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遊園地着工します 5

「やはり、この先を見てみたいです」


田中さんがそう結論を下すのに、それほどの時間はかからなかった。

まぁ、上から何て言われているか分からないけど、単なる調査以上の何かが欲しいんだろう。


「了解。じゃあ、行きますか」

「はい!」


グッと杖を握る手に力が入る。

僕はそれを見て、思わず苦笑してしまう。


「あぁ、戦闘はしないですよ?」

「へ?」


どう考えても相手は知能が無い野蛮な魔物ではない。

その証拠に、僕らが退いたらおとなしく見逃してくれた。

それなのに、僕らが力任せに彼らを蹂躙して良いわけがない。


そんなような事を田中さんに言ったら、ばつの悪そうな顔をしていた。

相変わらずポーカーフェイスが苦手なようだ。


「じゃあ、どうやってあそこを抜けるんですか?」

「こうやって」


僕はパチンと指を鳴らす。


「?」

「行こうか」


一見して何の変化もない事に、田中さんは怪訝そうな顔をする。

そんな事は気にせずに、僕と二匹の冷狼はモグラ人の集落に向かう。

それを見て置いていかれてはまずいと思ったのか、田中さんが慌てて追ってくる。


再び衛兵モグラが見えてくるが、僕は気にせず進む。

田中さんは一瞬足を止めたけど、僕が制止もされずに集落の中に入っていくのを見て、怖々といった感じで付いてきた。


「どうなっているの?魔法?」

「そうだね。幻術と結界を組み合わせた魔法だよ。よくある手でしょ?」

「………それもそうね」


中に入って改めて思ったんだけど、ここはやっぱりモグラ人達の居住区の一つのようだ。

同じような空間が他にも幾つかあったけど、他も多分似たような感じなんだろう。


ただ、他の居住区にいるモグラ人よりも着ているものが上等な気がするな。

立方体から送られてきた映像では、他の居住区らしき空間にいるモグラ人達は、獣の革をそのまま着ているみたいだったけど、ここは刺繍が施された生地をきちんと体に合わせて仕立てられている。

持ち物を見ても、手の込んだ加工がなされているものが多い。

この先がすぐに彼等が「神」と呼ぶ存在がいるせいだからだろうか?

そうやって見てみると、なにやらここの連中は神官のようにも見えてくるから不思議だ。


考えながら歩いていたら、いつの間にか反対側の壁に着いてしまった。

距離的には一キロ位だろうか。

少し右に行くと、立派な装飾を施された出入口があった。


扉のようなものは無いけど、通路に見事な模様が彫ってある。


「この先に彼等が神と呼ぶボスがいるみたいだね」

「そうみたいですね」


田中さんの表情は固い。

どうやら緊張しているみたいだ。


「向こうが手を出してくるまで戦闘は無しだからね?」

「………分かっています」


現在、この結界の外の温度は百度を越えている。

そんな中では動きが阻害されてしまう。普通の人だったらね。

この前の戦闘では魔法も使っていた田中さんだから、熱の対処くらいは出来るだろうけど、それでも戦いが長引いたら途端に怪しくなるだろう。

そんな風に戦うことばっかり考えているから緊張しちゃうんんだろうね。

もっと平和的にいけばいいのに。


彫刻が施されている通路は程なく終わり、辺りは溶岩溜まりがあちこちにある場所に出た。

進路上の溶岩は冷狼から放出される冷気で瞬時に冷え、固まっていくから、僕らは苦もなく進んでいける。


陽の光が差し込んでくる場所に出た。

どうやら、火口まで無事に来られたようだ。


「ほう、珍しきモノが来たな」


地響きにも似た声が洞窟内に響く。

声の主は、小山のような巨躯を誇る………土竜だ。


いや、もちろん普通のモグラじゃないよ。

所々、鎧みたいに皮膚が硬質化しているし、溶岩の中に身を浸しているなんて普通の生き物じゃ無理だ。


ここまでくると、本当に土の竜って書くのも納得だよね。


あ、田中さんがちょっとビビってる。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「ここに我が眷族以外が来るのは久方振りだな」


こちらを見下ろして、巨大土竜が声を落とす。

何処からかは分からないけど、僕らの気配はとっくに感知されていたんだろう。

隠蔽の結界も意味がないみたいだな。

微々たるものとはいえ、要らない魔力を垂れ流すのもバカらしい。

僕は結界を解いた。


「はじめまして」


とりあえず挨拶は大事だからね、僕は軽く頭を下げた。

田中さんも同じように頭を下げる。


「うむ。して、我が寝所になにようじゃ、異形のモノ等よ」

「イギョウ?!」

「まぁまぁ、彼らから見れば、僕らは立派な異形の化物だよ。自覚無いの?」

「なっ!?」


ここは異世界だ。

モグラ人達がこの世界の通常の人類だとしたら、僕らはイレギュラーな存在で間違いない。

ましてや、僕らは彼等よりも数倍強い魔力を持っている。

田中さんだって一対一なら負けることは無いだろう。

悪魔や化物の類いだって思われても仕方ない。


「僕らは、この世界とは別の世界で暮らしている者です」

「ほう。では、この国に出来たあの揺らぎの向こうから来たのか?」


察しが良くて助かるな。

見かけによらず知能もかなり高いとみえる。


「その通りです。僕らはここが危険な場所かどうかを確認しにきました」

「ほう、それで人の家に土足で入ってきたのか?」

「これは申し訳ありませんでした。なにぶん不調法なもので勘弁して頂きたい」


土足禁止だったか。しまったな。

でも、何処で靴を脱いだら良かったんだろう?


小声で呟いたら田中さんが睨んできた。

そういう意味じゃ無いことは分かってるから、そんな怖い顔するのは止めて欲しい。


「まぁ良かろう。で、どうじゃ?ここは危険な場所か?」

「いえ、全く危険は無いかと存じます」

「ほう」


巨大土竜の目が細くなる。

威圧の為か、少なくない魔力が放出される。


侮られたと思ったのか?

意外と好戦的なのかもしれないな。


じゃあ、僕も真似をしてみよう。


「ぬっ」


圧力に耐えかねたのか、巨大土竜は一歩後退する。

まぁ、隣で腰を抜かしそうになっている田中さんよりもマシな反応か。

一応味方なんだからそんなに怯えなくても良いだろうに。

さっきまでの反抗的な態度はなんだったんだろう?


「僕らは平和的な話し合いをしたいと思っています」


魔力に言葉を乗せる。


「む、無論我も同じだ」


土竜さん声が震えていますよ。

まぁ、僕より勝っているのが重量だけだからそうなるのも分かるけど、神様って呼ばれているような存在ならもうちょっと威厳が欲しいな。


「それは良かった」


僕はまた魔力の放出を抑える。

ちょうどその時に、モグラ人達が通路を通ってここに現れた。

多分僕の魔力を関知して、何かあったのか確かめに来たんだろう。

こちらを遠巻きに見て何か騒いでいる。

それでもこっちに来ないって事は何か規則があるのか、単に怖がっているのかどっちだろう?


ま、なんにしろ驚異にはならないから良いか。


「さて、おはなしを始めましょうか」


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