17.聖女召喚とは
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「………なるほど」
そう言ったきり、セオはすらりと長い指を顎にかけ、沈思黙考した。俺はそれを黙って見つめているのだが、悪戯がバレた小さな子供のような居心地の悪さを覚えてしまうのは何故なのか。
ちらりとネイトに視線をずらせば、苦笑が返される。大人しく怒られておきなさい――母親のような慈愛に満ちた表情で……おい騙されねえぞ。とばっちり受けたくないだけだよな? そうだよな、ネイト!?
侍女たちも似たり寄ったりな反応しか返さない。孤軍奮闘だ。ちくしょう。
まるでミケランジェロのピエタ、美しい聖母マリアの彫刻のように見る者を魅了する麗しの魔導師長殿が、彫像化を解いてこちらを見た。
「水球の応用であっても、単純な水魔法に異次元へと繋がる高度な魔術式は組み込めません。今後の研究によってはアウストレイルの間であれば通信の可能性も見込めるかもしれませんが、異世界への扉は大掛かり且つ複雑で莫大な魔力消費を必要とします。今回ユウキ様を召喚した際にも、私を筆頭に魔術師団の精鋭二十名でもって挑みました。それも魔力が満ち満ちた、外的要因をふんだんに利用してようやく成功した召喚の儀です。水魔法であちらへ繋がってしまうなど、私は寡聞にして存じません」
お役に立てず申し訳ございません、と頭を下げられた。
「えっ、いや、セオが謝ることじゃないだろ!?」
「いいえ。魔導師長を名乗っていながら、魔法に関してお答えできないなどあってはなりません」
「いや、でもっ」
「だからこそ、共に検証、研究に励ませて頂きたく存じます」
「えっ? えっと……」
「推測ではありますが、恐らく聖女特有の聖属性が某かの作用を起こし、不可能を可能にしたのかもしれません」
「あ、そっか。聖女の力、か」
「はい」
なるほどな。明確化されていない聖女の能力が関係しているかもしれないのか。
「聖女の能力って、祈りなんだよな?」
「左様でございます。祈ることで浄化し、奇跡を起こすのです」
となると、地球を、実家を想い、家族に会いたいと願ったことが祈りとなって実現した結果だった、ということだろうか。そんな解釈で合ってるのかな。
正解を誰も知らないのだから、いろんな可能性も否定できない。
「それで、セオ。それからネイトも。俺の姉貴が二人に会いたいって言ってたんだ」
「姉君と、ですか?」
「うん。今晩また試してみようと思ってて、一緒に居てくれないかな」
「ユウキ様と、夜を共に……!?」
セオの顔が驚愕から歓喜に切り替わり、ネイトは真っ赤になって視線をさ迷わせた。
おい。なんだその恥じらう乙女のような反応は。男三人で部屋に籠るだけだろ。何を想像すれば赤面なんて事態になる。セオも歓喜する意味がわからない。新種の魔法に興味津々という意味での興奮なら文句はないけどな。どっちだセオ。
「しかし我々に会いたいなどと、もしかして姉君もこちらの予言の書をご覧になったのでしょうか?」
「寧ろかなり詳しい。俺は姉貴から聞いた」
「なんと……」
「たからさ、本当は召喚されるべきだったのは姉貴じゃないのか? 定月家で座標が間違っていないなら、微妙に位置のズレがあったんじゃないかって思うんだけど。魔法陣が顕れた脱衣所は、ちょうど姉貴の部屋の真下だし」
それだとピースが綺麗にはまるんだよな。
「いいえ。それはあり得ません。召喚の魔法陣は必ず聖女の下へ開きます。ユウキ様の下に召喚魔法陣が顕れたのならば、間違いなくあなたが聖女です。仮に姉君の下で開かれた魔法陣から姉君を救い出し、身代わりとなってユウキ様がこちらへ招かれたのならば話は別ですが」
そうではないでしょう?
言外に込められた言葉に嘆息した。ああ、違う。間違いなく召喚の魔法陣は俺の足下に顕れた。姉貴の部屋ではなく、姉貴を庇ったわけでもなく。
「称号に聖女と記されているのです。間違いなどありえません。ユウキ様、あなたが聖女ですよ」
「男なのにな」
「男性であられても、ユウキ様が聖女です」
聖女の定義って何だろう。聖なる乙女だから聖女じゃないのか。
ああ、でも男の魔女もいたらしいし、男の聖女がいてもおかしくはない、のか? だめだ、段々とこんがらがってきた。
頭痛を覚えた、露の間。
突然前触れも何もなく、バン!と無遠慮に扉が開かれた。
「やあユウキ! 昨日ぶりだね!」
「ノックくらいしろや残念王子!」
「ああ、すまない。つい気持ちが逸ってしまって」
「それ初日にやらかした時の言い訳な。次ノックなしに入ってきたらはっ倒すぞ」
「相変わらずつれないなぁ。それに私のことはノルと呼んでくれとお願いしたじゃないか」
「自分の要求だけは覚えてやがるのか。呼んでも王子か殿下だ」
「味気ないことを言ってくれるな」
「何度言われても愛称なんか呼ばねぇぞ」
「ふふふ。照れ屋さんなのかな」
「頭の中の花畑に除草剤撒いてやりてぇ」
何を言ってもふふふと楽しげに微笑む王子は、やっぱりマゾなんだと思う。
そう確信を抱いた時、ふと刺すような視線を感じた。王子の背後で射殺しそうな殺気を放っている、青い髪をした青年が俺を睨んでいる。なんだ?
「ああ、紹介がまだだったね。彼はクラウド・ウォルドロン。宰相の息子で、私の側近の一人だ」
俺の視線に気づいた王子が朗らかに紹介したその名に、ゆっくりと瞠目する。
姉貴の言葉が脳内で再生された。
『名前はクラウド・ウォルドロン。第一王子レナルドの側近で、宰相の息子。そしてレナルドの婚約者、ビアトリクス・ウォルドロンの兄。気をつけてね。この男、妹至上主義者だから、ビアトリクスの恋敵になる聖女には殊更辛辣なの。攻略キャラの中で一二を争う難易度だったわ。クラウドにとって最上なのはビアトリクスだから、好感度めちゃくちゃ上がりにくいの』
こいつか―――っ!?
おい姉貴! 三日以内どころか翌日に現れたぞ!
面倒臭ぇぇぇぇ!!