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14.姉の心

ブクマ登録&評価ありがとうございます.゜+.(・∀・)゜+.゜

 



 姉貴が水魔法の中に顕れてから十五分ほど経った。

 どうやら液晶画面をイメージしたことで、液晶テレビ24インチサイズの長方形水魔法になっている、らしい。どういう理屈かはまったく分からないけど、この謎現象は間違いなくリアルタイムで地球と繋がっているようだ。Webカメラで会話しているようなものだろうか。

 アウストレイルがそもそもデータの世界なのか、乙女ゲーム『遥かなる時を越えて』に酷似した異世界なのか、その辺りが判然としない。腹は減るし眠くもなるので、まるっきりデータ上の疑似体験をしているだけだとは思えない。


 現在、姉貴の騒がしさに訝しんで部屋を覗いた両親と兄貴が揃い踏みだ。両親には泣かれ、兄貴はデカイ図体をくの字に折り曲げて床に転がっている。

 何があったのか端的に説明するならば、攻略キャラの話をいろいろ聞きたい姉貴の邪魔をするように、兄貴が聖女として召喚された俺をしつこくからかったからだ。

 振り向き様に兄貴の股間を容赦なく蹴った瞬間、俺と父さんが咄嗟に下腹部を押さえたのは余談だ。

 父さんが慌てて駆け寄って兄貴の腰を叩いてあげているけど、あれ大丈夫か……? さすがに同情するぞ……。


 天誅、と冷ややかに言った姉貴に、思わず俺は下腹部を守りながら苦言を呈した。


「姉貴、いくらなんでもそこは蹴っちゃ駄目だ……」

『ふん。これくらいやんなきゃあの男は黙らないでしょ。いい気味よ』

「兄貴の子種が死滅したら、定月家の跡取りはどうするんだよ」

『私がたくさん産むから問題ないわ。あんなのが増殖するよりマシでしょ』

『光ちゃん。(かず)くんの子供だってお父さんお母さんにとっては大事な孫よ?』

『そうやって無駄に甘やかすから増長するのよ、母さん。兄さんは一回死ねばいいと思う。動物病院に連れ込んで去勢すればいいわ』


 し、辛辣……。南~無~と一応兄貴に合掌。

 せめて人の病院に連れていってあげてくれ。


『それで、ゆうちゃん。いつ帰って来れるの? 出席日数だってあるし、あんまり遅いと勉強もついていけなくなっちゃうわ』

「あ~……それが、そっちに戻る方法がないらしくてさぁ……」

『『……え?』』


 見事なまでに両親の声が揃った。兄貴の腰を叩いていた父さんが猛然と駆けて来る。


『どういうことだい? うちの大事な末息子を拉致監禁した上に、帰さないだって? 責任者を呼びなさい。事と次第によっては父さん裁判も辞さないよ』

「いや、父さん、その気持ちは凄く嬉しいんだけどさ、こっち異世界だから裁判意味ないって言うか」

『百歩譲って異世界だとしてもだ。父さんは絶対に由輝を取り戻すまで諦めないからな』

『お母さんだって許しませんよ。ゆうちゃんはお母さんがお腹を痛めて産んだ大事な大事な子供なんだから。訳の分からない人達に無理やり奪われるために産み育てたわけじゃないのよ。お母さんも絶対取り戻すんだからね。ゆうちゃんをあげるもんですかっ』


 両親の愛情がじんわりと心を満たし、心細かったんだなぁと思った。へへへ、と泣き笑いを浮かべる。


『まとまった? 話まとまったわね? じゃあ私のやり込んだバイブル、《はるこえ》続編の話がしたいんだけど』

「姉貴って……」

『光』

『光ちゃん』


 両親から厳しい視線を向けられているというのに、姉貴の態度は一貫している。パッと俺に見えるようにゲームソフトと書籍を持ち上げた。

 ゲームソフトのパッケージと攻略本らしき書籍には、堂々と『遥かなる時を越えて2』と書かれている。そして何より、パッケージに描かれたキャラ達が、設定資料集と書かれた書籍の表紙のキャラ達が、すでに俺が知り合っている三人も含まれているという衝撃の事実!

 さらに、中心に描かれている聖女と思しき制服姿の女の子が、間違いで召喚された俺のポジションという残酷な事実!


『由輝がすでに知り合ってる三人は、この銀の長髪お色気イケメンのセオドア・ティアニーと、赤髪短髪に切れ長の目元が男っぽくてカッコいいネイト・ギャレットと、金髪碧眼の王道イケメン、レナルド・エバーレストで間違いない?』

『光。そんなことは後回しにしなさい。今は大事な話をしているんだからね』

『これも大事なことなんだってば! と言うか、これこそアウストレイルで生活してる今の由輝には必要不可欠な情報なの! 私だってちゃんと考えてるんだから! これ乙女ゲームだけど、バッドエンドも多数用意されてるから、由輝を守る意味でもちゃんと伝えておかないとダメなの! 私にとっても由輝は大事な弟なのよ!』

「あ、姉貴……!」


 ごめん、誤解してた。ただ大好きなゲームの世界を追体験したいだけなのかと思ってた。やべぇ、感動して泣きそう……っ。


『それに動いて喋るリアル推しキャラがそこにいるのよ!? ここでぐだぐだしてても埒が明かないじゃない! 私はさっさと推しキャラに会いたいのよ!』


 ああ、うん、それでこそ俺の姉貴だよ。感動の涙を返せよちくしょう!

 ほら見ろ! 父さんも母さんも呆れ返った目で見てるぞ! うちの兄姉はろくな奴いねぇな!





さて、お姉たまの推しキャラとは誰なのでしょうか。

まだ全員揃い踏みではないのに、推しキャラを語るのか、お姉たま!

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― 新着の感想 ―
[一言] お兄さん… 南無…… ホントに急所すぎるからあそこは… それにしてもお姉さん少しくらいは心配する素振りしてあげて~w
[良い点] ポットから注いだばかりのあったかい、むしろ熱いお茶をですね、飲んでいたんですよ。 振り向き様に兄貴の股間を容赦なく蹴った 少しリアルに零れて布団が布団が大ピンチに。 淡雪さん、少し前に…
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