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バイト先によく来るうざい客が、実は大好きな女性歌手だった件 作者:マキノ
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この客がうざいくらいに、この歌手のことが好き

『バイト人間』、俺、矢山はそう呼ばれている。
まぁ十七歳の時期にスーパーのバイトを週五日入れているのだ。
そう言われても、全く不自然ではないだろう。

だがスーパーのバイトと言うのはめんどくさい。
俺はいつもレジ業務をしているのだが、うざい客が多いこと多いこと。
時給が950円じゃなかったらすぐに辞めているだろう。

そして俺には特に嫌いな客がいる。
その客は今日も狙いすましたかのように俺のレジに来た。

「いらっしゃいませー。お預かり致します」

陽気な声を意識して言うが、負の感情がそれを邪魔しているように感じる。
どうにもこいつの接客の時はイライラが収まらないらしい。

その客は長い黒髪にサングラスをかけている。
背丈は俺と比べると一回り小さく、声や肌の艶などからおそらく女性で、俺と同年代だろう。
そのはずなのにこの女は何故か上から目線でものを言う。

「なによ『いらっしゃいませー』って語尾は伸ばさないでよ気持ち悪い」
「も、申し訳ありません……」

なにが気持ち悪いだ、俺にとってはお前のほうがキモいわ。
なにサングラスかけてんの、気取ってるんですか、キモい、気持ち悪いよ。

謝罪の言葉を言いながら、内ではこんな事になっているなんて、この女は思いもしないだろうな。

「以上で、お会計が576円になります」

俺はいらいらを募らせながらなんとか商品をスキャンし終わり、サングラス女が金を取り出すのを待つ。
しかしそのお金は、一向に現れない。

出たよ、こいつの嫌いなところその1。

『異常に金を出すのが遅い』

後ろつっかえてるから早くしてくれないかな。

そうしてようやく出てきたと思ったら、それは一万円札だった。
これが嫌いなところその2。

『金を出すのが遅い割に、出て来るのはシンプルに札だけ』

札だけならすぐ出せよ!! なにをそんなにてこずってんだよ!

口から罵声が出るのを引っ込め、俺は一万円札を受け取る。
レジスターに数字を打ち込み、お釣りは9424円と出た。
先に九千円を取り出そうとすると、

「ちょっと、早くしてよね。急いでるから」

苛立ちげに口にするサングラス女。

また出た、こいつの嫌いなところその3。

『自分は金だすのにめっちゃ時間かけたくせにお釣りもらう時はやけに急かす』

もう、お前何様なんだよ!! まだこっちは数字打ち込んだばっかりだわ!

「しょ、少々お待ち下さい……」

そう言って素早く手を動かる。

「おまたせいたしました。こちら、9424円のお返しです」

早口で言い、お釣りを手渡す俺。
マニュアルではお釣りを渡せば、レジの接客は終わるのだが、何故か女はその場から動かない。

早くどっか行けよ! 後ろつっかえてんだよ、お前迷惑になってんの!!

「あの、お客様。他のお客様がおりますので……」
「なに言ってんの。袋詰しなさいよ」

はぁぁぁ!? こいつ何いってんの、馬鹿なの?

うちのスーパーは袋詰はお客様自身がするようになっている。
商品が一点だったりしたら流石に袋詰はするが、サングラス女は五、六点買っているのだ。
これは俺が袋詰めする範疇を超えている。

「あの、後ろのお客様を待たせることになりますので袋詰は……」
「あらそう。使えないわね」

そう吐き捨てて、買い物かごを持って去って行くサングラス女。

相変わらずうぜーなこの女。
いつもは自分で袋詰するくせに今日は袋詰を強要してきやがった。
袋詰くらい、自分でしろよ。
くそっ、イライラが収まらねー。

「大変おまたせいたしました、申し訳ございません。商品お預かり致します」

俺はいらいらを隠しながら営業スマイルを作り込む。
そうして商品をスキャンしていても、どうしてもサングラス女のことが頭から離れない。

ちっ、まじでもう来んなよあいつ。
というかなんであいつ俺のレジにしか来ないんだよ。
他のレジが空いてるときでも俺んとこ来るし。
他のバイトにも俺の苦しみをわかってほしいぜ。

そう考えているとまたも沸々怒りがこみ上げてきた。
そしてその怒りは気せず、俺の手に伝わっていたようだ。

「ちょ、ちょっと、卵割れてるよお兄さん!!」

そのレジには主婦の客に突っ込まれる哀れな店員の姿があった。


○  ○  ○


「ただいまー」

バイトが終わり俺が家に着いたのはちょうど十時頃。
高校生は十時以降のバイトが禁止されているため、うちのスーパーでは九時四十五分までになっている。

「おかえりー今日もバイト?」

リビングでテレビを見てくつろいでいる母がこちらを見ながら言ってくる。

「そうバイトだった。飯どこ?」
「あー、そこに作ってるから。適当に食べといて」
「りょーかい」

俺はキッチンに置かれている唐揚げをレンジに入れ、温める。
温め終わるとそれをリビングに持っていき、腰を下した。

「あれ、ご飯はいらないの」
「まぁそんな腹減ってないし」
「あんた、バイト中にバイト先のお惣菜食べるの良くないよ」
「食べねーから。最近あんま腹に入らなくなっただけ」

バイト中に惣菜食うやつなんて見たことねーよ俺。
言うと母は面白くなさそうにまたテレビに顔を向けた。

「おっ、この子あんたの好きな子じゃない?」

こっちを向かず眠たくなる声で母は言う。
俺は唐揚げを頬張りながら、テレビ画面を見ると、母の言うとおり俺の大好きな女性歌手が写っていた。

彼女の名前は『サーヤ』。
ファンの間では『サーヤン』と呼ばれている。
『ストロベリーズ』という四人組バンドのギターボーカルだ。
『ストロベリーズ』は今人気急上昇中のバンドで、今出ているように、人気番組で特集されるほどである。
俺の周りの友達はみんなファンで、勿論俺もこのバンドのファンだ。

というか俺はサーヤンのことが好きで、ついでにバンドのファンをやっている感じである。
あのポニーテイルの艶のある黒髪。
モデルにも匹敵するであろう体型に、天使のような顔立ち。
そんなか弱そうな美少女が、ギターを持つと人が代わったように荒れる。
ライブのときなんてメンバーで最も荒れ狂い、毎回汗だくになっている。
そんな見た目とのギャップも俺は好きだ。
それに俺と同年代なので勝手に親近感を持っている。

今は画面上で共演者と楽しく談笑して、笑顔を浮かべている。

今日もサーヤンが元気そうで良かった。
そう俺が安堵しているとそんな俺の様子を見た母が口を挟む。

「なにそんな凝視してんのよ。気持ち悪いねー」
「気持ち悪くねーよ! サーヤンは可愛いだろ!」
「いや気持ち悪いのはあんたのこと」
「それはごめんなさい」

謝罪すると横にしていた体を起こす母。
そうして俺の前にあった唐揚げをヒョイッと取って食べる。

「そう言えば、あんなたこの子のためにバイトしてるんだったね」

唐揚げが口に入ったまま、母は話しかける。
そう、俺が『バイト人間』とまで言われながらもバイトするのはこのサーヤンのためだ。
来月『ストロベリーズ』のCDが発売される予定でそれになんと握手会の券がついているのだ。
その券が出る確率、なんと百分の一。
つまり握手会に確定的で行くにはCDを百枚買わなければならないのだ。
金額にして二十五万。
普通の高校生なら手が出ない値段だが、あいにく俺は普通の高校生じゃない。
半年前から、このようなイベントがあることを予想してコツコツを貯めている。
貯金はちょうど二十五万程度ある。

ふふっ、来月のCD発売が楽しみだ。
え、二十五万をかけるなんて馬鹿だって?
サーヤンと直接会って、握手できるなんて百万でも安いくらいだよ。
俺がテレビに映るサーヤンに夢中になっていると、それを見た母は冷めた声で言い放った。

「なんか、キモいわね……」
「なに!? またサーヤンをキモいと言ったか!!」
「だからあんたのことよオタク息子ぉぉ!!」


○  ○  ○


そんな怒りの声が矢山の家で響いていた時。

ある家の少女が布団の中で顔を埋めていた。
足をバタバタとして、埋めた顔はニヤニヤとしている。

「今日はいっぱい話しちゃったな~。ふふふふふ」

少女の長い黒髪は少し乱れていた。
そんなことを気にしない少女の顔はまだニヤけたままだ。

「サヤー、今あんたテレビ出てるわよー」

すると少女の母親が部屋のドアを開く。

「あ、そう言えばあの番組今日だったね」

言うと母親と一緒にリビングへ行く少女。

テレビの番組では『ストロベリーズ』というバンドの特集がされていた。
画面の中には楽しそうに話す少女の姿がある

そして、その画面から目を離さない母親と少女の二人。


そのリビングのテーブルには、サングラスがポツリと、置かれていた。
読んでくださってありがとうございます。
僕も今スーパーのバイトしているので、そのときのイライラする言動を書いてみました。
レジをしたことがある人ならきっと共感できるはずです。
ではでは、毎日更新目指してがんばりますので、ブックマークなどお願いします。

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