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2.人違いでは?

 



 謎の集団が半裸状態の俺を困惑した様子で見つめている。

 え。うちの風呂場はどこだ?

 石造りの広々とした室内に窓はなく、薄ぼんやりと発光する壁の灯りがここは定月家の脱衣所ではないことをはっきりと示していた。


 ここはどこだ―――ようやく異変を呑み込んだ俺は、白いローブ集団を最大限警戒する。

 変な宗教団体とか、オカルト集団じゃないよな? 知らない間に拉致られた? 家族は無事か!?


「おい……どうなってる」

「召喚したのは聖女だよな……?」

「でも……」

「ああ……胸がない」


 うるさいわ! あってたまるか!

 まごつく集団が揃いも揃って俺の真っ平らな胸を凝視している。


「ああ、でもまだ幼いのかもしれない」

「そうだな。顔も幼いし」

「ではこれから成長するということか」

「なるほどなるほど」


 なるほどなるほど、じゃねえよ! 確かにまだ成人してないが、いくら年を重ねようと胸は一生真っ平らなままだっつーの!

 無礼極まりない男たちを睨み付け、堂々と胸を張る。


「俺は男だ。胸なんてこれからもぺたんこのままだ」


 ざわっと騒然となった。


「そんな! では聖女召喚は、失敗……!?」

「いや待て、それは早計だ。召喚の儀は確かに成功している。失敗したのであれば、まず発動しない」

「ああ、ああ、確かにそうだ」

「では何と報告する? 聖女と?」

「いや……まあ、女性に見えなくもない」

「では聖女と?」

「この際勇者でもいいんじゃないか?」


 おい。俺は聖女でも勇者でもないぞ。何だそのふわっとした設定は。ゲームで言えばジョブだろう? そんな安直に決めていいのかよ。

 俺を拉致したのは確実そうだが、何なんだこの緊張感のゆるい集団は。家族までは拐っていない様子だけど、めちゃくちゃ怪しいぞ、こいつら。

 とりあえず、逃げるにしても半裸じゃ心許ない。何かされる前に防寒着と情報を仕入れたい。


「どうでもいいけど、寒いから何か上着くれない?」


 一様にはっと息を飲んで、あわあわと慌てだした。

 大丈夫か、この集団? 責任者とか指導者はいないのか。誰か今の状況をきちんと説明してくれよ。俺どうなってるの?


「これは失礼致しました。お恥ずかしいことに何も用意しておりませんでしたので、とりあえず今は私のローブを羽織りください。こんなもので申し訳ございません」


 一人の男が眼前で膝をつき、フードを下げた。

 銀色の長髪をゆるく三つ編みにして肩に垂らした美貌の青年が、纏っていた自身のローブを俺にかけてくれる。今まで羽織っていたからか、ほんのり温かくて覚えずほっと息を吐いていた。


「失礼ついでにお名前を伺っても? 私はセオドア・ティアニーと申します。エバーレスト・カトル王国宮廷魔導師筆頭を任ぜられております」

「あ、ご丁寧にどうも。定月(さだつき)由輝(ゆうき)と言います。あ、逆になるのか。ユウキ・サダツキです」

「ユウキ様、ですね。ありがとうございます。姓をお持ちということは、貴族のご出身ですか」

「うん? いや、普通のサラリーマン家庭の次男坊ですけど……姓は貴族だけなんですか?」

「はい。我が王国に限らず、アウストレイル全土がそうです」

「へぇ………」


 いや、いやいやいやいや、ちょっと待て!?

 会話の流れから何気に看過しちゃったけど、めちゃくちゃ重要なこと言ったよな、この人!?


「ア、アウストレイル?」

「はい。この世界はアウストレイルと言います」

「エバーレスト・カトル王国……?」

「はい。九つある国のひとつで、ここはエバーレスト・カトル王国王宮の地下になります」

「魔導師、筆頭」

「はい。宮廷魔導師筆頭を任ぜられております。聖女召喚の責任者です」


 ち、地球ですらねぇ………! それともからかってるのか?

 適当なことを言って煙に巻こうって魂胆か、オカルト集団の妄想か。どっちだろう。


「聖女様は数十年に一度誕生するとされていますが、すでに百五十年生まれておりません。七百年ほど前に異世界より聖女を召喚したと文献に記されておりましたので、今回異世界より召喚を試みたのです」


 どういうことだ。聖女召喚? 男なのに? 間違えて召喚された? でも失敗じゃないとか言ってたよな。これ集団妄想とかじゃなくて、現実?

 仮に本当だとして、そもそも何で俺が召喚された? しかも風呂に入る直前って。下脱いでなくて本当によかった。


「なんか……よくわからないけど、ちゃんと帰してもらえるんですよね?」

「申し訳ございません……召喚は一方通行でして、元の世界へはお帰りになれません……」

「は……? 嘘だろ……?」

「本当です。ユウキ様にはこちらでお過ごし頂きたく」

「ふざけんな! 俺にだって家族がいるし、あっちでの生活があるんだぞ!」

「理解しております。それでも召喚せざるを得なかった経緯を、どうか聞いてはくださいませんか」


 憤る俺の両手をぎゅっと握って、セオドア・ティアニーは空を切り取ったような澄んだ瞳でじっと俺の目を覗き込んだ。





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