2・スコップ作戦
リネン君を助けてほしい、と隣のクラスのアサちゃんと西川くんが言った。一緒に来てくれるのかと思えば、二人とも塾で忙しいという。結局ミウが手紙を預かり、一人で行くことになった。
「これ持っていきなよ」
花壇の土ならしに使った大きなスコップを、西川くんがかついで持ってきた。
「わたあめは金属に弱いから、これですぐに掘れるよ」
「そうなの? 教えてくれてありがとう」
スコップを持って電車に乗るのは少し大変だった。降りた後も、引きずるようにして歩いた。どちらかというと、スコップに引きずられているような気分だ。
「こんにちは。リネン君いらっしゃいますか」
わたあめの前で、ミウはできるだけ丁寧に言った。返事はない。わたあめはもくもくと白い糸を出し、隣の家の屋根からスズメを取っていく。
「仕方ない。掘ってみよう」
ミウはスコップでざくりとわたあめを刺した。白い塊をかき出し、道路に捨てる。なんだかもったいないけれど、とても食べきれる量ではない。
ざくり、ざくり、とわたあめをくり抜いて掘っていく。すると中から音が聞こえた。何かがきしむような、もがいているような音だ。ミウは手を止め、どこにいるの、と言った。
一瞬の油断がいけなかった。スコップの先を白い塊が包み込み、とらえた。あっと思った時にはもう遅い。スコップはミウの手からすぽっと抜け、わたあめの中に飲み込まれてしまった。
途端に、掘ってきた道が塞がっていく。ミウは急いで戻り、外へ走り出た。最後に足をとられて転んだが、どうにか巻き込まれずに済んだ。
振り向くと、わたあめは何もなかったかのようにどっしりとたたずんでいる。恐るべき再生能力だ。
ミウは靴にこびりついた砂糖を剥がしながらため息をつく。やっぱり負けてしまった。
「でもラッキーだったわ。スコップがなかったら私が食べられてたもんね」
アサちゃんと西川くんの手紙はそのまま持ち帰った。わたあめに食べさせても、きっと本人には届かない。声も、音も、色も、光も、何も届かない。恐ろしいほどの退屈も、慣れてしまえば心地よいのだろうか。