竜になりたい男②
「ワシらは主に家畜を飼い生業にしているアンガスって知ってるか?」
朝一番にクリムトが二人に問いかけた。
「アンガス?牛の種類か?」
「そうだワシはこの牛が好きだ肉にしても良し乳はチーズ、バター、ヨーグルト何に加工しても美味いしな」
「ああ昨日のチーズは美味かった」
「はい昨日のチーズケーキは美味でした」
「そうか、でも今日は肉を焼く。出産祝いに串焼き肉を作るつもりだ」
クリムトは素直に自分の作ったチーズを誉められ嬉しくなり自然とカイルとユリウスに微笑んでしまった。
『ワシとした事がほだされている?馬鹿みたいに笑うコイツらのせいだ』
「さぁ!餌やりをしたら搾乳、それから放牧。放牧している間に家畜小屋の掃除だ」
クリムトが意外に思うほどカイルとユリウスは真面目に働いた。
カイルは雑に見えるが意外と丁寧に要領良く仕事をこなしていた。
ユリウスはカイルより手先が不器用なのか搾乳が上手く出来ず牛に後ろ足で蹴られそうなってしまい...搾乳を諦め箒を持って食べ散らかした飼料を片付けていた。
「ふぅ...気持ちいいな」
搾乳を終え放牧する牛を眺めながらカイルがポツリと言った。
「街育ちならキツイだろ?」
「街に居ると息が詰まるような気がする、カナンは空気が冷たくて綺麗だ」
「綺麗.....姫様を綺麗だと言ったな」
「ああ綺麗な女だな」
「姫様は子供の頃に大怪我をして顔に傷が残っている」
「傷?傷なんて些細な事だろ?あんな綺麗な女は初めて見た」
「そうか」
クリムトは生まれた時からアリシア姫を知っている。
姫の傷さえなければと何度も思ったのをこの男は気にもとめず綺麗だと言った。
「カイル、アリシアは竜の一族の姫だ」
「.....?ああ姫さんだな?」
「人間如きが懸想などと」
「は?」
「なんだ違うのか?」
「.......アンタらの姫さんは気高くて綺麗だ俺みたいなクズのような人間が想ってはいけない」
「そうかカイル、ユリウス、家畜小屋の掃除を頼む馬も手入れしてやれ」
「クリムト、姫さんの剣だが...性格なんだろうな真っ直ぐで裏がない。アレじゃタチの悪い奴には勝てないだろ?もっと...せっかくあるんだから翼を使うとか?魔法と合わせるとか、汚い手だとか怒るかもしれんが目潰しや急所を狙う方法も教えとけよ」
「考えとくワシは朝食と約束のプリンを作りに先に戻る」
クリムトはカイルに背を向けて家に戻るために歩き出した。
その背中に向かってカイルは言った。
「あの剣さばきじゃ習い事にしかならない、生き残る術を教えてやれアンタは出来るだろ?」
クリムトはカイルに背を向けたまま手を振って去った。
リーシャはそわそわと落ち着かない気持ちで目覚めた。
早起きをしたので朝食には早い時間だったが簡単に食事をすませようかと厨房に寄ると料理長のステラが朝食の準備をしていた。
「姫様!おはようございます!朝食作った後に少し家に戻ります。後片付けは帰ってから致しますので姫様も食事が済んだら食器は洗い場に置いといてくださいな」
「分かった、もしかして生まれたのか?」
「今朝!だから朝食作ったら一旦、娘のところに戻りたくて今はマグリットが娘と孫を看てくれているから...皆には今日はセルフサービス!具沢山豆スープとそば粉クレープに具を好きなだけ挟んで食べとくれ!と伝えて貰えますか?」
「分かった。クリムトに後から顔を出すと伝えてくれ」
マグリットはクリムトの妻だ。ステラの娘のとクリムトの息子が結婚したのは二年前くらいで初めての孫にステラは急ぎ朝食の用意だけ済ませて飛んで帰った。
リーシャは思うマグリットが居ないならあの人間達はクリムトと過ごしたという事だ。
「クリムトだから大丈夫だろ・・・あの人間達がクリムトに危害を加える理由は無いはずだ」
そう言いつつ心配になったリーシャは厨房にあったパイ生地を手に取った。
しばらくしてから様子を見るだけ見るだけだ・・・そう自分を納得させリーシャはクリムトの牧場に飛んだ。
カイルは大きな欠伸をした。
夜明けと共に起き家畜の世話をして朝食を食べてから今度は鶏の世話と畑の水撒き。
健康的だがさすがに眠気が襲ってきてうんと背伸びをし空を見上げると白い羽を広げた人が見えた。
大きく弧を描く姿にカイルは大きく手を振った。
するとそれに気づいたのか、ふわりふわり、その人物リーシャが地面に降り立った。
「姫さんはいいな、俺もあんな風に飛んでみたい」
「何をしている?」
「昼飯が出来るまで牛の見張り?」
「クリムトはどこだ?」
「ついさっき昼飯作るって家に行った。姫さん?いい匂いがする」
カイルはリーシャの持っているバスケットを見た。
「こっこれは!クリムトが一人で大変かなって...........ミートパイだ」
「ホントか!クリムトのおっさん昨日はジャガイモのガレット、今朝は蒸した...プリンのついでに蒸したジャガイモ...ジャガイモと塩バターは美味いがジャガイモばかりはなぁ」
「きっ期待するなよ?料理は苦手なんだ」
薄らと頬を染めるリーシャをカイルは見惚れしまった。
『人間如きが懸想などと』
ないな...俺にそんな資格はない。
ふと湧いた気持ちを誤魔化すようにバスケットの蓋を開けてミートパイを一つ取り出した。
「ああ!かっ形はイマイチだが.......食べれる...はず」
「ぶっ姫さん欲張りすぎだパイ生地から具が飛び出してる」
「にっ肉がいっぱいだと美味しいかなって...詰め込みすぎて破れたり...上手く端と端がくっついていなかったりしてて」
焦りながら話すリーシャが幼く見えてカイルは笑ってしまった。
「形より味だろ?」
笑いながらカイルはミートパイを半分口に放り込んだ。
「ん!美味い!」
「そ...そうかクリムトは家だな?先に行ってる」
ヒュン!と音がする勢いでリーシャは飛んで行く。
目を丸くしたカイルが空を見上げると太陽は丁度、真上にありリーシャの姿はもう見えなくなっていた。
「もう昼か...いいなぁ俺も竜になりたい」
大きく背伸びをしてカイルはクリムトの家に歩き出した
のろのろ更新しますーもうすぐ手術と入院・・・書く気力出るかなぁー




