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4 3人は商業ギルドに登録して見習い商人になった

 ロールプレイングゲームのシステムは大別して職業制とスキル制があり『エレメンタル・ガーデン』ではスキル制を採用しているのだが、そのスキルを取得する方法として欲しいスキルを持った住民から学ぶことをキャラクター推奨していた。

 その理由はこのゲームの売りが住民の自然な応対であり、キャラクターと住民が触れ合う機会を増やすようにシナリオが用意されているのである。

 『エレメンタル・ガーデン』を始めたばかりのキャラクターは始まりの街の中心部にある広場に登場するのだが、この東には冒険者ギルドが剣と盾の看板を出して建っており、西には商業ギルドが車輪の看板を出して建っていてキャラクターはスキルを取得するために東西お好みの方へ向かい、そこでスキル取得に必要なクエストを受けられるようにギルドが配置されている。

 このゲームを始める大半のプレイヤーは事前に成長ストーリーを描いているので、このギルドの配置は彼らの流れをスムーズになるわけだ。

 アイリスたちはまず商業ギルドから訪ねることからエレメンタルガーデンでのスタートを切ることにした。

 その理由は3人とも当面は戦闘行為をする気がないため、生産活動をしてお金を稼ぐ必要があると判断したからだった。




「「「ごめんください」」」

 今までここで発せられたことのない挨拶が入り口からホールに響き、その場にいた人たち……金勘定にしか興味がなかったり、スケジュールに押される者たちですら声の主を確認せずにはいられなかった。

 そこにいたのが商業ギルドを訪れるには幼い子供達だったのはその声が示す通りであり、体の一部から煌めく精霊の輝きはここを訪れた理由を示している。

 頭上に火と闇の精霊を乗せた少女、後ろ髪を束ねるのに土と闇の精霊を使う少女、そしてエプロンのお腹の部分にあるポケットに土と闇の精霊を入れた少女、この3人が玄関前で物珍しそうに建物内を見渡していた。


 建物の中は四角いホールの3面に受付カウンターと紙を持った人が大勢が並んでいて、それ以外には入口横に二階への階段があるだけであった。

 商業ギルドの仕事の大半は毎日商人が持ち込む書類を遅滞なく処理することであり、その実現のため定型化されている書類の受付が1階のホールに、定型外の仕事の相談を受ける窓口は2階に、そしてベテランの案内係がホールに配置されトラブルの発生に備える配慮をしていた。

 その中の一人、子供達に最も近くにいた壮年の男性が声をかけ、ここにいられては邪魔になる玄関前から移動するように促した。

「お嬢様方、商業ギルドへようこそ。あちらでご用件をお伺いします」




 『エレメンタル・ガーデン』においてスキルと呼ばれるものは2種類あり、1つはキャラクターが取得するキャラクタースキルでもう1つは精霊が取得するエレメンタルスキルである。

 エレメンタル・ガーデンに住む住人は精霊と契約した者としていない者がいるのだが、キャラクタースキルとは精霊の有無を問わない当人が身につける技術であり、エレメンタルスキルとは精霊が自発的にあるいは契約者にお願いされて行使する精霊のスキルである。

 例えとして武器を持って戦うとき、武器を扱う技術がキャラクタースキルで精霊が武器に炎を纏わせるのがエレメンタルスキルといえばわかるだろうか。

 結果、エレメンタルスキルに関してはレベルを上げるだけではなく、普段から自分の精霊とコミュニケーションを取り連携を良くしていくことが強くなるためには必要なのだ。

 そして精霊との契約者が同じく契約者からキャラクタースキルを学ぶとき、関連するエレメンタルスキルも学ぶのが通常であった。


 アイリスと雪月花は生産に役に立つ魔法を、ヒロは魔法ならなんでも使えるようになりたいと思っていて、それを学ぶために商業ギルドを尋ねたのだと入口で声をかけて対応してくれているジョシュアさんに答えた。

 エレメンタルスキルを誰かから学ぶときは教え手の精霊から自分の精霊にスキルをコピーするだけなのだが、実際に使いこなすには上に述べた理由で練習が不可欠だ。

 その練習なのだが、何事も教科書がなく自分一人で勉強するよりも、手本があって教えてくれる先生がいた方が勉強の効率は当然のことだが高い。

 そこで商業ギルドと冒険者ギルドは用途に応じた魔法の使い方の授業を会員向けにおこなって授業料を受け取るのだ。




「お金取るんですか?」

「ゲーム始めたばっかりで私たちお金持ってないよ」

「私たちだけじゃなくてキャラクター全員持ってないよね」

 魔法を学ぶためにはお金がかかると聞いたアイリスたちは顔を見合わせ、そして恐る恐るジョシュアさんの方に顔を向け直した。


「今授業料を払えない方には働きながら学べる環境をご用意いたします。皆様が商業ギルドに登録した場合、皆様の立場は見習い商人となります。商業ギルドが斡旋する師匠の元で働きながら師匠が営む仕事を魔法も含めて学び、見習い商人から商人への昇格試験に合格すれば授業料を免除しております。皆さんには宿泊場所を斡旋しなくても良いようですからわずかですがお給料もお支払いできます。ぜひ商業ギルドにご登録ください」

 立板に水を流すようなジョシュアさんの説明に、考える間を取ることができなかった3人はやっと我に返って再び顔を見合わせた。


「悪い話じゃないのかな」

 アイリスは自分たちに都合が良すぎる話だと感じたようだ。

「今までの生産者を選んだキャラクターの皆さんもこのルートを通ったのでしょうから、問題はないと思いますけれど」

 雪月花はゲームとしての都合から判断して見せた。

「このクエストクリアすれば私たち働いてお金稼げるんだろ、最高じゃん」

 ヒロは将来稼げるようになるのなら見習いの間苦労することを厭わないと答えた。


「じゃあ受けるよ?」

 アイリスの確認に頷く雪月花とヒロ。

「「「よろしくお願いします」」」

 声を揃えた3人にジョシュアさんは破顔一笑、表情に人の良さが現れた。

「いやあ良かった。お嬢ちゃんたちのような子供が悪い大人に騙されたり、君たちだけで街を出てモンスターと戦ったりしたらどうしようと心配だったんだ」




 商業ギルドへの登録は用紙に自分の名前と精霊の属性を書くだけで終わった。

 これだけでいいの? と思った3人はジョシュアさんの方を見ると彼は頷いて見せた。

「今皆さんが書かれた事柄が私たち商人が考える現在の皆さんの価値で、ここから皆さんは自分を磨いて価値を高めていくことになります。つまりここが皆さんのスタートですね。この先この登録書にどのような技能や功績を書き加えることになるのか楽しみです」

 これから修行先を紹介してもらう3人にとってその言葉は実に自尊心をくすぐる応援で、これから頑張るという意気が野心的な笑顔となって顔に現れた。


「それでは精霊の属性に応じた修行先をご紹介しますが、雪月花さんとヒロインさんは精霊の属性は同じとのことですが一緒に修行されますか? 複数人を受け入れられる修行先は少ないのでその場合選べる選択肢は減りますけれどいかがでしょう」

「別々でお願いします」

 ジョシュアの話が終わった途端ヒロが間髪入れずに答た。

「私はたくさんの魔法が使えるようになりたいけど、なんの魔法がいいとかこの仕事はやりたくないといった選り好みしません。それに彼女と別の魔術を学んでおけば後でコピーしてもらえますから」

 ジョシュアはこのヒロの仕事を選ばない姿勢を大変立派だと褒めたのだった。


 修行先をたっぷりと時間を使って決めた3人は、今日はギルドが相手先に連絡するので3人は明日からそちらに通うようにとジョシュアさんから言われたので、今日はもうクランハウスに帰って10時までお茶会をして終えることにした。

 そのお茶会の席で雪月花の提案があった。

 3人がそれぞれの修業先に行く前と、一日の修行を終えた後でにクランホームで待ち合わせる約束をしようというものだ。


「私学校に行きたくないと思う時があっても二人が待っているから頑張って登校することがありました。お仕事をするのでしたら学校よりも辛いことがありそうな気がするのです。でも二人にここで会えるのでしたら頑張れる気がするの」

「私はもちろん賛成だよ。でもゲームの中でそんな辛いことがあるのかな?」

「それはわかんないけど、行ってきますとお帰りなさいはおままごとの基本だからこれはありだよ」

 アイリスとヒロはさらりと了解した。

 アイリスはこのゲームに二人を誘った立場からできるだけ二人の役に立ちたいと思っていたし、ヒロにとって友達は頼られたらまず協力する、協力することから考えるのが友達ってやつだと思っていたからだ。

 それになにより3人でお茶会するのが楽しいのだ。

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