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不老の愚者と女王な彼女  作者: 宇都宮
1/4

新連載始めました。一週間は毎日投稿をもたせたいです。

しかし、三日間程度のストックはある模様

 いつからだったろう。数百万の人間が死に、還ってきた人間を英雄としたのは。

 戦争を勝利に導いた人ではなく、強いやつでもなく、戦略に優れた人ではなく、唯生きているだけで英雄として、世界が彼らを優遇し始めたのは。



 世界に二つもなく、一つが消滅した時に初めて、継承されるスキルは数えるだけで4つある。【英雄スキル】【賢者スキル】【勇者スキル】【愚者スキル】と、それらはよく知られたスキルであり、世界で優遇されるスキルであると言ってもいい。

 僕の師匠はそのうち1つを持っていた。まだ存命だった頃に自慢してきたときは、唯一スキルだとしてとても凄いことだと思っていたけれど。

 こう、成長してみて、それを得た僕にとって、そのスキルとはとても邪魔で、マイナス効果しか無く、果てしなく役に立たないスキルだと理解するまでに、さほど時間はかからなかった。

 まぁ、その師匠のもとで修行をした後に旅立ち、その後すぐに師匠が死んだと聞いて、それからダンジョン街として有名な帝都に腰を落ち着けるまでに、さほど不便はなかった。


 師匠は何不自由なく生活していた時間、その時間全てにこの【愚者スキル】の束縛があったとすると、それはとてつもなく師匠が超人であることを示す証拠となる。

 これほどにまで自己に負荷をかけるスキルは聞いたことがなく、そしてそれを実際に体験するなど、誰が想像するだろうか。

 僕は、そんな事が起こるなんて、サラサラ思ってもなかったが。



 「英雄の帰還だぁぁ!!」

 酒場はいつも以上に騒がしかった。それもそのはず。今日は、三年間もダンジョンに篭っていたこのギルド所属の【英雄スキル】持ちが還ってくると、そんな時間なのである。

 僕は面白くないので、酒場の端の方に席を移すと、カウンターの奥にも同じようにこの騒ぎから身を引いている店員を見つけた。

 見たところ獣人のようで、耳をピコピコ動かしながら不機嫌そうにしかめっ面を舌女の子である。僕は彼女を、無意識のままじっとみつめていたようで。

「い……いかがなさいました? 私が何か?」

 と、まあ問いかけて来たわけで。

「あ、いや、なにもないよ」

と返す。それでも何か話したい衝動に駆られたか、

「とりあえず、好みでジュース二杯もらってもいい?」

 と聞くと、笑みを浮かべた彼女は

「かしこまりました」

 と、頷いたのだった。

 

 戻ってきた彼女に手には、変な色のジュースが並々と注がれているようで、ソロリソロリとゆっくり、中身をこぼさないように、おどろおどろしい足取りでやってきた。

 僕の正面に置かれた二杯のジュースを、一杯だけ彼女の方に動かすと、

「い……要らないのですか?」

 と、涙目を浮かべる彼女。

 年齢的には、僕より少し幼いくらい。多分、14とか、15とかそのくらい。

 でも獣人だから、詳しくはわからない。エルフくらいの長寿の種族だって存在するのだから、外見だけでは判別しづらい。

 でも、彼女の仕草は市の年相応な感じがして、愛らしく思えた。

「あ、ああ。君に一杯だ。少し、話し相手が欲しくてね。付き合ってくれるかい?」

 すると、ぱぁっと明るい笑顔を見せた彼女は、「ではでは」と、そのコップを手に、ぐびっと一回で半分以上飲み干した。

「そうそう。いいよ、遠慮しないで。今日の分は僕が持つからさ」

「いいのですか?」

「うん。どんどんいっちゃって」

 ジトッとした目で僕を見る彼女。

「そういうの怖いです、が。その言葉、忘れないでくださいね」


 なんか、含みのある言い方だったけれど。

 彼女は、この店で一番高いボトルを持って来た。


 数多く、国に存在するダンジョンは、難易度が設定されており、それに比例するように近くにできるダンジョン街の大きさが変わってくる。ここの街は珍しく、四つのダンジョンがちょうど東西南北に存在しており、そのダノンの難易度もバラバラだった。北は初心者用から、南は超高難易度の神魔級ダンジョン。

 そこは、三百年前の帝国の首都だったらしく、ある程度の建物は揃っておりダンジョン街が出来るまでにそう時間はかからなかった。

 そして、その街の大きさは日に日に大きくなっており、それはダンジョンは地下に出来ているのに対して、その都市は地上ビルのように高い建物が多く建造され始めるようになった。

 

 高難易度神魔級ダンジョンの周りにはA級魔術師が危険装置を置き、入る人は拒まず、出るには特殊な魔道具を持っていないと警報がなる仕組みを整えた。それに、近くにBランク相当の騎士の駐留所があるために想定外の災害にも即対応出来るようにしている。


 そんな初級から最上級のダンジョンの揃った、世界でも少ないダンジョン街には、多くの冒険者が集まるようになった。そして、彼らが効率的に道具や素材を手に入れるためにギルドというチームを組織するようになって、数多くのギルドが誕生するようになった。それは、ギルドごとに方針や資金の配分、その他の違いが目立つようになり、ギルド競争が行われるようになった。

 人材は外からいくらでもやってくるので、どういった方針で、ダンジョンの踏破数が深いかなどを比べるようになり、独自のランキング化も行っている。

 今のところ、元傭兵が立ち上げた【ディトリヒ】が最大派閥となっている。その理由はやはり【英雄スキル】を持った冒険者が所属していることが大きいだろう。

 

 そして、こんにちを迎えるにあたって、【ディトリヒ】は、改革を行ったのだった。

 まず、経営者をヘッドハンティング形式に捕まえた。彼は中堅ギルドの経営者であり、彼が組織するギルドは今中堅から、五年もすれば脱出できるのではないかと言われていた。

 今まで、【ディトリヒ】はリーダーが居て、その下で自由な方針のもとで活動していた。ある意味個性の強いギルドであるが、最大派閥を名乗るにあたり、形を整えようとの考えである。

 そして、もう一つ。料理所と言われるギルド。彼らは、もともと料理が好きであり、ダンジョンには美味しい食材が多いために、それらを調理するために集まった人間が作り上げたギルドであるが、彼らを【ディトリヒ】が取り込んだのだった。理由は、ギルドに食堂を置くためだった。

 【ディトリヒ】が集めるダンジョンの深層の素材を提供し、料理所のメンバーが料理する。彼らは好きな料理が出来、【ディトリヒ】は美味しい料理が食べられる。それはwin-winの関係が築けている。


 一気に増えたギルドメンバー。一気に大きくなったギルド経営。

 そんな時に【英雄スキル】持ちが還ってきたのだ。


「おう。今帰ってきた。なかなかの強者を見つけたぞ。まず最初に三十層以降のモンスターの傾向が変わったところか」

 そう言って、彼はどかっと近くに引かれた椅子に座った。そして、目の前のテーブルに置かれていたとても肉厚のステーキに手をつけようと、彼が小脇に抱えていた「荷物」を降ろした。


 それは人の形を取っていた。そして、とても、サイズが【英雄スキル】持ちより、二回り以上小さかった。

 そして、僕は思った。あれは、昔、魔法具で見たことのある、10歳くらいの若かりし頃に似た……師匠だった。


「あ、ああ。これか。これは第40層のボスのドロップ品だ。息はしている。……生きているのだろうが、意識はないが」

 と、言いつつ、それ以上興味がないとでも言うかのように、そのステーキに手を伸ばし始めた。

 そして、女性スタッフが床に適当に置かれた、師匠に似た子供を拾い上げて奥の医務室に運び始める。その周りには野次馬の野郎どもが群がる。なぜなら、その女性スタッフは【ディトリヒ】内人気ナンバーワンのフランカその人であるからだ。

 金髪の髪に、碧眼を揃えた、とても整ったか顔立ちをしている、完璧美人。そして、ダンジョンアタックでは、Bランクの実力を持つ、美貌、強さを兼ね揃えた超人でもある。

 

「何? 先輩が気になる?」

 獣人の女の子が聞く。僕は、首を左右に振る。

「いや、あのドロップ品だという子供が気になってね」

「そう、人間がドロップするなんて、聞いたこともないけど」

「僕も、ダンジョンに行ける実力があればいいんだけどね」

 不思議そうな顔をする獣人の子は「ないの?」と、ストレートに聞いた。

「まぁ、そうだね。呪いというか、なんというか。今の僕には何かが足りないそうでね。どうしてか先に進めない」

「先に? ダンジョンって、誰でも入れるよ? 私だってEランクのダンジョンなら半分までなら進めるし」

 フフン、と胸を反らす彼女。そのエプロンを少しだけ盛り上げている胸は、成長中の感じ。彼女くらいの歳ならそのくらいか。と、まあ視線がそちらに向いていたのを、彼女の獣人の特性か、その視線に気づいてジト目を向けるのだから、弁解を要する。

「とんだ変態さんですね。あれですか? 私に奢っていっぱい飲ませてそのままお持ち帰りですか? わたしみたいな獣人でも需要があるのであるのですか?」

 と言うか、既に頬をピンクに染めている彼女は、酔っているのか僕を下から覗き上げるようにしている。

「ははは。別に、僕は獣人でも好きだよ。君が断らないのなら、ね」

「べ……別に」

 ブクブクと音を立てて彼女は言う。


「そう言えばですね、あなたはこのギルド所属ではないですよね。でもいつもこの酒場にいらっしゃるのは何故ですか?」

「いつもってことは、僕を見たことがあるのか」

「はい。いつも一人で帰ってくる冒険者様を眺めていますし、それにあなたが入ってきても、カウンターにある魔石が反応しないからですよ。別に、それがどうしたとか、なにもないですが」

 彼女は興味深そうに僕を眺めるので言った。

「あまり、一箇所にはとどまらない主義でね。でも何故かこの酒場にはずっといたくなる何かがあった。それが何かは知らないけれど、どうしてかずっと、毎日ここに来てしまうんだ」

 半分はそのとおりだ。魔法がかかったかのように、この店の魅力に惹かれていたのは事実。

「ダンジョンに潜らない割には、資金は十分にあるみたいですが、貴族様とか、何かですか?」

「はは、それにはまだ答えられないよ。僕はこの街ですることがまだ終わってないし、それに、今日することが増えたからね。知りたい?」

 彼女は、カウンターから出てきて、僕の横の席にちょこんと座った。

 そして、彼女は僕の方に体重を寄せてきて、

「全部、知りたいです」


 ――ああ、なんか、幸せな気分だ。


「いいよ。全部教えてあげる。僕が何をしに来て、どんな人なのかを」

「楽しみにしてます」



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