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白竜の姫  作者: 銀ゆり
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残された子

 カイルは愛された記憶がない。

 小さい頃に母である女王ゾフィーは亡くなってしまった。

 それから後を追うように父も亡くなった。

 死因は不明だが朝、目覚めない父を心配した使用人がベットに起こしに行くと父はまるで眠ったかのように死んでいたらしい。

 暗殺、毒殺様々な噂が流れたが死因は分からず女王ゾフィーが亡くなり精神的にまいっていた父が心労のあまりに突然死したのだろうと医師たちは見立てた。


 唯一の身内の叔父のマクシミリアン王は女王ゾフィーと似ていないカイルに興味を持たなかった。

 興味を持たなかっただけではなく時折、心底嫌そうな目で睨まれることがあり叔父は自分が嫌いなんだと察し必要最低限しか触れ合わなかった。


 メイド、教師は良くはしてくれたがカイルに情をかけてマクシミリアン王の不興を買うのが怖いせいかよそよそしかった。


 ある日、叔父が言った。


「カイル、城を出てローゼンベルクの家に行け」


 カイルは5歳、よく分からないが冷たい城にいるよりもたまに会う宰相のローゼンベルクの方が親しみが持てた。


「分かりました」


 その日を境にカイルは城に戻る事はなかった。

 周囲の者達はマクシミリアン王が王位継承者を追い出し妻を娶り自身の子を王位につけるべく前女王の息子を追い出したと思った。



 マクシミリアンはカイルを宰相ローゼンベルクに預ける事で少し心が軽くなるかと思った。


 カイルの父、エドガーを殺したのはマクシミリアンだった。

 姉のゾフィーの喪が開けた日にマクシミリアンはエドガーの部屋を深夜に訪れた。


 静かに眠る恋敵を暗い瞳で見た後にマクシミリアンは自分の手に魔力を宿らせてそっとエドガーの左胸に指を差し込み心臓を鷲掴みにして握り潰した。

 握り潰す瞬間、エドガーが苦しそうに呻くのを嬉しげに笑いゆっくりと嬲るように殺した。

 血を一滴も零さずに心臓を潰した後に指を抜きながら傷を塞ぎ誰にも分からないようにする。

 握り潰した瞬間マクシミリアンは笑った。

 長年の憤りをぶつけて心底嬉しそうに…ゾフィーの恨みを晴らしたと嬉しそうに笑いながら誰にも見つからないように次に王子の部屋を訪れた。


 スヤスヤ眠る王子を見てマクシミリアンは憐れに思い小さく呟く。


「可哀想だがお前がゾフィーを殺した…報いを受けろ」


 その声に目覚めたのか王子が目を開いた。

 王子は2歳になったばかり眠そうにマクシミリアンを見る。


「────────!!」


 開いた瞳は宵闇の青に金色の虹彩が瞬いている…ゾフィーと同じ魔眼だった。


「ゾフィー」


 マクシミリアンは王子を残し震えながら自室に戻った。


 その日からマクシミリアンはカイルを以前より更に疎ましく感じるようになった。


 髪色も違う、姉に全くにない顔、性別も男、なのに瞳だけはゾフィーそっくりな、忌々しい子供…。


 マクシミリアンは自分自身でカイルを殺したくても殺せないジレンマに苦しんだ。

 この国もこの城も自分とゾフィーだけの大切な場所だ。

 忌々しいあの男の子供がいずれ王の間に座る事を考えるだけで腸が煮えくり返る…かといってマクシミリアンはゾフィー以外は愛せなかった。

 即位してから数多の縁談話が舞い込んだ。

 それをマクシミリアンはゾフィーの喪が開けぬうちは…と曖昧に誤魔化していた。


 そんな時に宰相ローゼンベルクから王子を一時的に預かりたいという申し出があった。

 申し出の理由は丁度、自分には王子と同い年の末っ子がいる事、城は大人ばかりで両親のいない王子の為にも同年代と共に暮らすのは良い刺激になりましょうと提案され了承した。

 周囲の側近はゾフィー女王の忘れ形見が城にいてはマクシミリアン王の縁談話が進まないのではと宰相の提案を受け入れた。


 ローゼンベルクは別の考えを持っていた。

 ローゼンベルクはずっとマクシミリアン王が眠れていないのを心配していた。

 ゾフィー女王に心酔し誰よりもゾフィー女王を愛していたマクシミリアン王…ゾフィー女王を失った心の傷は深い。

 ローゼンベルクはマクシミリアン王はゾフィー女王と劣らず素晴らしい執政者となるはずだと信じていたがゾフィー女王を愛するあまりに歪んだ感情をカイルに持っているのではないかと気に病んでいた。

 それ故にローゼンベルクは叔父と甥は離れて暮らすのが安全であると思いカイルの養育を申し出たのだ。


 カイルはローゼンベルク家に来てから初めて家族団欒というものを知った。


 ローゼンベルク家の子供達は長男、長女、次男の三人兄弟で末っ子のユリウスはカイルと同い年、二人は兄弟のように扱われた。

 家長のオットー・ローゼンベルクは寡黙な性格。

 妻のオリビエは明るくおおらかな性格でカイルを王子だからと特別扱いはせずにユリウスと同じように愛し時には厳しく叱った。


 城を出てからのカイルは城にいた頃のような感情の無い表情は消え子供らしくなった。


 ユリウスと共に勉学や剣を学びすくすくと成長していくカイル王子。

 ローゼンベルクは勉学に秀で剣術も難なく習得していく様を見て安堵していた。

 次期、王はカイル王子と…。



 夕日が沈む宵闇が訪れるとマクシミリアンは苛立った。

 宵闇はゾフィーの瞳を思わせる。

 同時にゾフィーがいない絶望も押し寄せる。

 マクシミリアンは毎夜、悪夢を見るようになった何度も見たはずの夢なのに目覚めると夢の記憶は朧気で目に焼き付いたのは─────

 白いドラゴンと宵闇の瞳に金の虹彩、自分自身の死にゆく姿…マクシミリアンは予知夢だと確信した。

 マクシミリアンは夜毎に訪れる悪夢に苦しんでいた。

 そんな時に竜の国カナンで珍しいホワイトドラゴンが誕生したとの噂話が耳に入る。


 マクシミリアンはホワイトドラゴンを殺さなければ自分が殺されると…宵闇の瞳に金の虹彩の魔眼を持つカイルも殺さねばと…そう決意した。

 ──────それは狂気の始まりだった。







マクシミリアンの鬱っぽい話が辛し…でもマクシミリアンの言い分も書かないとなぁーと他にも色々書きたいのになー

読んでくれる方ありがとうございます!励みになります!ちゃんと完結するまで頑張ります!

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