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虹徹剣羽 ゼンライガー  作者: 雷然
虹の章
15/33

第15羽 悲しみが、彼の中から溢れ出た。

 封書と書置きを読んだバニラは、(つと)めて冷静でいようとしたが、肩の震えは怒りを伝えるのにありまった。

「ライガー、ジュズ様ってあなたの……」


「母だ」


「ええ、そうだったわね」


 バニラ以上に怒り狂ってもおかしくはないライガーは、一見冷静に見えた。少なくともどこかが震えているようなことはない。


「バニラ、案内を頼めるか?」


「……わかった」



 昔、ジュズを連れ去りそして今、フクオカを連れ去った大名カイザー。彼の居城は、四階建てのオフィスビル、屋上の四隅にシャチホコと(くだ)った(むね)らしき物がついていることを除けばだが。なんにせよ目立つ構造物であった。


 ライガーにどうするの? とは言葉にできなかった。案内する必要がないほど目立つランドマーク。

 フクロカの残した書置きに、バニラに読んでもらうようにと指示が無ければ、ライガーは独りで突っ走っていたかもしれない。

 奪われた人を取り戻す。それは確定事項だ。問題はその方法。

 フクオカは私に何をさせようというのか、バニラは雲のような答えを見つけていた。

 どんな事態になるかわからないが、ライガーが困らないようにするという、見えているけど不定形で遠い答えを。



 見えてきた正面入り口、大名と事を構えることに恐れはない。昔は何も出来なかったが今は違う、変身がある。ライガーは悪逆非道な大名から、さらわれた人々を解放しようと決めた。これは正義の行い、バニラがよく言うヒーローとしても正しい行いのはずだ、すべきと思う事と、やりたい事が一致したライガーに、迷いはない。


 封書にはフクオカがバニラの客人であることは重々承知しているが、客人を后に選ぶという行為は、大名同士の不可侵をやぶったことにはならないという内容が、無駄に多い修飾語で記されてあった。

 何が不可侵だ、暗黙の掟なんて形のないもの知ったことじゃない。フクオカを見捨てたらヒーローが廃るというものだ。


 入り口を守る騎士達は無言で入ろうとする男女を止めた。何も出来ないだろうが、念のため警戒するようにと言われた二名だ。

「ここは大名、カイザー様の居城だ、許可の無いものを立ち入らせることは出来ぬ、即刻去るがよい」

 抜き放った剣で威嚇する。


 立ち止まった二人に去る様子はない、女が着物を放り投げ、両の拳を中段に構える。

 男は背中の剣を抜く。騎士がいよいよと身構えるのを、まるで意に介さず、大型の剣を地面に突き刺した。


「外装――覚醒(アクティブ)!」


「変身ッ!」


 巻き起こる稲妻と焔。力の奔流(ほんりゅう)は騎士達を吹き飛ばし、一人は壁に激突し、一人は建物の奥まで吹き飛んで、見えなくなった。


 にわかに内部が騒がしくなる。

 姿を変え、力を解放した二人は跳んだ。


 バニラが屋上に小さな音で着地する横で、ゼンライガーは大きな音をたてて、屋上を踏み抜いた。脇の下までがずっぽり穴の中だ。


「大丈夫?」

 差し出されたバニラの腕。


「いや、大丈夫だ、少々跳びすぎた」

 バニラ申し出をやんわり断ると、剣を握ったままの腕を屋上の床に叩きつける。

 けたたましい破壊音とともに大穴が開いて、ゼンライガーは自由落下、すぐに着地する。

 親玉がいるのは最上階。おそらくこのフロアにいるはずだと、目星をつけていた。


 ゼンライガーのあけた大穴から、バニラが着地する、彼女は目を閉じ、意識を音に集中する。ヘルメットに備わる超聴力は目的の人物を探し当てた。


「近いわ、こっちよ」

バニラとゼンライガーは、連れだって廊下を歩いてゆく。贅を凝らした高級ホテルのような内装。その奥、一際広々としたフロアに出る。


「すぐにお兄様が来ます。あなたの悪行はここまでよ!」

 手を後ろに回して繋がれたフクオカが、王冠をかぶった男に強めの口調で話している。フクオカの足元には、男の王冠を一回り小さくしたような、冠が転がっていて、侍女らしき者が付近でおろおろしていた。

 三段高い位置にある玉座に、どっしり座った男が、侵入してきた珍客を見下ろした。


「兵は何をしておる?」

「お兄様!」


「無事か? この変態になにもされなかったか?」


 ゼンライガーが剣を、大名カイザーに向ける。

「返してもらうぞ人攫(ひとさら)い。いままで誘拐してきた人々を解放しろ」

 

「愚かな、おい誰かおらぬか!」


 カイザーの呼び声に女達が四方からかけつけてくる、誰しも美しいドレスで身をつつみ、頭にはフクオカの足元に転がっているものと同じ冠をつけている。

 そしてその中にはライガーの知っている顔もあった。


「おふくろ!」


 その姿はライガーの記憶よりも、いくらか老けたようにも見えるが、実際に経過した年月を考えればかなり若く見えた。そしてその手は幼い子供の手が握られていた。


「誰ですかあなたは? あなたのような不届き者に、母親よばわりされる筋合いなどありません」


 変身を解いたライガーは、再度ジュズに声をかける。

「ほら、ライガーだよ。ちょっと年をとったが正真正銘あなたの息子だ。親父もおふくろの帰りを待ってる。一緒にうちに帰ろう」


「らいがー? ああいましたね、そんな子も。もうそれだけ大きくなったのなら母親なんていらないでしょう。それにカイザー様に無礼をはたらくような子供なんていりません。自害なさい」


 周りの后共(きさきども)も口々にライガーを(ののし)る。

 ライガーは膝から崩れ落ちた。 


「ジュズ様、私のことはわかりますか? 則宗家のフクオカです。当時はまだ小さかったのではっきりとは覚えていませんが、遊んでもらったことがあるはずです。ジュズ様はお優しい方だったと記憶しています。ライガー様はジュス様のことを、ずっと心配しておられました。どうか優しい言葉をかけてあげて下さい。ライガー様が、お兄様があんまりですッ!」


 バイザーをあけたバニラが、ライガーをささえる。

「カイザー。あなたの異能ね? 女の心を操って自分のものにするだなんて、最低のクズね」


 余裕の表情を崩さないカイザー。バニラの毒舌に答えたのはジュズだった。


「私達は操られてなどいません、心外もいいところです。私達はカイザー様をお慕いしております」

 その言葉をカイザーが引き継ぐ。


「我が異能を教えてやろう。愚かな者よ。それは快楽と恐怖だ」

 カイザーは、大名の地位にふんぞり返っているだけの小物。というのがバニラの認識であった、それ急に偉大な王を目の前にしているかのように感じた。

 畏怖といってもいい、偉大すぎる王の前で自分のような矮小な存在が口を聞くことなど許されるのか、膝を折って許しを得なければならない、そんな気がしてくる。


 しかし。


「なるほどね、たしかに怖いわ。でもそれだけね」


「ああそうだろうさ、この程度が我の力。快楽も同様、我と(しとね)を共にすると、凡人どものそれより豊かな快楽を得られる。ただそれだけの力」


 そして玉座から立ち上がったカイザーは、豪華な刺繍のあるマントをはためかせて、強く言い放つ。


「さぁわかったか、愚かな者どのもよ、男とブサイクに用はない! そこの娘を置いて即刻立ち去れ」


 カイザーの言葉を聴いてライガーが立ち上がる。バニラもフクオカも、カイザーも、その動きを目で追った。


「ライガー」

「お兄様」


「……どうした? ほら帰らぬのか?」


 集まってきた騎士達は抜剣し、ライガー達を遠巻きに囲い始めている。

 ライガーは剣をカタカタ震わせながら切っ先をジュズに向けた。


「答えろ、親父や俺より、その男を選ぶというのだな? もう俺達を愛していないというのだな?」


「ええそうです。田舎の汗臭い男なぞとうに忘れました」


「わかった。――変身」


 悲しみが、彼の中から溢れ出た。


 

次回予告


もし太陽と炎と血が青ならば、情熱の色とは青だったのだろう。


少女の唇が、情熱よりも紅く染まる時、その言葉は何色か。

つむいだ色は何を染めるのか。


「第16羽 赤い、紅い、あかい」

燃えるのは炎だけとは限らない。

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