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2 フェアリーズ・ガーデン結成

 ゲーム『エレメンタル・ガーデン』では子供を遊ばせる保護者向けに様々なサービスを提供している。

 その一つであるグループ機能は一般に開放してあるフレンド機能を強化したもので、ゲーム開始前にプレイヤーを登録することができ、保護者にVR機器から得た被保護者の健康状態等を報告したり、犯罪などに巻き込まれている恐れがある場合キャラクターのログを閲覧できる機能などが加えられたものだった。


 斬り万邪露は妹がアイリスの名で始まりの街の中央にある大広場にコネクトした事をそのグループ機能で確認した。

 全てのキャラクターは精霊を選んだ後ここに降り立つので、彼はローレンとともに新規参加する妹とその友達の3人とここで待ち合わせをして、ゲーム開始をサポートするのだ。

 視界隅の地図にアイリスを示すマークが出現したので、そちらに目を向けると転移のエフェクトが消えようとしている少女が立っていた。




 ローレンから離れて切り万邪露はアイリスに歩み寄り声をかけた。

「ようこそ『エレメンタル・ガーデン』へ、アイリス。って何固まってんの?」

 胸の前で両の掌の上に緋色の鳥を乗せてそれを凝視し続けるアイリスに、斬り万邪露は腰を落とし首を傾けてアイリスと視線を合わせた。

 その仕草を見た鳥も同じようにアイリスに向かって頭を傾けて見せた。

 そこでやっとアイリスは顔を上げ、斬り万邪露に向かって低い声を出した。


「お兄ちゃん?」

「ああ。ここでは斬り万邪露で頼むぞ、プレイヤー情報を話すのは厳禁だ」

 個人情報保護法の改正により、ゲームにおけるプレイヤーキャラクターからプレイヤーに関する情報は表示できない仕様になったのだ。

「今精霊王が言ってたの、私の危機にこの子が身代わりになるって」

「そうだな、キャラが死んだら蘇生時のデス・ペナルティーで精霊を失うな」

「私が死ぬとこの子が身代わりになって死んじゃうの?」

「基本そうだな」

「やだ! この子を死なせたりしない! 私戦わない!」

「じゃあ生産職か。まあその辺の話はみんなが揃ってからしようぜ」



 アイリス・雪月花・ヒロインの3人と合流した切り万邪露と雪月花の姉ローレンは、かつてこの街で利用していたクランホームに3人を案内しているのだが、

「いやあ、自分のことヒロインって言うやつ初めて会ったわ」

「街で誰かがヒロインって呼びかけるたびに周りの注目を浴びそうね」

「お姫様なんてのも考えたんだけど、本当のお姫様に出会ったら負けてる感がするんだよね。それに籠の中の鳥感がしてやめたんだ。それでそこからお城に閉じこもってない冒険者の女性ってところでヒロインにしてみたの。後リアルの名前からヒーロー、女だからヒロインってのもある」

 斬り万邪露と雪月花の姉・ローレンの呆れたような感想にヒロインは胸を張って命名の由来を語った。


 その3人の会話を黙って聞いているアイリスと雪月花の表情は微妙だった。

(その呼びかけるのって私たちなんだよね。呼びかける私たちの方が痛い子だと思われるんじゃあ……)

(とっとと愛称をつけてヒロインの名はポイしちゃいましょう)

 呼びかける方からしたらたまったものではないようだ。

 

「愛称はヒロちゃんでどうかしら」

「えっ!?」

「おけ」

「わかったわ」

「流石にちゃん付けはできないからヒロでいいよな」

 年長者二人も賛成したので地の文でもヒロでいこうと思う。




 クランホームは2階建ての木造で、今5人がいる庭に面したダイニングは10畳くらいの広さになる。

 庭も同じくらいの広さがありそうで生垣にはまばらだが花も咲いていた。

 花は室内にも飾られていて、レースのクロスなどのセンスからローレンの仕業なのだろう。

 華美なところはないけど、落ち着いた素敵な家だとアイリスは感じた。


 お茶を用意すると言ってローレンは台所に向かったが、切り万邪露は忖度せずに話を切り出した。

「それでアイリスは戦いたくないって言ってたけど、みんなの前で詳しく話してくれ」

 斬り万邪露の誘導にアイリスは肩に乗っているひなたを撫でながら雪月花やヒロにも目を向けて話し始めた。

「この子に名前をつけた時に精霊王が言ってたの、私の危機にこの子が身代わりになるって。さっきみんなが広場に来るまでの間マニュアル見てたら、本当に私の代わりになって死んじゃうんだって書いてて。でもそんなの私は嫌だ。ひなたはこんなにいとけなくて私のこと大好きって言ってくれて……」


 ヒロと雪月花は顔を見合わせ、自分たちの考えを語った。

「私もアンドリューを死なせるのは嫌だな、私が痛いのも嫌だし。どうしても戦わなきゃいけないシナリオは、レベル上げまくってお姉ちゃんたちがクリアするレベル+10くらいで挑みたいかも」

 そう言いながらヒロは目の前のテーブルの上にモグラの姿をした精霊を召喚した。

「私にとっての『エレメンタル・ガーデン』はアイリスのご両親が帰宅されるまでの間、アイリスの暇つぶしに付き合うことです。3人でお話ししているだけでも私には十分ですよ」

 3人のゲーム内での方針は決まったようだ。




「お姉ちゃんからレベルを上げるとデス・ペナルティーを軽減することができると聞いた覚えがあるんですけれど、改めて話してくれませんか」

 方針は決まっても死んだら精霊を失うことに変わりはない。雪月花が姉のローレンにその対策を質問した。

 ローレンはこのゲームを始めて2年経っており、現在は斬り万邪露と同じクランに所属してパーティーを組んでいた。

 2人ともレベルは60でカンストしていて、現在はここから離れた街を拠点にしているのだが、今回妹たちが『エレメンタル・ガーデン』を始めるにあたってそのサポートをするために最初の街に戻ってきていたのだった。


「最初のエリアボス戦の推奨レベルが15で、それまでにデスペナ軽減のイベントをクリアしておくのが定番の攻略法ね。こっちは10レベルあればクリアは余裕で、10レベルまでは街の精霊が自分たちの精霊の代わりに街に転移してくれるの」

 ローレンの説明に雪月花たち3人は同じことをおもった。

「それだと精霊が死ぬことはないように思いますが……」

「それがエリア毎、ボス毎にデスペナ軽減の方法が違っててね、そこをどのくらい調べてどう組み合わせるのかがクエスト攻略の鍵の一つになってるの」


 このゲームのクエストは複雑なものやひっかけは少なく目的はわかりやすい。

 だがどのように攻略するのかは、キャラクターがどのような成長をしているのか、NPCとどのような関係を築いたかなどの要素が絡み合っていて、これだという正解が存在しないとローレンは話した。

「あとドロップの内容とも関わってくるんだよ。ハイリスクハイリターンを選ぶのか、ローリスクローリターンを選ぶのか。ハイリターンは攻略組が選んでローリスクは生産職が選ぶのが定番パターン」

 切り万邪露が補足してローレンが話を締める。

「ただ、戦闘職よりも生産職の方がデスペナを軽減できるから、アイリスが精霊を大事にするのなら生産職を薦めるわ」




 ここまでの説明を聞いたアイリスは、雪月花とヒロに改めて聞いた。

「私、戦闘は正直好きじゃないし生産職やりたいな。二人はどう?」

 ヒロが腕組みしているのを横目に入れて雪月花が先に答えた。

「さっき言った通り私は3人で遊ぶことしか考えてません。3人一緒ならどこでも楽しいと思います」

 雪月花の答えを受けてヒロも腕組みを辞めて答えた。

「3人一緒がいいのは同じ、戦闘も好きな方ではないけど、私は魔法に興味があるんだ。アンドリューと一緒に魔法を鍛えるのとクランでの活動、両立をなんとかする方法考えたい。現実には全く存在しないものだからやり込みたい」


「クランに入るためには生産か戦闘かをメンバーで統一しなきゃならないってことはないぞ。俺たちのクランには戦闘と生産両方いるし、両方やってる奴もいる。クランってやつは仲のいい奴らで集まるもので、生産か戦闘かはギルドで区切るものでしかない」

 斬り万邪露の助言にヒロが聞き返した。

「ギルドってクランと違うんですか?」

「言ってしまうとクランは友達の集まりでギルドはお役所だな、冒険者ギルドは警察と職業紹介所がくっついた感じ、商業ギルドは産業省ってところか。まあ気にする必要のない話だ。そもそも同じ仕事内容でないなら生産活動してる間は別れて行動することになるぞ。だからやりたいことを遠慮せずにやっちゃえよ」




「ステータスにクラン無所属ってところがあるだろ、タップしてクラン設立をタップだ」

「……クランの名前はどうしよう?」

「名前は後回し、それ以外の登録を先に済ませたい。この家譲渡するから拠点登録してくれ」

「この家くれるの!?」

「俺たちのクランの持ち物だったんだけど、俺たち先に進んでるから使ってなかったんだよね。だからお前たちのことを話してもらってきた」

「ありがとう……登録したよ」

「じゃあ3人でクランの名前を決めればクラン設立だ」

 アイリスが二人の方を向くと、どちらも嬉しそうに笑って待ち構えていた。


 3人でクランを作ることはあらかじめ決めていて、設立までにそれぞれ考えておこうと約束していた名前が今発表される。

「勇気の光で桜満開!」

 最初に発表したのはアイリス。

「それ私たちの名前を繋げただけじゃない!」

「ゲームを終えたらネットリテラシーについてじっくりとご家族に絞られてください」

 未成年者はネットでは匿名が基本です。プレイヤーが特定される情報は出さないでください。


 次に雪月花。

「精霊たちとティータイム」

「それいいかも。ひなたは紅茶飲むかな?」

「悪くはないけど私たち3人らしさがないのが残念だな」


 最後はヒロ。

「フェアリーズ・ガーデン!」

 この発言にローレンが吹き出した。

「ちょっとお姉ちゃん汚い!」

「ローレンお姉さん、何かおかしかったですか?」

 妹に叱られとアイリスからの詰問されるが、ローレンの態度は変わらない。

「さっき3人らしさが無いって言った直後のフェアリーズだよ。ヒロは自分たちのことを妖精だって言ってるんだよ。傑作ね」

「むー、ゲームの中くらいいいじゃない。ゲームの中なら私たち妖精でいられるって」

 ヒロはむくれるが、ここにはヒロの見方が二人いるのだ。

「賛成! 私もフェアリーズ・ガーデンに一票!」

「私も賛成します! 私たちのクランはフェアリーズ・ガーデンに決定!」

 そう言って3人は順番にハイタッチを交わしたのだった。

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