第23羽 確信
ライガー達の決めていたことはシンプルだ。
リラがアヤカシだという証拠もないし、理詰めで話したってはぐらかされるだけだろう。だから芝居をうつことにしたのだ。リラさんはアヤカシ。俺達はなんでも知っている。そういう風を装ってみようと。
それがまさか今日すぐにその機会が訪れるとは、誰も思わなかった訳だが。
ともかく、化けの皮は剥がされた。
オーガとかいうアヤカシが居たことは想定外、バニラは戦闘不能。俺が二人を守る。俺が斃すしかない。
ライガーの決意が紅蓮の炎と化して、その身を紅い戦士へと変えた。
ゼンライガーである。
「クソがぁッ!」
ソアラが両手を突き出して構える。両の掌から火炎放射がゼンライガーに襲い掛かる。
「ふんっ!」
ゼンライガーの払う大剣、その剣風は炎をかき乱す。視界を遮る炎が消えた一瞬でソアラに詰め寄ると、頭を鷲頭掴みにした。
「おい、やめろ。離せ!」
城の外壁に穴をあけながらオーガがよじ登ってきている。殴ってあけた穴を足場にして、のそりのそりと登ってくる。そのオーガの真上から、ソアラをつかんだゼンライガーが落下する。
ゼンライガーが片手で剣を振るう、体勢を崩しながらもオーガも金棒で受けてたち、両者とソアラがまとめて落下する。
垂直に振るわれる大剣。水平に打ち払う金棒。ガキン――。
もう一度。
二度の打ち合い。
高い建物といえとたかが知れる。わずかに距離が離れたあとの三度目。地面までの距離が――近い。
オーガが全身をひねる。ねじったゴムが弾性で元に戻るような回転で、フルスイングした。
すばやくソアラを捨てたゼンライガーが、両手で柄をもって受ける。
踏ん張る足場もなく伝わった衝撃が、大剣をとおして全身を回転させる。
「ガァァァァァー!」
きりもみ回転しながら地面に叩きつけられたオーガとゼンライガー。盛大に舞い上がった土煙が落ち始めるよりも、二人の再衝突が早い。
「はぁぁぁッ!」
衝突。衝撃。緩衝なき激突。
「丈夫な奴め」
合気。わかりやすく言えばタイミングが合わず、ゼンライガーが弾き飛ばされる。さほどダメージはなくオーガの丈夫さを毒づいた。
押し飛ばしたゼンライガーを追ってオーガが走る。朝廷からの調整によってバニラを殺さないようにと命令されていた為、城内では無意識に手加減させらていた。その枷が今はない。視界に映るのは好敵手一騎のみ。
畑を囲う柵を壊してゼンライガーが転がる。立ち上がった背面には石垣。眼前には迫り来るオーガ。
石垣を砕きながら金棒と大剣が火花を散らす。
吐瀉物で汚れた口元をぬぐったソアラが、一人と一体の戦闘を眺める。遥か頭上では城の壁に空いた穴からフクオカが見下ろしていて、ソアラと目が合うと顔を引っ込めた。
剣と金棒のぶつかり合いは殺意の純度を増しながら繰り返され、その速度も一撃一撃の威力も増してゆく。
万の大砲が暴発するような轟き。大地が振動し、空気さえ軋みをあげているようだ。巻き起こった風に鉄の臭いが混じる。
「くそっ化け物どもめッ!」
朝廷から貸し与えれれた調整済みのアヤカシ、その威に引けをとらない異端者。異次元の闘いを見たソアラは城へと走り出した。
指令などどうでも良い。大事なのはリラだけだ。そのリラを守るために加担した仕事ではあったが、勝負がどう転ぶかわからない。
異端者が勝つようなことになれば、次はリラの身が危うい。
城内はいつも薄暗い。蝋も電気も金がかかる。ソアラは人魂のような明かりを自ら浮かべ、階段を三段飛ばしでかけ上げる――。
「――痛っ!!」
目覚めは激痛とともに訪れた。赤と白が激しく点滅し真っ青に染められるような錯覚。あまりの痛みで悪寒がしているのだ。
「起きた?」
フクオカの平坦な声がする。反射的に声の方を向く、身体に障らぬよう首だけを回した。
そして気づく、フクオカとの距離が近い。それもそのはずだ、いまバニラの頭はフクオカの大腿の上だ。
予想だにしない状況に焦りながらも、同時に記憶がはっきりとしてくる。
「ライガーは?」
痛みは口数を減らした、聞きたいことは多くあるが、この質問でこと足りるような気がした。フクオカのふとももは柔らかくも弾力があり、やや細いが十分気持ちがよかった。
「下で戦ってる」
フクオカもバニラに釣られたのか返事がやたら端的である。もしかしたら内心では照れているのかもしれない。バニラはそんなことを思った。
「……ありがと」
下界からは重い金属と金属がぶつかり合う音が聞こえる。それに混じってドタドタと慌しい足音が近づいてきていた。
バニラは超聴覚で音を拾ったのかと思った、それならばまだ遠く、一階か二階かの下層にいると。そして即座にそれが間違いで、足音の主は近くまで上って来ていると理解した。変身が解けている。
「フクオカちゃん、ソアラが……」
「慌てないで」
フクオカの様子は変わらない。
「まだ動けそうにないね」
フクオカのつぶやきは、バニラに問うたというには投げやりなニュアンスで。実際、確認の為の独り言だった。
階段を上がったソアラが、二人のいる室内をちらりと見に来たが、一言も発さず階段をさらに上へと駆け上がった。
「バニラさん、まだ動かなくていいわ。私達の勝ちよ」
バニラは理解が追いつかなかったが、フクオカがそう言うのならそうなのだろうと思った。
足音が増えた。今度は階段を降りてゆくようだ。それにしてもやけに慌てている。
「ありがと」
「どういたしまして」
再度言ってみたお礼に、やはり平坦な返事が返ってきた。




