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遊園地着工します 2

「かんぱーい!」


掛け声とともに打ち鳴らされるガラスのジョッキ。

中には琥珀色の液体が並々と注がれ、キメ細やかな泡がそれを蓋する。


ここは居酒屋だ。

人数は僕を入れて男女八人。

それなりの人数なので、個室のある居酒屋にしてある。


「先ずは自己紹介からしましょうか」


これは断じて合コン等ではない。

今後、僕と一緒に遊園地を運営する予定の帰還者達だ。

ここにいるのは非戦闘要員なので、自衛隊や警察組織に組み込まれなかった人達五人だ。

一応、正式な顔合わせは昼間に役所の会議室で済ませてある。


先ずは僕から自己紹介を済ます。

次いで、リアと師匠が続く。

残念な事に、エギーユは仕事が忙しいらしく不参加だ。

後でお土産でも買っていってやるか。


「あ、私は甲斐隼人です。ファルトからの帰還者です」


手元にある履歴書には三十六歳とある甲斐さんは、会計士らしい。

なんでも、ファルトにあるサイセブ王国の宮廷魔導師に召喚されて王国の破綻しかけた財政を立て直して来たらしい。

そんなに凄い人なら再就職も出来るだろうと思ったけど「私、パソコンが出来ないんです」なんだって。

ファルトで三年過ごした甲斐さんが戻ってきたら、こちらでは三十年経っていたらしい。

うん、そんなに経っていたら付いていけないよね。


「許斐英孝です」

「許斐由香です」


二人は共に二十五歳で夫婦らしい。

たまたま名称不明の異世界で出会ったんだって。

そこで一緒に過ごす内に惹かれあってゴールインしたらしいんだ。

帰ってきたら実家の食堂が潰れて無くなっていたそうだ。

彼等は今後、調理担当として働いてもらうことになる。

うん、既に彼等を見る師匠の眼光が尋常じゃなくなってきているね。


「門田健司です。異世界フュミルから帰ってきました」


彼は技術者のようだ。

国立大の工学部に在籍していたら、フュミルの異端神に強引に引っ張られたらしい。

なんとか出されたお題をクリアして戻ってきたそうだ。

今後、エギーユと一緒に設備担当になってもらおうと思っている。


「最後はアタシですね。ミルコスから帰還した鈴木明美です」


彼女は十八歳とこの中ではリアと並び最年少だ。

ただし、こちらの年齢ではと注釈が入るのだが。

ひょっとしたら、彼女が一番過酷な異世界生活を送ったのかもしれない。

彼女を召喚したのは、自称ミルコス最高の大賢者だそうだ。

「自称」としたのは、彼女はその世界では大賢者としか会っていないからだ。

鈴木さんは大きな鳥籠の中に、精神体の状態で召喚された。

そして、そのまま数百年という長期間に渡って拘束されていたらしい。

することと言えば、大賢者の話し相手だけ。

たまに歌を歌わせられたらしいけど、それだけだ。

本人曰く「これでイケメンだったら良かったんだけどね。なんか骸骨みたいにガリガリで暗いオッサンだったわ」らしい。

ある日、その大賢者が光に包まれて消えたと思ったら、ベッドの上で目を覚ましたらしい。

しかも、召喚された時のままの姿で。

これだけだとただの夢オチなんだけど、厄介な事に軽い魔法を使える様になっていたらしい。

それで、病院に行ったら黒服の人がある日家に来て今に至るそうだ。

彼女には今後、広報なんかをやってもらおうかと思っている。


彼等は非戦闘系とはいえ、こちらの世界ではあり得ないアビリティを持ってたりして普通の社会生活を送ることが困難な帰還者だ。

今は酒の力を借りて苦労話に花が咲いている。

あ、勿論リアや鈴木さんの未成年者はソフトドリンクを飲んでますです、はい。


二時間が経過する頃には、すっかり打ち解けていた。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



「さて、とうとうこの日がやって来ましたね」


年が変わってもう二月。

僕らは競売を経て正式に所有権を得た「島」へ上陸した。

風は冬の気配を濃厚に残していて、肌が切れそうなほど冷たい。

なにせ今いるのは、標高四百メートルの山頂だ。

海に囲まれた島、そこに聳える山の頂上だ。寒くないわけがない。

僕らはここに事務所………いや、居城を築こうとしている。


とは言え、既に外壁なんかは半分出来ている。

この島を造るときに、大体の形もついでに造っておいたんだ。


「【創造】作業員」


僕が魔法を行使すると、周りに二十ほどの人影がわき上がる。

四本の腕を持つ筋骨逞しい彼等に、これから工事をしてもらうのだ。


先ずは城壁を覆う岩を取り外してもらう。

これは立ち入り調査の時の偽装に使っていた岩を外すだけなので、比較的簡単な作業だ。


岩の継ぎ目にノミを当ててニ、三度叩くと、簡単に外れて隠されていた城壁が顔を見せる。

その外した岩のブロックをあらかじめ決めてあった集積所に運ぶのだ。


簡単な単純作業とは言え、一つのブロックが数百キロはあるので、流石に人力だとしんどい。

重機なんかも足場が悪いので入っては来れない。

そこで活躍するのがこの無貌の作業員達だ。

異形の彼等は複雑な事は出来ないが、こういった単純作業にはすこぶる優秀さを発揮する。

力強い腕と、繊細な作業をこなす腕の二対の上肢を持ち、分厚い足裏の筋肉はどんな悪路もへっちゃらで、垂直の壁さえも吸盤のように張り付くことが出来る。


こうして集められた岩のブロックは、後で加工を加えられて主要な道路の石畳になる予定だ。


「さて、これで外はなんとかなるでしょう」


早速出来た出入り口から中に入る。

屋内とはいえ、なんの暖房設備も無く、風がびゅうびゅう吹き抜ける城内はかなり寒い。

僕はまだ大丈夫だけど、鈴木さんや甲斐さんはかなり辛そうだ。

取り敢えず、火球を出して暖まってもらうことにした。


「ありがとう」「ありがとうございます」


今までガチガチいってたのが、ようやく人心地ついたようだ。

二人は火球の前で手をこすりあわせている。


その間にも、僕はまた作業員を造り出し、まだゴツゴツしている壁や床を綺麗に磨く事を命じる。

以前、エギーユが造った研磨機を渡すと、各自の持ち場へと移動していった。

あちこちでガリガリジャリジャリといった音が響く。


「【創造】清掃員」


清掃員はスライム状の身体に、異物を取り込んで吸収していく疑似生命体だ。

この場合は小石や砂を取り込むように設定してある。


「はぁ、ハイテクなのかローテクなのか分からないなぁ」


これは許斐さん………英孝さんの発言だ。

確かに言いたいことは分かる。

床材を綺麗に磨くなんて、僕の魔法でも行うことは可能だ。

むしろ、作業時間は短いだろう。


ただ、これからの保守なんかを念頭に置いたテストでもある。

人に置き換え可能な作業員を使うことにより、魔法無しでどういった事が出来て、何が出来ないのかを探る意味合いもある。


こんなことを考えている間にも、今いる部屋が綺麗になった。

さて、次の作業だ。


「よし、任せておきな」

「うん、じゃあ後はよろしくね」


室内に温度や湿度なんかを調整する印を刻んでいくんだけど、エギーユが張り切っているからもう任せてしまおう。

僕は他の人と一緒に地下へと向かう。

後で「え、おい!ちょっと!」なんて聞こえてくる気がするけど、気のせいに違いない。

エギーユの事をよく知らない帰還者達は「大丈夫なんですか?」なんて言ってるけど、彼は技術者としては非常に優秀なんだ。

僕なんかじゃ足を引っ張りかねないので、作業中はあまり近くにいない方が良いんだ。

うん、きっとそうだ。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


地下への入口は謁見の間にある玉座の後だ。

まぁ、今は何にも無い所にポッカリと穴が空いているだけだけどね。

緩いスロープを降りて、地下へと向かう。

このスロープもそのうち階段へと加工するつもりだ。


「ライト」


明かり取りも無い薄暗い場所なので、師匠が魔法の明かりを点けてくれた。

どうやら門田さんと許斐夫妻は暗視のスキルを持っているみたいだけど、甲斐さんと鈴木さんは足下が覚束なかったんだ。


「魔法ってこんなことも出来るんですね」


甲斐さんがポツリと呟いた。


「甲斐さんが行ったファルトにも魔法は有ったんですよね?」

「え、ええ。ですけど、あちらでは大掛かりな道具を使った儀式をしてましたから、こんなに簡単に明かりなんて出してなかったです」

「ほぉ、例えば?」


甲斐さんの話に師匠が食い付いた。


「え、ええ。日照りが続いた時に雨乞いしたり、疫病が流行った時にその感染を防止したりしていたようです」

「して、効果は?」

「雨乞いは一週間以内にはまとまった雨が降っていた印象です。なので、少なくとも私がいた間は飢饉が発生することは無かったです。疫病はちょっと分かりませんね。その儀式で治るわけではないみたいでした。あくまでも、そこから新たに発症しないって感じなんですかね」

「なるほど、魔術の初期段階だな。だが、効果を確実に出せるとなると………」


あ、師匠が思考の深い海に没入してしまったようだ。

眼が光っている所を見ると、甲斐さんの脳内を検索しているのかも。

この人は本当に魔法の事となると見境が無くなるから困ったもんだ。


「でも、雨乞いや五穀豊穣の儀式は、お祭りみたいで楽しかったなぁ」

「へぇ、良いですねぇ」


お、門田さんがお祭りって言葉に反応したぞ。

祭り好きなのかな?


「やっぱり、お神輿とかもあったんですか?」

「ありました、ありました。集落のあちこちにある礼拝所を練り歩いていましたよ」

「良いなぁ。楽しそうだ」

「………ふむふむ、人の思念を媒体に移し………」


楽しそうな二人の後でブツブツ呟くスーツ姿の美女。軽くホラーだな。

それにしても、色々と話を聞いていると甲斐さんは異世界での生活を満喫していたようだ。

特に魔獣に襲われたり、他国との戦争を経験したりとかはしなかったみたいで、荒事とは無縁の生活だったみたいだ。


その代わり、特産品を作ってその販路を築いたり、帳簿整理のやり方を指導したりと僕には出来ない事色々とやってきたようだ。


もうちょっと早く紹介してもらっていたら、会社設立の苦労は無かった気がする………


「じゃあ、ここが事務所になるんですね」

「そうです。甲斐さんには主にここで業務してもらうと思います」


十坪程の部屋だ。

何もない部屋に、事務机を八つ並べていく。

これは予め買っておいたものだ。


「取り敢えず、こんな感じで良いですかね?」

「そうですねぇ」


机に書類棚なんかを置いてレイアウトを確認する。

まぁ、まだ床や壁がまだ出来上がって無いので、仮に置いてみただけだ。

幾つか甲斐さんの要望を聞いて、次に向かうことにした。


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