ふたつの世界
車はトンネルに入った。
等間隔の光がしばらくの間、沈黙する車内を通り過ぎて行く。
どこに行くのか、まだ答を聞いていないままの昴は記憶を遡りながらそれとは別にある既視感の正体を探していた。
「見えてきましたね」
男が運転席の方に少し振り向きながら言った。
その方向、フロントガラスの先には光が見え、徐々に大きくなっていく。
トンネルを抜けた。
そこには、
「ようこそ、お越し下さいました」
広がる青空の上には高い雲が棚引いている。山並みのあちらこちらには風車が見え、その手前にはこの車と同じくクラシックな外見の列車が走っていた。
車が進む道は、おそらく中心地だろう建物が数多く並んでいる場所に続いている。
まだ離れてはいるが、この地点から見ても、そこは決して日本のどこかではないということが自然と分かった。
「ここは……」
そして、目の前に居る男のことだけではなく、この場所もまた昴の記憶のどこかにあったものだった。
記憶は重なり、揺り動かされ、やがて鮮明に思い出されて来る。
この風景は、いつか見たことがあるものだった。
「……ベスタの、町……?」
「そう。私たちの、町です」
男はそう言うと、また少し笑った。
その笑い方は、昴にある人物を思い出させた。
「あなたは……ハルバードさん、でしたっけ」
「残念。ハルフォードです」
「あ……すいません」
「いえいえ、お気になさらず。私、印象が薄いものですから」
ハルフォード、と名乗る男の冗談めかした口調に、少しだけ緊張していた空気が緩んだ。
「いや、でも……そんな訳、ないじゃないですか」
現実感の無い答を受けて、足が地に着かない感覚を覚えた昴は、気を持ち直して言葉を返した。
「だってここは、あなたは……ゲームの……ええと、物語の世界の、架空の中の話、ですよね?ああ、何言ってるのかな俺……」
「ご安心下さい、スバル・ゴダイ様。私には、あなたの仰っている『ゲーム』の話というものがどういうことなのか、理解出来ております」
ハルフォードは全く動じることなく、落ち着き払って言った。それはゲームの中のキャラクターとしての彼と同じく、常に沈着冷静という性格を感じさせる言葉だった。
そう、ゲームの中で。