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賢者の試み

「そもそもエルフの定義とはの、マザーツリーから生まれし者達を指すのじゃ、母なる木マザーツリーから生まれし者はすべてエルフなのじゃ、なので人間とは生殖方法が根本から違うんじゃ、肌が黒かろうと白かろうと全てエルフなのじゃ、生まれし木がマザーツリーだけなのでエルフの絶対数は少ない代わりに木のように長命なのじゃ、なんか色々とすけべーな想像する者もおるがの?」


 チロリと姫巫女がムサシを見る。


「ぐぬうううう」


 顔を真っ赤に染め上げたムサシが唸り声をあげた。


「じゃ、じゃあ人間とのハーフエルフっていないんですか?」


 必死に話を逸らそうと小次郎がどうでもいい疑問を姫巫女に投げかける。


「人間との間にも子は成せるぞ?」


 それを聞いた小次郎はすかさず話を逸らした。


「そ、それで借りたい知恵とは何ですか? 随分と困っているみたいですが」


 渋い顔つきになった姫巫女が指を指す先には巨大な木がそびえ立っていた。


「あれが母なる木マザーツリーじゃ、普通の木と違うのがわかるかや?」


 家電メーカーのCMで見たような枝が張った木の幹には、人の上半身を象った様な木の洞が見え、立派な枝には鳥の巣の様な丸い影が所々に見えている。


「あれは……鳥の巣、いや宿り木ですか?」


 ぴくんと眉を跳ね上げた姫巫女が小次郎を見る。


「ほほう、よう知っておるの、あれは宿り木じゃ」


 マザーツリーの根本まで辿り着いた一行は、人の上半身の様な木の洞を見上げた。


『ヒサシブリ ヒメミコ』


「久しぶりじゃの母上」


 姫巫女は優しく幹を撫で、マザーツリーを見上げた。


「うわああ、大っきいんだよ! お話の出来る木なんだよ!」


 興奮気味のムサシがペタペタとマザーツリーを触る。


「ムサシ、騒いじゃだめだよ」


 慌てて小次郎が諌めると姫巫女が止める。


『コドモノコエ トテモ スキ』


 マザーツリーは大きな枝をゆっくりと動かした。


「実はのう、さっき遠目で見えた宿り木が問題なのじゃ、マザーツリーに寄生をして魔力や栄養を吸い取ってエルフの子を産めなくなってしもうてのう、我らも宿り木の駆除を試みたのじゃが上手くいかぬのじゃ」


 悔しそうに親指の爪を噛みながら姫巫女が説明を始めた。


「まず此奴らの根が問題なのじゃ、下手なメタル素材よりも固く出来ておって寄生主の内部に食い込んでおる。切り取っても切り口から新しい幹が生えて来おるし、その際に寄生主から養分を吸い取るので駆除をすればするほどに寄生主が弱っていくのじゃ、木だけあって火にくべれば燃えるのが寄生主も燃えてしまうしの、これ以上増えん様に宿り木が咲かせる花を摘むくらいしか対抗措置が無いんじゃ、それでもちょっと目を離した隙に花を咲かせて増えようとするんじゃ……」


 マザーツリーの幹のあちこちに、宿り木の芽らしき物が芽吹いているのが見て取れる。

「このままじゃと母なる木は枯れ朽ちてしまう……それだけでは無い、この地方のエルフはもう生まれなくなって数十年経つ故、静かに滅びていくだけじゃ、滅びて行くのは自然の摂理故受け入れるつもりじゃが、我らエルフは寿命を終える時再びマザーツリーに魂を寄せるのじゃ、寿命を終えたエルフ達が帰る場所もなく魂の迷い子になるのが何よりも恐ろしいのじゃ、召喚者殿よ知恵を借りれぬだろうか? 妾はどうなっても良いハイエルフの身故に寿命は永遠に近い、じゃが寿命を終えようとしているエルフ達があまりに不憫じゃ! 彼らはこの里を命がけで守った勇士達じゃ、せめて、せめて彼らの魂は平穏に送り出したいのじゃ……」


 祈るように小次郎の足下に跪いた姫巫女は、ポタリポタリと大粒の涙をこぼし,小さく震える肩はムサシよりも弱々しく写った。


「あ、ええと、精霊魔法以外の魔法も沢山使えますので、それらを試してみましょうか、案外何かの解決策や対抗手段のヒントが隠されているかも知れません」


 突然厄介事を持ちかけられた小次郎は、話の重さに腰が引けながらも果敢に挑んで見せる意思を見せた。


 今までの研究結果のデータを持ち寄り、マザーツリーの根本で「緊急対策本部」を作りやってはいけない事と、まだやっていない事のデータを作り試して行く事になった。


 根を断ち切るにはドワーフの鍛えたナタで何度も切りつける必要があり、切りつけている最中にマザーツリーの枝の方が先に切れてしまう事や、マザーツリーの回復の為に回復魔法を施した記録もあったが、回復魔法の恩恵を宿り木自体も受けて一斉に宿り木の花が咲き誇った事も書かれていた。


「まさに八方塞がりですね……」


 データと丸一日睨めっこをしていた小次郎が深いため息を吐いた。


「除草剤の様な毒を使うとマザーツリーまで枯れてしまうし、毒消し魔法を使うと宿り木まで元気を取り戻すし、切り取ってもダメかあ…… 後は細かい緻密な魔法操作で根を残さずに焼いて行くしか無いのかな?」


『コレモ ウンメイユエ ウケイレタイ デモノコサレタコドモタチガ フビン』


 マザーツリーも段々と発言が後ろ向きになって来ている。


 緻密な作業の打ち合わせにむいていないムサシは、日がな一日マザーツリーの根本でマザーツリーの話し相手をしている。姫巫女曰くマザーツリーの精神が落ち着くらしくあれはあれで助かっているらしい。


 夜も小さな篝火を掲げてマザーツリーの根本で意見の交換をする研究者達に混ざり、小次郎も積極的に意見を出しているが、眠そうに目をこするムサシは暇そうに周りを彷徨いている。


『モウ カクゴハ キマッテイマス コドモタチヨ ヤスラカナ……ラカナ、ラカ、イダダダダダダダダダダ! ニギャアアアアアア!」


 弱々しい声色のマザーツリーが、突如絹を裂くような悲鳴をあげた。


「な、どうしたのだ?」


 研究者達が一斉にマザーツリーに視線を移すと、そこには小さな宿り木の若木を根こそぎ握ったムサシが居た。


「木登りしようかと思って握ったら、抜けて来ちゃった。テヘペロ」


 緻密な作業をしていた研究者達を、愕然とさせたエルフの歴史に残りし野蛮人の反撃が今始ろうとしていた。


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