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遊園地着工します 3

「ここを厨房にしようと思っています」


この遊園地ではセントラルキッチンの形式をとろうと思っている。

この厨房で全ての料理を作り、各売店や宿泊施設に運ぶのだ。

運ぶのはここと各店を結ぶ転移装置を使う予定だ。


宿泊施設に関しては酒場兼宿屋を十軒くらい用意しようと思っている。

まぁ、これは父さんの入れ知恵なんだけど、RPGなんかだとそれが鉄板らしい。

これを島の外周を通す予定の鉄道の駅近くに建設する予定だ。

後は、バンガローなんかのキャンプ施設を置き、野外活動の気分を味わってもらう。

もっと本格的に冒険者気分を味わいたい人には、手頃な大きさの洞窟なんかも多数用意してあり、そこで野宿をしてもらうつもりだ。

安全対策として洞窟の周りには食べられる果樹を植えてあり、飢餓に陥らないような配慮もしてある。

これには由香さんのアビリティが役に立った。

彼女の持つ【豊穣】は食べたことのある植物の種を植えたら、即座に食べられる状態まで育つというものだ。

また、彼女が領域と定めた場所は、植物の成育が良くなるといった効果もあるようだ。


この厨房の隣にも彼女の能力で領域化してもらう予定の土地を設置する。

既に、先ほど空間拡張の魔法をかけておいたので、後は由香さんに能力を使ってもらうだけだ。

うん、地産地消は大事だよね。


「厨房設備は発注しなくて良いって言ってましたけど、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


英孝さんはそういうと部屋の真ん中に歩いていった。


「【厨房展開】」


英孝さんの言葉と共に室内が一変する。

あっという間に立派な厨房が出来上がる。


「ほぉ」


師匠も思わず唸り眼が光る。

それにしても見事な能力だ。

水道なんかまだ引いていないのに、蛇口を捻れば水が出る。

これが彼が神から貰った能力らしい。


「良かったら何か作りましょうか?」

「良いんですか?」


調度小腹が空いてきたところだ、ここは素直に甘えようと思う。


「お口に合うか分かりませんが」


なんて言いながら、英孝さんは一瞬でハンバーグを作ってくれた。

うん、本当に一瞬だ。

僕の知覚をもってしても把握できない速さで、人数分のハンバーグにスープ、ライスを出してくれた。


「美味しい!」


そして、師匠はそれを一瞬で食べ終わってしまった。


「これは複数の魔獣の肉を捏ね合わせた物を焼いているのだな。味もそうだが、内包しているマナの量が………」


なるほど、この手際なら島内の食事を一手に任せてしまっても大丈夫みたいだね。

もし無理そうなら何らかの対策をとらないといけないと思っていたけど、必要無いみたいだな。


僕らはハンバーグに舌鼓を打つと、次の部屋に向かった。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「門田さんにはここでエギーユと作業してもらおうと思っています」


ここは城の最下層となる場所だ。

壁を挟んだ外側にはもうひとつ洞窟があり、そこを鉄道が走る予定になっている。

そして、ここが車庫兼工場となっている。


まぁ、ここはそればかりではなくこの遊園地で必要な物を色々と作っていくための場所だ。

例えば送迎用の舟なんかもそうだ。

一応、この城がある山と反対の方角に港が作ってあるが、舟の設備点検はここでやる予定だ。


あと、来場者が着るための服や鎧、武器の類いもここで製造してもらう。

開園までの作業はここが一番多いはずだけど、エギーユがいれば大丈夫だろう。


「ここですね。内装は自由にして良いんですよね?」

「もちろんです。使いやすいようにしちゃってください。ただ、機械設備なんかの発注があれば早めにお願いしますね」


魔法で全て解決させる気はない。

この世界の技術でも、魔法を使うより効率的に作業が出来るものはたくさんある。

そういった機械設備をケチるつもりはない。

まぁ、勿論予算に限りはあるんだけどね。


「あぁ、そういったものは大体作れちゃうと思うんで大丈夫だと思いますよ」


そう言って門田さんが地面に手を置く。

その手は妙に金属っぽい光沢を放っている。

ひょっとしたら、義肢なのかもしれないなと思っていたら、地面から金属の板がせり上がってきた。

それは見る間に形を変えていき、見慣れた物になっていく。


「コピー機?」

「えぇ、そうです。図面さえあればある程度の物は作れます。なので、心配しなくても良いですよ」

「へぇ、凄い能力ですね」


うん、また師匠の眼が怪しい光を帯びる位には凄い。


「あ、一つだけ許可をもらいたいんですけど………」

「なんですか?」


門田さんの行ったフュミルという世界は科学が進んだ果てに、魔法のような事が出来るようになった所のようだ。

そこでは極小のヨクトマシンと呼ばれる粒子機械が散布されており、それを特殊なデバイスで操る技術が使われていたらしい。

門田さんが許可してほしいと言うのは、ここにそのヨクトマシンを散布したいというものだった。


「それは人に対しては無害なものなんですよね?」

「もちろんです。操作しなければ害を与えるものではありません」

「ふぅむ」


ちょっと「操作しなければ」って単語に引っ掛かりは感じるけど、それは僕らにとってのマナと一緒か。

数秒考え込むと、僕は結論を出した。


「うん、散布しても良いですよ」

「本当ですか!?」

「はい。ただし、この島を囲む結界の中限定にしてくださいね」

「わかりました」


少量散布すれば、自己増殖していくそうなので、管理は全て門田さんにしてもらうことにした。

門田さんの腕が一瞬だけ滲んだように見えた。

どうやら、それだけで散布されたようだ。


師匠も気になっているようだし、後でもうちょっと詳しく聞いてみよう。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「いよいよ、私の番ですね」


司祭服を身に纏い、リアが張り切っている。

この島に上陸して早一週間、ようやく色んな物が形になってきていた。

僕らの事務所は八割がた出来上がり、いつでも稼働できるようになっている。

社員寮なんかもあって、すでに僕以外の七人はここで寝泊まりしている。一応、僕の部屋も用意してあるんだけど、今は自宅から通勤している。


今いるのは出来上がったばかりの神殿だ。

とはいえ、外観はなんの飾り気もないただレンガを積み上げただけのものだ。

内装はというと、様々な素材を用いて施した魔法を発動させる為の刻印が、ある種のデザイン性を以て配置されていた。


一階部分にある礼拝堂には参列者用の長椅子と、その上座には一段高くなった祭壇が設えてある。

そこで集会や説教なんかをするわけなんだけど、今日のところは用がない。

僕らはその上、二階というか屋根裏部屋に来ている。

窓もないその部屋の中央には、大きめの台座が置いてあり、そこに僕とリア、それから師匠の三人が集まっていた。


「うむ、準備は全て整えてある」

「ありがとうございます、シルマ様」


まぁ、実際の作業をしたのはほとんどエギーユなんだけどね。

ただ、師匠の監修が無かったら出来上がらなかったはずなので、ここでは余計な口を挟まない。


リアに収納空間から出した石を渡す。

この一抱えもある石は神授石って言って、最初に魔王を倒した時にサイリスから与えられた物だ。

これは新しい神殿を作る時に、その御神体として安置する石なんだそうだ。


その神授石を台座に嵌め込むのを見届けたあと、僕と師匠は神殿から出ていった。

これからリアはこの神殿を浄めて、三日三晩祈りを捧げるらしい。


なにげにこの神殿を作るのが一番時間がかかっている。

まず場所だ。

僕にはよく分からないんだけど、神の力を受けやすい地形っていうのがあるらしい。

普通はそれっぽい所を見つけて、ある程度手を入れて整えるらしいんだけど、今回はその地形を一から作ったんだ。


川を引いたり、丘を作ったり、樹木を植えたり、その行程は挙げたらきりがないほどだ。

川に流れる水も、清らかなものが良いって事で、浄水設備も作ってある。


ちなみにこれは門田さんが作ってくれたもので、この島がある湾内の水を汲み上げ、濾過したものを城がある山から流しているんだ。

このときに出た不純物は、塩、有機物、重金属なんかに別けられ、それぞれ必要な部署で活用している。


まぁ、折角だから他にも何本か川を作ってみた。殆どは農業用水なんだけど、中には少し大きめのもので舟遊びができるようになっているものもある。


山には滝も作り、そこでリアは二日間飲まず食わずで禊をして今日に臨んでいる。

そこまでして神殿を作ったのには訳がある。

それはリアの【端力】の為だ。

リア達神官は神の力の一端を借り受けて、数々の御業を行使する。それが【端力】だ。


しかし、この世界ではリアの信仰する神の力は殆ど届かない。

リア以外に信仰する者がいないっていのもあるし、神の力にアクセスするポイントが無い為でもある。

だから、今のリアはアルビオンと違って自由に力をふるえないんだ。

その為に神殿を作るのは、リアにとって急務だった。

まぁ、神授石をはじめ材料は揃っているし、師匠はこの手の事にも造詣が深い。

時間さえあればそれほど難しい作業では無いはずだ。

ただ、英孝さんの作るご飯が美味しすぎて、断食しなければいけないリアは、何度か誘惑に負けそうになっていた。

それでも、不屈の精神力で一回しか負けなかったのは偉いと思う。

うん、あんなに旨い飯を後三日は食べられないなんて可哀想だね。


取り敢えずその後で僕と師匠、それから甲斐さんと一緒に厨房の隣にある食堂で昼食を取りながら、宗教法人として申請するかどうか小一時間話し合った。


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