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7.赤ずきんちゃん

 



「別に友達でもいいんじゃねえの」


 早々に王子の相手に音を上げた俺は、落としどころとして友人枠を提案した。思い込みの激しいこの王子を友達とか何の冗談と突っ込みたいが、残念なことに折衷案はこれしか思い浮かばない。ちくしょう。

 王子に不敬だとか何だとか、もうどうでもいい。


「ふむ。友人か。それもいいが……やはり聖女を伴侶にという想いは捨てがたい」

「捨てろ。今すぐ焼いて灰にしちまえ」

「本当につれないことを言うやつだな。そこがまた愛らしくていいのだが」

「やめろ気持ち悪い」

「ははは!」


 何一つとて面白くない。ぎろりと王子を睨むが、生暖かい視線を返されるだけだった。


「ユウキは年はいくつだ? 私は十七だ」

「来月で十四になる」

「そうか。では盛大に祝わねばな」

「えっ、いいよ! アウストレイル全土が困窮してるって聞いた。俺一人のために贅沢はだめだ」

「聖女……」

「聖女だわ……」

「なんと美しい心根か。よし、ユウキ。結婚しよう」

「それもういいから。疲れるから」


 尊い、とネイトと侍女たちが感動に打ち震えている中、残念王子がふざけたことを言う。何を言い返してもにこにこ笑っているから、実は王子はマゾ体質なんじゃないかと思い始めている。

 いよいよ以て国の未来が危ぶまれるな。

 婚約者がどんな子か知らないけど、頑張って手綱を握ってくれ、と見知らぬ相手に心からのエールを送った。






 ◇◇◇


 翌朝、思いの外ぐっすり眠れたことに俺は苦笑した。なんだかんだ言って、結構図太かったらしい。

 俺付きになったという昨晩の侍女たちが持ってきた服に袖を通し、一から十まで世話されることに諦観した。

 もうね、無我の境地以外ないよ。羞恥心抱いてるの俺だけなんだもん。今ならきっと悟りを開けるね。素っ裸にして隅々まで恥じらうことなく丸洗いされれば、着替えで全裸になるくらいもうどうってことないよ。

 侍女たちにとって俺はあくまで聖女であって、性別は二の次なのだろう。たとえ下肢にナニが備わっていようとも、彼女たちにとっては些末なことらしい。乾いた笑いしか出ないよね。


 急遽用意された服は貴族子弟の衣装で、成人していない子供が着るものだそうだ。急いで準備してくれたのは件の白ローブ一団で、一緒に持ち込まれたローブは、昨夜貸してもらったセオドア・ティアニーのものより丈の短い、膝頭が顔を出す程度の長さだった。

 色は白ではなく、濃い紫を帯びた赤色の、ローズマダーのローブ。聞けばこの世界で赤は禁色(きんじき)で、着用が許されているのは王族だけらしい。そういえば昨晩押し掛けてきた残念王子も赤のマントを羽織っていたな。


 赤に近い色も王家に連なる大公家だけに許されていて、それより下位に位置する貴族家は必ず赤を避けるそうだ。宝石や装飾品に関しては赤も許可されているらしいけど、衣装だけは赤を基調とするあらゆる色はタブーなんだと。ピンクとかオレンジ、紫なんかは構わないそうで、その辺の縛りの基準は俺にはよくわからない。

 で、問題のこのローブ。紫を含むと言ってもきっぱり赤だと断言できる色だ。大公家でもここまで赤を全面に出した色は着用不可らしい。なのに、俺に用意されたローブはローズマダー。日本語で言えば茜色だ。


「……………赤ずきんちゃんじゃね?」


 フードをかぶった出で立ちで姿見の前に立つ俺がぼそっとそう呟けば、やり遂げた達成感からいい笑顔を浮かべる侍女たちや、そのまま護衛の任に就いた、近衛騎士と判明したネイト・ギャレット、魔導師長と名乗っていたセオドア・ティアニーがブフッと吹き出しそうになって視線を逸らした。


 なんだよ、この世界でも赤ずきんちゃんはポピュラーなのか?


「コホン。失礼致しました。とてもよくお似合いですよ。昨夜お貸ししたこの白いローブもよく似合っておいででしたが、ユウキ様には赤がよく映える」

「それなんだけど、この世界で赤は王族にのみ許されている色なんだよね? 俺がその赤に準ずる色を纏って大丈夫なのかな」

「ええ、よろしいのですよ。聖女とは国王に並び立つ存在。あなたはアウストレイルのすべての国で、王に比肩するお立場ですから」


 なにそれ。初耳なんですけど。

 荷が重いにも程があるだろ。アウストレイル全土で各国の王と並立するなんて聞かされても、俺にどうしろって言うんだ。俺は普通の男子中学生なんだぞ? 好きな女の子にも告白出来ないヘタレなんだぞ。そんな俺に国王に比肩して何をせいと。

 ああ、美月ちゃんに会いたいなぁ……。


「これからお部屋を出る際には、そのローブは必ず着用なさってください。ユウキ様のご尊顔を知らない者でも、纏うローブの色で身分は一目瞭然ですから」

「身分証明書みたいなもの?」

「はい。必ず護衛の近衛騎士を付けますが、万が一ということもあります。ユウキ様の尊き御身をお守りするためのものであるとご留意ください」


 そんな不穏な発言をしたセオドア・ティアニーは、にっこりと、それはそれは黒い微笑みを刷いた。




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