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白竜の姫  作者: 銀ゆり
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美しい想い出

 仲の良い姉弟だった。

 姉のゾフィーと弟のマクシミリアンは二つ違いの兄弟だったが小さい頃は見た目は瓜二つ。

 金の髪に紺碧の瞳、白い肌。誰もが美しいと思う容姿。

 マクシミリアンは美しく聡明な姉を崇拝するような気持ちで慕っていた。

 ゾフィーも慕ってくれる弟を愛していた。

 アストリア王国は兄弟の能力に差異が無ければ男女の区別なく長子が王位を継承する。

 マクシミリアンにとってゾフィーは女神のような存在で当然、ゾフィーが即位し将来は姉を補佐していきたいと切に願っていた。


 マクシミリアンは姉とずっと一緒にいることを疑うことなく信じていたが…ゾフィーが20歳の時、ある男が姉と一緒にいるのをよく見かける事に気付いた。


 男はアストリア王国の若き将軍、エドガー・フランツ・バーデン25歳。

 黒い髪に琥珀色の瞳、姉の神々しさには適わない容姿。

 大柄な体躯は男性らしく鍛え抜かれており顔立ちは整っていて一見冷たい印象に見えるが気さくで話しやすく女性に人気があると言う話を聞いた事がある。

 マクシミリアンはエドガーが姉と一緒にいるのを腹立たしく感じていた、一方的にエドガーが姉に言い寄っているのだと信じて疑わなかった。

 あの美しく聡明なゾフィーが無骨な男に靡くはずはないと信じていた。

 姉には姉と同じような金の髪、紺碧の瞳、物静かな学士のような男性が似合うと思っていた。

 姉と同じような金髪、紺碧の瞳、学士のような男性────それはマクシミリアンそのもので、

 マクシミリアンは中性的な美しさの男性だった、将来は宰相として姉を支えていくつもりだったので誰よりも勉学に励み身体を鍛える事はしなかった。

 日を浴びる機会も少なく白い肌に金の髪は姉と同じように長くゆるく結び、王宮内を歩く姿をうっとりと見つめる女性も少なからずあった。

 マクシミリアンは姉以外に興味は無く女性達の注目を集めても疎ましく思うだけで何も感じなかった。

 マクシミリアン自身はゾフィーのためにだけ存在していると自負しており盲目的にゾフィーをゾフィーだけを愛していた。

 マクシミリアンにとってゾフィーが全て、それ以外は必要が無いくらい姉を愛していた。



 ゾフィー17歳、マクシミリアン15歳の時に父が病床に伏せた。

 母は早くに亡くなり父の病も芳しくなく姉弟は不安な気持ちを抱えていた、そんなある日の夕方ゾフィーとマクシミリアンは城の物見台を訪れていた。

 ゾフィーの気晴らしにとマクシミリアンが物見台に行こうと誘いだしたのだ。

 季節は秋、収穫間近い小麦畑が金色に輝く夕日をゾフィーはマクシミリアンと一緒に見ていた。


「見て!マクシミリアン!綺麗な夕日…あの先の国境見える?」

 久し振りに見せた姉の笑顔にマクシミリアンはほっとしたように笑った。

「僕の目では見えないよゾフィーの魔眼は凄いね」

 「綺麗なのに…じゃ見せてあげる!」

 ゾフィーは少し考えた後にマクシミリアンの額と自分の額を合わせる。

 間近で見る姉は自分と同じくらいの背丈で少し女性らしくなった顔立ち…甘い香りにマクシミリアンの心臓はドキリした。


「飛ぶわよ!」


 ゾフィーがマクシミリアンの視界を攫う。

 瞬時にマクシミリアンは鳥のように宙に投げ出されたような感覚に襲われた。

 空を一気に登り落ちるように滑空する───

『落ちる!』

『落ちないわ!見える?地平線に広がる大地と金色の麦穂よ?』

 どこまでも広がる地平線には夕日が落ちかけ夕日の赤と紫が美しく重なっている。

『凄いよ!綺麗だ…』

『綺麗でしょ?!今年は豊作ね?穂がいっぱいで茎が折れそうで…金色の海みたい』

 まるで空を泳ぐように視界はアストリア王国を縦横無尽に行き交う。

 代々、アストリアの王族はその魔眼をもって悪意あるものの侵入をいち早く察知し国を守ってきた。

 ゾフィーの視界はまるで滑空する隼のように空を泳いでゆく。

 北にはそびえ立つ山々…竜の国カナン、南は密林地帯が広がる獣人の国イムラ、西は人の国アリストリア、東は乾いた大地が広がり魔の気配がする地帯。

 城から遠く離れた東側、国境の壁が見えてきた。

『ほら、マクシミリアンここが国境よ!壁の外は荒地が広がっていて魔物がいるみたい…』

『そうだね、でも大丈夫だよ。我がアストリア王国は国境の警備は怠らないからね』

 国境の外は暗く荒野の先には禍々しいものを感じた。

『広いわ…広くて豊かで美しいアストリア王国…ねえマクシミリアン?』

『なに姉さん』

『お父様はもう……だから私は来年には女王になる、でも本当は自信が無いの…この広い領土をたった18歳の女王なんて…お父様は頼れないし』

 いつも聡明で凛とした姉が弱音を吐くのに少し驚いた、でも当たり前だ、姉はまだたったの17歳。

『大丈夫、僕がついている。ゾフィーは僕が支えていく僕はゾフィーのような魔眼も大胆さもないけど誰よりも知識を得てきたつもりだよ』

 空は夕闇が濃くなり地平線には夕日の赤と濃紺の空が見えた。

 ゾフィーの返事はない。

『ねぇ?ゾフィーの瞳みたいな夕闇だよ?知ってる?ゾフィーの瞳の色の濃紺には金色の星のような虹彩があるんだ、綺麗な魔法の目』

『うん…アストリア王族に多い遠見の魔眼』

『ゾフィーがアストリアをその目で見渡して?そうしたら僕が知識でこの国を守る。ゾフィー女王のために』

『マクシミリアン…ありがとう自慢の弟ね』

『ゾフィーがしょんぼりしてるなんて調子狂うよ?笑ってよ』

『ふふふっ女王はしょんぼりできないのよ?弟だから…ね』

 弟だから―――

 マクシミリアンは幸せだと思った。

 最愛の姉に頼られている、今日の日は忘れない。

 愛しいゾフィーと見た美しいアストリア王国の風景、夕焼けと夕闇と金の麦畑。

 夕闇の夜はゾフィーの瞳のように濃紺で瞬く星は姉の瞳に宿る虹彩のように美しい、金の麦畑は豊かに実り姉の髪のようだ。

 姉を体現したようなアストリア王国、王国と姉が同一ならマクシミリアンは生命をかけて守る、その日の出来事はマクシミリアンにとって生涯で一番の美しい思い出になった。


───────その愛しいゾフィーが恋をした。


 最初にゾフィーにその話を聞いた時、心が凍りついた。


「マクシミリアン!私、好きな人が出来たの…」


「え………誰?」


「バーデン将軍…知ってるでしょ?」


「バーデンなんて軍人じゃないか…家柄も王族には相応しくない」


「…うん、でも明るくて強くて…一緒にいると安心する……」


「僕は反対だ!」


「マクシミリアン…」


 そう言ってしばらくゾフィーと話をしない期間が1ヶ月ほどした頃にゾフィーとバーデンが婚約が決定したと宰相から聞いた。

 その時から少しずつマクシミリアンは変わっていった。


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