プロローグ
「くらえぇぇぇぇっっっ!!!!!」
仲間が最後の力を振り絞って、大魔王オルキスの動きを止めてくれている。
ここを逃すと後がない。
聖槍ノイエに持てる全ての力を注ぎ込み、大魔王オルキスに突き立てた。
「グホッ」
聖槍ノイエは大魔王の装備する魔鎧を貫き、腹に突き刺った。
そのまま、聖槍ノイエから数万度にも達する白い焔が放射され、大魔王を体内から焼き尽くす。
「オノレェッ!」
最期の足掻きか、右手を振り上げるものの、それが精一杯だったようだ。
大魔王オルキスはボロボロと崩れ落ちていった。
長年アルビオンを闇から支配していた大魔王オルキスの呆気ない最期だ。
「勝った」
僕はその場にへたりこんだ。
装備はボロボロ、身体は満身創痍。体力、魔力共にほぼ尽きかけている。
それは仲間も同じようだ。
三人ともその場に寝転んでピクリとも動けないでいる。
魔道具使いのエギーユ。
彼の造る薬や道具にはいつも助けられた。
大賢者シルマ
僕の魔法の師匠でもある彼女の使う魔法が無ければ、ここまでの道を切り開く事は出来なかったに違いない。
聖女リア
ジルオン公国の姫でもある彼女には、身も心もも癒されたよ。
誰か一人でも欠けていたら大魔王の前にも立てなかったに違いない。
仲間の無事を確かめ、もう一度大魔王だった灰に目をやると、急に辺りが暖かい光で満たされた。
ボロボロだった俺達の身体から急速に傷が癒えていく。
同時に、さっきまで立っていることすら出来なかった体力も元に戻ってきた。
リアの回復魔法以上だ。
こんな事が出来る存在は、一人しか知らない。
俺をこの地に送り込んだ元凶。
女神サイリスだ。
「よくぞやってくれました勇士達よ」
サイリスはにこりと微笑む。
エギーユ、シルマ、リアの三人は片膝をつき頭を下げた。
僕はそんな事しない。むしろ睨み付けてやった。
なんせ怨みこそあれ、こんな奴に頭を下げる謂れはないんだ。
「徹とおるには特に迷惑をかけました」
「本当だよ」
こいつ、大学の卒業式が終った直後に僕をこんな世界に呼びつけやがった。
そういった筋書きのアニメや漫画があるのは知っていたけど、まさか自分がそんな事になるとは思わなかったよ。
そっから戦って戦って、戦い抜いて………。
ホームシックにかかった事だって、一度や二度じゃないんだぞ!
女神サイリスはこの世界に来て鋭さを増した俺の眼光を受けても、その表情を変えない。
いや、額に一筋だけ冷や汗を浮かべているな。
「ねぇ、徹。気持ちは分かるけど」
あまりに睨む僕を見かねて、リアが嗜めてくる。
彼女達にとっては主神だもんな。
特にリアは国教であるサイリス教団の聖女だ。
仕方ない、睨むのはやめておこう。
「では、私から大魔王を倒した褒美を与えましょう」
嫌いな相手って、なんでこうも全てが癇に障るんだろうな。
「そんなもんいらん!早く元の世界に帰せ!」
思わず僕は怒鳴っちゃったよ。
そしたら、不意に目眩に襲われた。
「分かりました。この度は本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる女神サイリスを見た次の瞬間、僕の意識は闇に閉ざされた。