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帰ったら無職でした6

三人がこっちに来た経緯は分かった。

確かに権力闘争の中に巻き込まれたら、うんざりするだろう。


特にエギーユなんかは元々手先のちょっと器用なただの工員だった。

片田舎の工房で日々武器を作っていたところ、俺や師匠があれこれ注文して魔道具を作ってもらったんだ。

かなり道具制作のセンスは良く、特に刻印魔法に関してはずば抜けていて、師匠のムチャ振りにも応えてくれた。

それで、大魔王討伐の旅に出るとき、無理を言ってついてきてもらったんだ。


そんな片田舎のおっさんが、陰謀渦巻く国家間の政争劇に参加出来るわけがない。

誰にも知られていない場所に逃げたくなるのも当然だろう。


師匠も魔法の研究の邪魔になりそうな事には近寄りたくもないだろう。


しかし、リアは分からない。

てっきりキーレンの片腕として辣腕を振るうかと思っていたんだ。

それか、あのクソみたいな性格の女神を祭る教会のトップになるとかな。

性格に難があるとはいえ、あいつは世界を救った女神には違いない。

これからはより信者も増えるだろうに。


「それが問題だったのです。教会の中で、女神サイリス様より直接お言葉を頂いたのは私だけでした。それで………」

「なるほど、嫉妬か。あの坊主共はしょうがないな」


流石のキーレンも大国と教会の勢力から妹を守りきる自信が無かったんだな。

サイリスのババアしか繋げない世界回廊なら、向こうの手が及ぶことは無いって訳か。

俺は一人納得すると、頷いてみせた。


「で、お前達はこれからどうするんだ?」

「「え!?」」

「え?」


エギーユとリアは驚いたように目を丸くした。

それを見て、俺もビックリする。


「まさか、ノープランでこっちに来ちゃったの?」


二人揃って首をコクコクと縦に振る。


「こっちにはサイリスを祭る教会なんて無いよ?」

「えっ!?」

「魔道具を作ってる工房もないし」

「はっ?!」

「それに、こっちは資本主義経済だから、配給なんてごく一部しかやってないよ」

「「えっ?」」

「働くにしたって、戸籍も無いんじゃ厳しいんじゃないかな?下手したら不法入国で捕まっちゃうかも」


異世界アルビオンは割と人の流入には無頓着だった。

大魔王との長きにわたる戦争で、戸籍なんかも意味をなさなくなっていたからだ。

なので、監察官が魔法で魔族じゃないと判断したら、何処でも自由に働く事ができ、配給を受け取れた。

こいつらは恐らくそんな感覚で此方に来たんだろう。


「そこはトールのお力添えで………」

「ムリムリ、僕はこっちじゃ一介のサラリーマン………になるはずだった無職だから………」


力無く項垂れる二人。

僕も無職になったという現実を思い出して泣きそうになった。


「ワシは既になるものを決めたぞ!」


不意に力強い言葉がダイニングに響いた。

見ると、師匠。勝ち誇った顔をしている。


「何に、なるんですか?」

「うむ、よくぞ聞いてくれた!それはの」


この無駄に長いタメ。

なんか嫌な予感がしてきたぞ。


「ハナヨメじゃ!」


ダイニングに静寂が訪れた。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「トールの御母堂の元で『ハナヨメ修業』をして、立派なハナヨメになるのじゃ!」


師匠は力強く言い切った。


「あの、師匠?」

「なんじゃ?」

「師匠は花嫁って何か知ってますか?」


僕は一応聞いてみた。

だって、今の今まで師匠に結婚願望があるなんて知らなかったんだよ。


「む、料理を極めし者の事ではないのか?」

「う~ん、間違ってはないのかなぁ………それだけじゃないけど………」

「なんと!料理だけではないのか!?」


驚愕に歪む顔。

視界の端でエギーユも花嫁が何か分からないって顔をしている。

そういえば、アルビオンって貴族以外は婚姻制度って無かった様な気がするな。

所謂、乱婚ってやつだ。

村落毎で複数の男女が関係を持っていたんだ。

それぞれパートナーを築いていては、子孫を残しにくい環境だったんだろう。

その代わり、村落内での繋がりはかなり密だった気がする。


「端的に言っちゃうと、特定の男性の生活におけるパートナーって事ですよ、師匠。リアなら分かるよね?」

「え、ええ」


庶民と違い、王や貴族達は血統に重きを置いていた。

だから、彼等は自分のパートナーを固定させていた。

勿論、子孫を残しやすいように、複数の側室を持つ一夫多妻の形式をとってはいたけどね。

なんにしろ、生活習慣が現代日本とアルビオンでは随分違っている。


「パートナーとは、も、もしかして、こ…こ………」

「?」

「こ、子を成すような事もするのか!?」


師匠の顔は真っ赤になっている。

さっきも思ったけど、師匠のこのウブさはなんなんだ。


「しますよ。むしろ、子を成す為の#番__つがい__#なんですから」

「………はうっ!」


師匠は顔から湯気を出して倒れてしまった。

これが齢数百年は重ねた魔女と恐れられていた女性だとは思えないよ。

それは、エギーユやリアもそうだったみたいだ。


「シルマ様って、こんなに可愛らしい方だったんですね」

「あ、ああ。意外だぜ」


リアとエギーユも倒れた師匠の顔を覗きこむ。


「魔法研究の為に、人里離れた森の中で暮らしていたんだ、そういった方面に疎くても仕方ないよ」

「それも、そうですわね」

「ま、それでもこんな反応はあり得ねぇけどな」


取り敢えず、こんな所に寝かせておく訳にもいかないな。


「師匠を寝させてくるよ」


僕は師匠を抱き上げると、自室に向かう。

所謂お姫さま抱っこってやつだ。

師匠はスレンダーだから、殆んど重さを感じない。

まぁ、今の僕なら関取だって軽々と抱き上げる事が出来るんだけどね。


自室に戻ると、僕のベッドに師匠を寝かせる。

なんだかうなされているみたいで、冷や汗がスゴイ。

収納空間からタオルを取り出すと、顔中の汗を軽く拭いていく。


しばらく寝顔を見ていたけど、問題なさそうだからエギーユ達の所に戻るかな。

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