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不老の愚者と女王な彼女  作者: 宇都宮
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 初心者ダンジョン。帝都の北側にある。そして、そのダンジョンの主なモンスターはコボルト系のヒトガタ魔獣である。代表なのがゴブリン、オーク。

 彼らは少しばかり知能があるが、それは魚に毛が生えた程度。そして、ヒトガタということで初心者には立ち会いが簡単という話だった。

 訓練では、人と訓練するのだからそれの延長線として、この世界では、そうやって考えられている。

 逆に、それで通ってしまう程度の強さでしか無いのだから、Dランクのギルドメンバーは、物足りないどころではない。


 そして、アレクはその初心者ダンジョン、「子鬼の迷宮」を訪れていた。

 

「結構でかいな」

「これを見て驚くなんて、田舎もんか? これは一番カスダンジョンだぜ? 最年少で6歳が攻略している。

 このダンジョンを攻略できないのなら、よほどスキルがカスなのか、体がひ弱なのか、どっちかしかねぇぜ。それに6歳以下だ」


 挑発するように言うのは、このダンジョンの入口を警備している騎士。

 彼らでもギルドのランクで言えばBランクはくだらないという。そして、その騎士団が神魔級ダンジョンに張り付いているのだから、まぁ安全だ。

 ここには、最低限の倉庫しか無い。

 逆に、このダンジョンからモンスターが溢れたとしても、帝都の都民だけで対処できる可能性だってある。


 その程度のダンジョンである。

 しかし、人気は多い。なにげにこのダンジョンを攻略した証がないと他のダンジョンになんて行かせられないぜ、という風潮からか、外から来た傭兵まがいの人だって見かける。

 この騎士は、モンスターよりそういった人間の対処を目的としているのかもしれ無い。


「俺は、ここで死ぬかもしれない。もし、戻ってこなかった場合には、【ディトリヒ】の飲食スタッフの――」

「やめとけやめとけ。死なねぇ死なねぇ。こんな場所でくたばる人間なんて居ねぇ。そりゃ4歳の坊主はコボルトに食い荒らされてたが、お前見たところ宮廷上がりに見えるが、結構なスキルを持ってるだろ」


「いや、僕にはそんなスキルは無いよ」

「だったら、そんな弱腰でダンジョンに行くな。追い返すぞ。こんなカスダンジョンでお前ほどの大人がくたばってもらっちゃ、人が少なくてサボれる門兵の仕事がめんどくさくなる」


「……まぁ、物は試しだ。まずダンジョン二階層まで降りて見るとするよ」

 ため息をつく門兵の騎士は、頭を抱えるように

「二階層に行けるなら、このダンジョンは楽すぎることを悟るだろうよ。行けばわかる。ここはクソダンジョンだ。マジで簡単。ベリーイージー」


「だったらいいけどね」


 ずっと研究ばかりしていて、大して体を鍛えてこなった幼少年から今日このごろ。知識はあるが、今更【愚者スキル】が発現し、スキルは中途半端。肉体的には少年にも負ける程度のスペック。

 少しだけ、身なりを気にして魔術師風に見せかけているが、そこの所実力は伴っていない。

 実は、クソザコは僕だ。




 第一層。そこにはたくさんの冒険者が居た。

 多すぎで、大量に前進していた。行列の行進だ。

 あ、やばい。後ろに並ばれた。これで退路は絶たれたわけだ。

 何百人にも及ぶこの行列。何のために並んでいるのか。

 それはすぐに分かった。


 これは、ダンジョンを攻略するための行列。行進ではない。

 ただの待機列であった。

 

 第二層に存在するボス部屋に入るための、順番待ちである。

 ボス部屋と言っても、ヒトガタモンスターは、そこらじゅうにいるし、ディアーだって、この人間の列を見て若干引いているようにも伺える。

 


 このダンジョン、実は二階層構成で、一階層は入ってすぐが二階への階段。その階段の左右には、ヒトガタモンスターが潜むダンジョンが広がっている。

 しかし、このヒトガタモンスターはあまりドロップアイテムが美味しくもないわけで、しかも、外からやってきた流れの冒険者は、野良のゴブリンやオークともよく戦っているために、上位ダンジョンへの免許のためだけにこのダンジョンに入る。だけが目的であった。

 つまり、この列とは流れの冒険者、傭兵が主となり我先にと初心者ダンジョン攻略した証としてのホブゴブリンの角を手に入れようとする。

 

 その列に下手しなくとも並んでしまったアルクは、抜け出す方法を探っていたが、周りに人が紳士すぎ抜けることが出来ないでいた。

 例えば、転んだふりして列をはずれようとすれば、「大丈夫ですか?」と手を貸してくれ、元いた場所に入れてくれる。トイレです。と言って抜けようとすれば、浄化魔法の一つである「蒸化」で、体内の余計な水分をなくす。

 果ては、お先にどうぞ。と譲っても、「そんな事言わずに。一緒に攻略しましょう!」と馴れ馴れしくその場に居させられる。

「僕は、このダンジョンにディアーを狩りに来たんです。二階層になんて行きませんよ」

 そう、言ったのだが。


「黙れ、Fランク。貴様、この俺様が手伝ってやると言うのに出ていくというのか? とんだ腰抜けだな。俺様は毎日ここで初心者を見ているが、そんな腰抜けは二度とこのダンジョンに入れなくしてやろうか。

 するとどうなる? このダンジョンに入れないFランクは、必然的にこの帝都のダンジョン、どれにも入場資格が手に入らない事になる。

 おお、それはどういうことか。

 な? 俺様がお前を一人前にしてやるって言ってんだ。素直に従ってればいい」

「そうだそうだお、兄貴の言うとおりだ!」

「素直にケツを差し出せ!」

「兄貴に謝るんだ!」


「わ、わかりましたよ」


 渋々、僕はこの長い列を、順番が来るまで待つことになった。

 ちなみに、今の兄貴と呼ばれる人物は、年少のギルドメンバーが死んでしまった事件を聞いて、自分がここの観察をしていようと名乗りを上げた孤児院の園長、兼Çランク冒険者。

 冒険者とギルドランクは呼び方が違うだけで大した違いはない。

 

 しかし、帝都以外では冒険者と名乗ったほうが聞こえはいい。

 ギルド言えば、商業ギルドや、運送ギルドなど、そういった商売系の色が強いために、ダンジョンを巡って稼ぎを競う帝都のギルドは知られて入るが、名前は外ではあまり通用しない


 一方で、【ディトリヒ】といえば、大抵の商家は頭を下げる。

 なぜなら、昔からダンジョンで採れる鉱石、素材などを取引しているのが【ディトリヒ】。この帝都のギルドの元となったのが【ディトリヒ】。

 最先端のダンジョン攻略ギルドであった。

 

 まぁ、そんなことは今は関係ない。

 

 そのまま、半日程度待っていた。

 半分くらい進んだ。これから考えると、また半日程度並んでいいないといけない。

 そんなこと考えても居なかった。ディアーを狩ってすぐ帰るつもりであったので、何も食料や飲料水を持っていなかった。


「こんなところで、餓死するのか」


 すると、前のお兄さんが


「ほらよ、俺は腹一杯でもう食えねえから、食ってくれ」

「俺も、飲み過ぎちまった。腹がタプンタプンだ。これ以上飲むと戦えねぇなー」


 という声とともに、食べ物、飲み物が差し出される。


「いい、んですか?」


「俺達も、ただ余り物を押し付けてるだけだしなー」

「断っても、ただのごみになってしまうな―」


 

 とてもいい人だった。






 と言うか、順番が来た。

 ここまでで、かなり文章が崩れてきたと思うけれど、別に気にすることではない。同じ人が書いているんだ。僕の話し方も、地の文の書き方もかなり変化しているかもしれないが、全て気のせいだ。

 そうやって、ここまで来た。半分で半日くらいかと思ったが、実は、また1日かかった。


 理由は、一人死んだから。

 このダンジョンでは、実は月に一人は死んでいる。

 門番の騎士が言うには、カスダンジョンと言うが、やはり、怖いのだ。


 餓死が。



 いるのだ。

 孤児や、他のスラムの人間が一攫千金を夢見てここに脚を運んで来る。

 そして、この一日二日間何も飲まず食わずでいて、そして死ぬ。


 ここは、ダンジョンだ。

 ダンジョンは、人間の魔力を微小ながら吸収する。

 魔力とは、体力と関係する。

 人間は普通に暮らしていて、100程度の魔力ポイントを持っているものと考えられている。

 そして、体を鍛えたり、飲んだり食べたりして、魔力の最大値は変化していくと考えられている。まぁ、師匠の研究の一部ではあるが。

 孤児やスラムの人間は、指標調査的に30も魔力を持っていないことが多い。

 つまり、このダンジョンでは、計算上、一般人に比べるとスラム街の人間は、3.3倍程度死亡率が高いことになる。

 

 だが、死んだ人間は身分証を持っていないことにより、死んでなかったことになる。

 騎士が言うには、一般人は死んだことのないダンジョンだ。と。

 まぁ、昔死んでいる人間はいるからÇランクの冒険者がここにいるのだが。



 あの優しい冒険者が孤児やスラムの人間に食べ物を寄越さないのかって?

 一般常識的に、そういった人間には食べ物を寄越すなって教えがあるからそんなことはしない。

 理由は簡単だ。野生動物にも、同じことが言えるが、一度餌をやると、一生ついてくるからだ。


 と、まぁそんな理由で軽々しく食べ物は分けてやらない。

 





 ――――


 ダンジョン、二階層。

 ボス部屋。


 その中には、大きいコボルトが居た。絵でしか見たことのないコボルトだ。

 二足歩行の犬。しかし、それはどう見ても獣である。獣人ではない。

 獣人とは、人間に一部獣の特徴が現れているだけにすぎない。彼らはシルエットからして人間なのだ。

 例えば、テレシアのように犬耳が生えていたり、他にも手だけが獣の毛に覆われていたり、そんな感じだ。


 100%獣であるコボルトなどと一緒にできるはずがない。


 ホブゴブリンは、コボルトの群れの真ん中に、椅子に座っていた。


『これが、368万回目の死だ。これから我はいくら殺されなければならないのか。主は、三階層に篭ったっきり出てこない。我は幾度となく人間に殺される』

「この声は、お前か」

『ああ、聞こえると思っていた。お前は才能がある』

「やはり、師匠の言っていたことは正解か」

『我の名はデスカーン。ゴブリンの王である。そして、368万回目のホブゴブリンである。そして、お前は【愚者】。我を裁くもの』


「いや、そんなことはしない。僕等の望みは君らとの対等な関係だ。君は人間に対してあまりいい感情を持たないかもしれない。だが、知っていると思うが人間には沢山の種類がいる」

『我はどうでも良い。我は、主よりここを守るように言われた。人間にいくら殺されようと主の力で蘇る』


 ニタリと口角を歪ませて、ホブゴブリン――デスカーンは言う。


『知ってるか、人間。このダンジョンには先がある。人間はいくらでもやってくる。やってきた人間の魔力をダンジョンは吸って蓄える。

 それが何十年も続いてきた。このダンジョンはいくらでも人間がやってくる。そして主はそれを使ってこのダンジョンを改造している。』

「それを、何故僕に言う」

『【愚者】。お前は知るだけだ。知っていながら何も出来ないはずだ。理由は一番お前が知っている。

 そして、我は、【愚者】に殺されなければならない。これは主からの命令でもある』


「僕は、また何も知らされずに、何かをさせられるのか」


せんの【愚者】グロスには世話になった。だからその後継者には礼をせねばならん。我は主と【愚者】との橋渡をしているだけだ』


「せめて、【愚者】とは何か。それを教えてくれ。それだけでいい」

 ホブゴブリンは立ち上がる。

『それは出来ない。主は、【愚者】が我を殺し新たな力を与えることを使命とする』


 ホブゴブリンは、ゆっくりとアルクの前に近づく。

 アルクの足は動かない。動かそうとしても、何かに縛られていて、動かせない。鍛えてもいないインドアな人間には、何も出来ない。

 

 コボルトが、その二本の足で器用に歩き、その前足には一本の剣が挟まれていた。

 コボルトBは、動かないアルクの体を触り、弄り、コボルトAが持ってきた剣を、ホブゴブリンの方に向けて持たせる。


 その状態のまま、動か無いこの体。

 剣先に、その心臓を刺そうとこっちに向かってくるホブゴブリン。

 自らをゴブリンの王と揶揄するだけあり、その体は大きすぎた。

 

 少なくとも2Mは超えている。

 そして、その手足は鍛え過ぎか、張り裂けそうなほどに筋肉が盛り上がっていた。


『【愚者】。再び会えるだろう。もう一度、この場所を訪れる時に、おそらくすべてが分かる。約束しよう』


 379万9999回目のホブゴブリンとしての死。


 アルクが、その380万回目の死を与えた。


 ゆっくりと、バターにナイフを刺すように、その剣は、ホブゴブリンの中に入っていき、その生命活動を終わらせた。




――――――――

【愚者スキル】第一封印解除

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