3.お国の事情
アウストレイルの九つの国では、数十年に一度の間隔で魔を祓う聖なる乙女が誕生してきた。九つの国々はそれぞれに数字を意味する国名を名乗っており、聖女は数字の順に国を選んで生まれてくると言われてきた。
第一を冠するカルネア・ユヌ
第二を冠するフュルスト・エーデ
第三を冠するイプシランテ・トルセラ
第四を冠するエバーレスト・カトル
第五を冠するモントラヴェル・クイーン
第六を冠するメイアンディナ・ヘクス
第七を冠するアンプルール・エフタ
第八を冠するオディリア・ユハト
第九を冠するシュテルテ・エナトス
今回、本来ならば第四に位置するエバーレスト・カトルに聖女が誕生するはずだった。時を待ったが、百五十年経ってもエバーレスト・カトルに聖女は現れず、順番を飛ばして他の国に誕生することもなかった。
魔を祓わなければ水が穢れ、樹木が穢れ、土壌は痩せ衰えていく。
すでに百五十年の間に各国の井戸が枯れ、河川の水位が下がり、旱害がアウストレイル全土で引き起こされていた。
世界が困窮している今こそ、七百年前に異世界より聖女を召喚したという儀式を執り行うべきではないかと九ヵ国会議で決定され、そうして様々な条件を満たした今日、召喚されたのが俺だということだ。
俺は頭を抱えた。
事情は理解した。納得できたかと言われれば出来てないと断言できるが、それが作り話ではなく、異世界だということも含めて本当の話であるなら、今すぐ帰してくれと喚く気にもなれなかった。
「とりあえずの事情は飲み込んだ。消化不良起こしそうな、不承不承の納得であることは理解してほしい」
「ええ、勿論です。我々の都合でお呼び立てしたのですから、ユウキ様のお怒りは真摯に受け止めるべきです」
「ひとつ、確認しておきたい。俺は男だが、聖女を召喚したんだよな?」
「はい」
「失敗したんじゃないのか」
どう考えても男で聖女はおかしい。人違いだったと言われた方が断然理解しやすい。座標が間違っていたのか、それとも定月家で間違いないなら、まさか姉貴が聖女!?
はっと瞠目する俺を眺めて、セオドア・ティアニーは麗しい顔に柔らかな笑みを刷いた。
「ステータス・オープンと唱えていただけますか」
「は?」
「ステータス・オープンです」
それって、かの有名な異世界転移、もしくは異世界転生ものの物語で定番の、ステータスが文字や数字で確認出来ちゃうアレですか。
まさか~と思いつつ、ごくりと唾を飲み込んだ。
え、マジで?
「………ス、ステータス・オープン」
唱えた瞬間、目の前に半透明のパネルが出現した。
「うっそ、マジかよ……」
本当に出た。ということは、ここは完全に異世界だということになるじゃないか。
じゃあ何か? 白ローブ集団は俺を拉致った謎のオカルト集団なんかじゃなくて、正真正銘異世界の王国の、宮廷魔導師集団だということか?
足下に現れた光る円環は、俺をアウストレイルへ召喚するための魔法陣だったってことか……。なんてことだ。
頭の整理が追いつかない。人違いだったにせよ、もう帰れないのだ。
「ユウキ様。称号は何と書かれておりますか?」
「え……?」
称号? そんなものどうでもいいんだけど……。
鬱々とした視線をパネルへ向けた。
【名前】 ユウキ・サダツキ
【性別】 男
【年齢】 13
【レベル】 68
【HP】 667/922
【MP】 15498/15498
【適性属性】 聖属性魔法 レベル100
「……………」
おい。何で初期からこんなレベル高いんだよ。MPおかしくないか。聖属性魔法レベル100って何だ。上限値は100でいいのか。これがMAXか。意味わからん!
半眼のままパネルを見つめていると、続きがあることに気づいた。
【適性属性】 水属性魔法 レベル74
【回避能力値】 73/113
うん? 回避能力値? 何だこれ?
首を傾げた瞬間、天啓のごとく思い当たった。
レシーブ練習でボールを拾いまくってきた経験値ってことか!? HPと一緒で上限より低いのは、部活で存分に運動してきたからか!
「ユウキ様?」
あ、そうだった。称号の確認だったな。
称号、称号―――。
「………………………は?」
書かれている称号の欄を、目を擦って、眇て何度も確認し直したが、どうやら見間違いではないらしい。
そんな馬鹿な!
【称号】 聖女
何でだ! 何でだ!?
俺は男だぁぁぁぁぁ!!