はすでに楽観視できるものではありません」
「そうです! そのための聖女ですぞ!」
「わかっておる。だが前言した通り、異世界召喚による弊害は聖女殿にこそ降りかかっている。それを無理強いするなど以ての外ぞ」
「しかし陛下、聖女様のお心を慮っておられるほど、我が国もそう猶予はございません」
「それも承知の上で申しておる」
ざわざわと動揺や不満の声が広がる。
国王にも臣下たちが追い立てるように焦る気持ちはよく理解できていた。国王とて本音は急がせたい。だが物事には順序というものがある。アウストレイルを救う義理などない異世界の聖女に、諸々をすっ飛ばしてこちらの都合ばかり押しつけては、結果すべてを喪うことになるかもしれないのだ。
「慌て惑うのもわかるが、落ち着け。急いてはようやく得た聖女を失うぞ。多くの歴史書にも遺されているように、聖女とは心身共に健やかであらねばならぬ。聖女はあくまで天より頂いた癒しの者。それを禁じ手とも言える強制召喚で異世界より招いたのだ。より慎重に、より聖女殿の心に寄り添わねばならぬ」
皆が納得したとは思わないが、短慮だけは起こしてくれるなよと、国王はそう願った。
(さて、最初に召喚された異世界の聖女はたくさんの予言をしたとされているが、今世の聖女殿は如何かな)
国王は、魔導師長と近衛騎士を伴って退出していった扉を興味深げに見つめた。