デリケートに好きして
この向こうに、レアが居るという。
まだ現実感を手にしてはいないが、昴は胸の高鳴りも感じていた。
自分が好きな架空のキャラクターに実際会うなんて、そんなこと本当にあるはずがない。
でも、本当にあったのなら、嬉しくないはずもない。
そんなことを考えていた。
扉の向こう、そこには、
「あ……」
こちらを見ている純白のドレスを身に纏った少女……それは紛れもなく、画面の中で見た、あのレア・マクドウェルの姿だった。
しかし、
その清楚と純潔を表したようなドレスは赤い液体が全体に飛び散ったように染まり、白と赤の織り成す模様はある意味おめでたさがより強調されるものにグレードアップしていた。
そしてレアの傍らには巨大な壁……いや、巨大な黒い塊……角を生やした牛のような動物が横たわっている。
おそらく、その生命活動はもう停止しているであろうということ、そして彼女のドレスを染める赤色がどこから来たものかというのが説明されなくても分かるような光景だった。
「いやー、ここで待ってたらいきなり野生のメガロブルが飛び込んで来てさ!着替える暇もなくてそのままぶん殴ってたら、こんなかっこになっちまったよ!わりーな!」
レアはそう言って笑った。見ると、両手の拳もどれだけ殴ったのか、しっかりと赤く染まっている。
昴はどうしていいのか分からず、とりあえず入り口のハルフォードの方を見て顔色を伺った。
「……」
ハルフォードは変わらず穏やかな笑顔だった。
しかし、その顔には汗が大量に伝っている。
意外と逆境には弱いのかもしれない。
「それじゃ、さ」
後ろでレアの声がして、昴は振り向いた。
するとそこには、さっきよりも近い、目の前の距離にレアが立っていた。
そして、
「あたしと結婚しようぜ、スバル!」
血塗れのウェディングドレスの姿で、
その手をこちらに差し出した彼女の顔は、
弾けるような笑顔で、
突然の告白。
ムードのかけらもない中で、
ただそれは、
一介の男子高校生の胸の中をありえないくらいにドキドキさせるには、
もう、それで十分だった。