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遊園地作りの下準備をします 5

「倒したけど、結界は消えないか」


スーツの無事を確かめた僕は、さっきの女性自衛官の持っていた杖を手にすると、世界を分断している壁をつつく。

それだけで、呆気なく結界は壊れ、消え去った。


「なっ!?」


結界を出た所には、口をパクパクさせているおじさんがいた。

さっき戦う前に聞いた話だと、自衛隊の背広組の偉い人らしい。


「ん?」

「………どうやって、結界を?」


あぁ、結界を解いたことにびっくりしたのね。


「弱い部分があったから、こうつんつんとね」

「つん………て、えっ!?」


年甲斐もなく驚きすぎだよ。

その間に、倒れている自衛官に回復魔法をかけておく。

随分と頑丈そうだったからすぐに目を覚ますだろう。


そんな時だ。


「こらっ、トール!」


背後から師匠の怒鳴り声が聞こえてきた。

カツコツとヒールの音を朝の波止場に響かせながら、師匠はこちらにやってきた。

あれ、僕なにしたんだろ?


「あんなにあっさり倒してしまったら勿体ないだろう!」

「え?」

「折角、異界の術式が見れると思うたのに!」

「はぁ」

「こう、もっと長引かせて奥義なり必殺技なり引き出せといつも言っておろうが!」

「だって、疲れる………」

「いい若いモンが言うことか!」


ヤバイ。

なんか、めっちゃ怒られてる。

こっちはいつスーツが破れやしないかとヒヤヒヤしながら戦っていたのに、なんか理不尽だ。


あ、あそこで遠巻きに見ているのは、今日アポイント取ってたお役人さん達だ。

なんかヒソヒソ言ってる。


「師匠、そろそろ………」

「む?」

「仕事に移っても良いですか?」


それだけで師匠は事情を察してくれた。

うん、仕事が終わったら食事に行く予定になってるからね。

タイムスケジュールが狂うと、食事の時間が遅くなるからね。

昨夜からずっと言い続けた甲斐があったよ。


自衛官が起き上がる頃には、お役人さん達もこちらに集まってきた。

名刺交換は済んでいるので、今日は淡々と挨拶してすぐに仕事へ移る。


「………ここに専用の出発ゲートを作って、船で送迎しようと考えているんです」

「ここに、ですか」

「うーん、ある程度調整は必要になってくるとは思いますが、不可能ではないかもしれないですね………」


うん、一発で返事をもらえるわけが無いからな。

とりあえず、島を造る為の候補地に行ってみよう。


僕は、収納空間からエギーユ謹製の高速艇を取り出した。

少し広めの三十人乗りだ。


お役人さん達は絶句しているが、自衛官達は平然としている。

まぁ、魔法を使えるならそう難しい技術じゃないから当然だね。


高速艇に乗り込むのは僕と師匠、自衛官六名、お役人さん五名の合計十三人だ。


うん、何故か自衛官達も付いてくることになったんだ。

てか、師匠が何故か無理矢理………



よし、深くは考えずに、大海原に向けて出航だ!



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


高速艇は文字通り速かった。

今回は内海なので安全第一で航行しているが、それでも時速八十キロほど出ている。


思ったより貨物船が多いな。

自動航行システム………水の精霊に運んでもらっているので事故は起きないと思うけど、ちょっと注意しておかないとね。


なんて心配をよそに、僕達は昼前には目的地に着いた。


着いたと言っても、そこはただの海上だ。

今のところ何もない。


「ここですか?」

「はい、一応ここを予定地としています」

「二百キロ平米でしたね。工期はどれくらいで?」

「一晩あればいけるとは思いますよ。陸地が出来てからは一月もあればとりあえずの設備は出来ると思います」


僕が苦労して書いた事業計画書通りの事を答えたら、お役人さん達は沈黙してしまった。

だけど、それも一瞬だった。

すぐに気を取り直して、質疑を続ける。


「埋め立て工事をするのではないのですか?」

「師匠と僕の魔法で地底を隆起させます。その場合の潮流の変化や、一時的な津波の解消法としては、添付してある資料に詳しく書いてあります」


今回、僕に同行しているのは帰還者の情報を開示されている立場の人達。

つまり、ある程度以上の地位に就いている官僚だ。

学歴も人並み以上にあるし、理解力も低くない。

いや、頭の回転だけなら僕より遥かに速い。

彼らは出来ること、出来ないこと、やってはいけないことを瞬時に判断しながら質疑を繰り返す。


こういったシガラミにまみれたやり取りは、やっぱり肩が凝るなぁ………


僕も師匠みたいに訓練空間に自衛官達と籠って身体を動かしていた方がどれだけマシなことか。


「それで、加藤さんここの環境アセスメントなんですが………」

「あくまでも自然に隆起したものとして………」

「ここへのアクセスは………」

「こことこことここの三点を基点に………」



視察が終わったのは夕方だった。

そこに至って、僕は誰も船の免許を持ってないのを思い出したので、瞬間移動で港まで戻った。

変な事でまた突っ込まれたくないからね。


港に着いてお役人さん達と別れた頃、新しい術式の研究を終えた師匠がホクホク顔で訓練空間から出てきた。

ヨレヨレになった#自衛官__モルモット__#と一緒にね。


彼等の顔は蒼白だった。

分かるよ、僕も最所はそうだったから。

でも、「遊園地」が出来たら、帰還者の彼等とも連携していかなきゃいけないんだから、師匠にはもうちょっと自重してほしい。


そんな事、怖くて言えないけどね。


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