ライド・オン・タイム
……何で、こんなことに。
市立東燕高校三年、五代昴は、今自分に起こっている事態を何度か確認してみたが、結論として出て来るのはその言葉ばかりだった。
今日は土曜日、月曜日も祝日。テレビでは晴天に恵まれるので三連休をお楽しみください、とか言っていたが、昴にはそういう気分にあまりなれなかった。
もとより、そんなにアクティブな人間ではない。
とりあえずは、午前中からゲームセンターにでも行って時間を潰していよう……と思っていたのに。
本来なら今頃はアーケード筐体の椅子に座っているはずが、現状は同じ椅子は椅子でもクラシックな出で立ちの高級そうな外国車、おまけにリムジン仕様の後部座席の上。
……何で、こんなことに。
もう一度その言葉を頭の中で繰り返した。
声に出さなかったのは理由がある。
この縦に長い車体の中には当然自分以外の人間も乗っているのだが、その同乗者がどれもこれもいかついアウトレイジなメンバーばかりだったからだ。
家を出て歩いていたところに、気が付けばいつの間にか彼らに取り囲まれていた昴は、言われるままに車に乗せられ、今に至る。
シートの座り心地はこの上なく素晴らしいものだったが、この先自分がどうなるかを考えると、そんなことに気が回らないくらいには不安でいっぱいだった。
「ご気分がすぐれませんか?」
向かい合った座席の正面に座る男が話し掛けて来た。
強面だらけの中で、唯一普通の、というか優しそうな印象。
落ち着き払ったその風格から、どうやらこのメンバーの中では、彼がリーダー格の人物であるらしい。
「あ、はい……ちょっと」
「申し訳ございません、もうしばらくご辛抱ください。ああ、お水でもいかがですか?紅茶やレモネードなどもご用意しておりますが」
「あ、じゃあ……水を」
「かしこまりました」
男がそう言うと、昴の横に座っていたスキンヘッドの男が、取り付けられた棚から彫刻の施されたガラスの瓶を取り出し、グラスに水を注いで小さなテーブルの上に置く。顔に似合わず丁寧な動き方だった。
水を一口飲むと、程良い冷たさで気分が少し落ち着いてくる。
「あの……どこへ行くんですか?」
まだ聞いていなかったその疑問を男に問いかけた。
「私たちの町に向かっています」
「町って……分からないですよ、それじゃ」
「申し訳ございません、今はまだお答えすることが出来かねますので」
どうやら答は得られそうにないらしい。今はまだ、ということなら後で分かることなのだろうか。
そしてもう一つ、昴には考えていたことがあった。
「あの……どこかで、会ったことありますか?」
そう。目の前に居る初対面のはずのこの男のことを、何故か自分は知っている。そのことがずっと気になっていた。
「……あるかもしれませんね」
男は少し笑ってそう言った。