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1-4 野蛮人

充分に発達した筋肉は、魔法と見分けがつかない


            アーサー・C・クラーク

「召喚者よ夕餉の時間です。祝福の作業はその辺にして付いて来てもらおうかな?」


 小次郎が廊下で聞いた悪巧みの声の一つが神殿に響き渡った。


「シュテッケンさん、もう少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか? 妹の祝福がなんとかなりそうなので」


 小次郎がこわばった顔でムサシを背中に庇うと、表情から何かを察したシュテッケンが、剣の柄に手をかけながら近付いて来る。


「いやいや、初日から無理をなさって身体に無理をさせてはいけませんぞ? 今日の所はこの辺で……」


「近寄るな!」


 小次郎がシュテッケンの威圧に圧され、大声をあげた。


「何をお聞きになったのかは知りませぬが、何か誤解をなさってるな、心神耗弱の召喚者殿を丁重にお連れしろ!」


 シュテッケンが引き連れて来た兵士が剣を抜き放ち、じりじりと近付いて来る。


「カーズパラライズ!」


 小次郎が弱体化魔法の一つ麻痺付与の魔法を放つ。


「呪いか!」


 兵士が三人その場で倒れ、残りの兵士は間合いを取る。


「召喚者殿、魔法を使えるとは聞いてはいなかったが、王宮内でこう言う事をする意味は解っていての事だろうな?」


 シュテッケンがスラリと剣を抜く。


「妹が変態商人に売り払われると聞いたら、なんでもやりますよ……」


 初めての修羅場に歯の根が合わない小次郎が震える声で言い返す。


「召喚者殿、慣れない喧嘩をする時は口をきかない方がいい、震える声を聞かせたら心理的優位を相手に与えるだけだ」


 ニヤリと笑ったシュテッケンは自分の剣を器用にくるくると回し始め、ニヤニヤと笑い始めた途端、小次郎がうずくまった。


「ぐあ、痛たたた!」


 小次郎の左肩に深々とナイフが突き刺さり、傷口から鮮血が流れだした。


「こう言う事も慣れだよ」


 シュテッケンが笑い、シュテッケンの横に控えている兵士もニヤニヤと笑う。シュテッケンが剣を無駄に振り回して小次郎の視線を固定した後に、横の兵士がナイフを投擲したのだろう。



「お兄ちゃん!」


「来るなムサシ!」


 小次郎は自分の肩からナイフを抜き取り……たかったが、力が入らない。


「ムサシ、やっぱり抜いて」


 ムサシは無言で駆け寄り小次郎の肩に刺さったナイフを抜いた。


「ひゃ……」


 ドラマやアニメで見る傷よりも派手な流血を見て、ムサシがの顔色が曇る。


「ヒール……」


 小次郎が自分の肩にヒールの呪文を試すと、みるみる傷口が塞がって行く。


「呪いを使っておいて、治癒魔法も使うだと? なんてでたらめな! 放っておけば必ず我が国に仇をなすに違いない! 構わん首を切り落とせ!」


「パラライズクラウド!」


 小次郎が魔法名を唱えると、シュテッケン陣営に麻痺毒を含んだ紫色の霧が立ち込めた。


「麻痺毒だ! 一旦引け! 弓兵を用意せよ!」


 シュテッケンの陣営は神殿から這々の体で抜け出し、大声を出しながら援軍を呼んでいる。


「ムサシ、怪我は無いか?」


「こっちのセリフだよお兄ちゃん! さっきの怪我は大丈夫なの?」


 ムサシが何時になく真剣な顔で小次郎に走り寄る。


「ヒールで直ったみたいだけど、かなり痛かったよ」


 小次郎は力無く微笑んだ。


「さあ、本格的に時間は無くなったみたいだ。逃げるぞムサシ」


 小次郎が踵を返し、逃走経路を見回した時にパツンパツンと何かが弾ける様な音が聞こえたと同時に、小次郎が崩れ落ちた。


「いってえええええ、痛い痛い痛い」


 小次郎が抑えた右足の太腿に、二本の矢が深々と刺さっていた。


「お兄ちゃん!」


「抜いてくれムサシ、ヒールが出来ない」


 脂汗を流しながら小次郎が訴えて来るが、かえしの付いた矢はムサシの力では抜く事が出来なかった。


 表では弓兵らしき男が魔法使いを仕留めたと、大声をあげてはしゃいでいるのが見える。


 ムサシは弓の射線から逃げる様に白台の陰に隠れて、小次郎を渾身の力で引き寄せた。

「魔法少女とお兄ちゃん……どっちが大事かだよね……」


 脂汗を流して苦しんでいる小次郎を見ながら、ムサシは呟くと隠れながらそっと手を白台の上に置いた。


「お兄ちゃんの方が大事に決まってんじゃん!」


 白台が輝き出して「ピンポーン」と音を鳴らす。


「サードジョブの最適化とジョブの統合化を開始します」

「ジョブの統合化が正常に完了しました。統合ジョブは重戦士となりました」

 抑揚の無い機械音声がムサシの将来を決定付けた。


 ムサシが小次郎の足に刺さった矢をむんずと掴み、一気に引きぬいた。


「んぎゃあああああ! ヒール! ヒール!」


 本日一番の悲鳴を上げた小次郎が、自分の足にヒールをかけまくる。


「まったくもう! お兄ちゃんはまったくもう! まったくもうなんだよ!」


 腕を組み、ほっぺたを膨らますムサシの頭を撫でながら、小次郎は礼を言う。


「ありがとうなムサシ、おかげで助かったよ、ムサシの方は怪我は大丈夫か?」


 心配する小次郎に、ムサシは自嘲気味の笑みを浮かべる。


「怪我ってね、お兄ちゃん。怪我のしようが無いよこの身体」


 ムサシはひょいと片手を白台の上に出して、ビュンビュンと飛び交う矢の一本を素手で掴み取った。


「止まって見えちゃうんだよ……」


 落ち込んだムサシに、小次郎が気遣いの声をかける。


「ま、魔法みたいだなムサシ」


「もういいよお兄ちゃん」


 ムサシは畳一枚分はあろうかと言う大きさの白台を、ぼきりとへし折り、盾代わりに掲げる。


「さあ、逃げようかお兄ちゃん」


「お、おう」


 ムサシが掲げる白い大理石の陰に隠れながら、小次郎は麻痺魔法を放って行く。


 次々と麻痺を起こして倒れて行く兵士達を、恐る恐る跨ぎながら進んで行くと廊下に行き着く。


「うわ……廊下は兵士で一杯だ」


 小次郎が軽く悲鳴をあげた。


「廊下を使わずに表に出ればいいよ」


 ムサシは身の丈の二倍以上の大きさの大理石を構えると腰を落とした。


「シールドバッシュ」


 巨大な大理石の塊を、片手で持った小さなムサシが、神殿の壁に体当たりをすると、直径二メートル以上はある大穴が神殿の壁に穿たれた。


「それはシールドなのか?」


「シールドって思った物はシールドみたい……」


 自分で作った穴を見て呆れるムサシと、目の前の小さい女の子が行った蛮行を見て、兵士達は口をあんぐりと開き、愕然とする。


「野蛮すぎるよ……」


「て、敵は得体の知れない魔法を使うぞ! まやかしに決まっている! 惑わされるな!」


 兵士達の的外れな言葉にムサシは一瞬喜ぶが、小次郎が横で範囲魔法「パラライズクラウド」を放って、兵士達を十数人気絶させたのを見て、また不機嫌になる。


「お兄ちゃんは、MPしょうひを考えて無いんだよ! もっと節約するするべきなんだよ!」


 何時も小次郎に言われているお小言をまるっと言い返し、溜飲を下げるムサシ。


「ああ、ごめんよムサシ」


 ご機嫌の悪いムサシに逆らわず、ムサシに強化魔法を施す小次郎。


「ムサシ、入り口を潰せるか?」


 多少機嫌を持ち直したムサシが頷き、手に持っていた畳大の大理石をブーメランの様に放り投げた。


 大気を切り裂く様な鋭い音の後に続き、轟音と地響きと土煙が辺りを包み、阿鼻叫喚の地獄絵図が現れた。




 後の王宮騎士団の調査で、ムサシの放ったブーメランは、神殿の入り口付近の壁を縦横に渡り十メートル以上を崩落させ、貴族待機場を全壊、更に延長線上の謁見の間を半壊、更に突き抜けた大理石は、城壁を二十メートルに渡って崩落させた挙句、ロリコンと名高い大商人、スカルト=モグ=スパッツィーニの大邸宅を半壊せしめた後、彼の邸宅の大広間の中央で白台の天板部が見つかったと言う報告が届いた。




「ム、ムサシ……」


「ち、違うよ! お兄ちゃんのキャラメイクが野蛮なんだよ!」


「と、取り敢えず逃げるぞムサシ」


 薄暗くなって来た城の敷地内を、人気の無い方に二人は走り出した。


「ム、ムサシ、早過ぎる」


 身体能力の上がりまくったムサシの駆け足は、常人を軽く凌駕しているので、小次郎が置いてけぼりにされそうだった。


「アクセルムーブ」


「ノクトビジョン」


 小次郎は自分に身体強化魔法を使用して、足の速さを上げる事によりなんとか追い付き、暗視魔法も使った。


「お兄ちゃん」


 突然停止したムサシに気付き、小次郎を慌てて停止する。


「どうしたムサシ?」


「牛乳のおじさんが」


 目の前の茂みから頭をボリボリと掻きながら、朝食堂で黒砂糖をくれた傭兵が現れた。

「気付かないで居てくれたら、怪我をさせずに捕獲できたんだがなあ……」


 隊長格らしい傭兵は、兵士達を五人程引き連れ、小次郎達の前に立ちはだかった。


「何をやっちまったんだ? 兄ちゃん達、城の中は大騒ぎだぜ? こちとら銭を頂いて人殺しをしているクズの集まりだ。例え子供だろうと逃す訳には行かねぇ、悪いが兄ちゃん大人しく捕まってくれや」


 小次郎はムサシを背後に庇いながら、傭兵達の前に立つ。


「妹をロリコン商人に売り払う算段を聞いて、暴れない兄はいません!」


「野郎共! 総力を上げてこいつらを逃すぞ!」


「へい!」


 傭兵達は思った以上に良い人の集まりだった。


「まったく、なんてクズ共だ! 俺達が絶対に守ってやるからな」


 ブツブツと小さく悪態を吐く隊長格の男に、小次郎は丁寧にお礼を言った。


「よせやい、こちとら遊牧民あがりの下賤の者呼ばわりされてんだ。子供にお礼を言われたらケツが痒くなっちまわ! それより俺の事はオックスで良い、そう呼んでくれ」


 オックスは小次郎の頭をガシガシと撫でると、すっかり暗くなった城壁内を藪から藪へと走り抜けた。

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