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1-6 大暴れ

 通された部屋の中はランプ一つで照らし出される程度の広さで、焚きしめられたお香の香りが小次郎の鼻を刺激する。


 部屋の中央では五十センチ四方の、黒い箱の様な物が祀られており、無愛想な黒い箱の周りには不釣り合いな色とりどりの花が飾られていた。


「あの黒いやつですか?」


 小次郎がモームにたずねると、モームは言葉を発せずに頷くだけだった。


「ああぁ……」


 小次郎が更に近付き黒い箱に手をかけると、モームが弱々しい悲鳴をあげる。


「これは……サーバーか?」


 お香のヤニでベタつくケースをスライドさせて蓋を外すと、中には見慣れたハードディスクやマザーボードが見える。


「お兄ちゃん、それパソコンなの?」


 ムサシもこの世界におよそ似つかわしくない物体に興味を惹かれ、そろそろと近付いて行く。


「パソコンだけどこれはもうダメだ……ハードディスクは平気そうだけど、電源ケースやマザーボードが焼け焦げている……」


 小次郎はケースの中に手を突っ込み比較的大丈夫そうなパーツを物色して行く。


「ハードディスクは大丈夫だな……メモリも見た目平気そうだけど微妙だな……CPUは丸焦げだし……」


 小次郎はプツプツと呟きながらパーツを取り外して行く。


「しょ、召喚者殿! 宿り木をどうするおつもりで?」


 使えそうなパーツをスロットから取り外して、ポケットに放り込んだ小次郎はモームに向き直ると、些か据わった目付きで腕を組んだ。


「神の宿り木と言っても、これが何か解っているんですか? 取り扱いが悪いせいで中までヤニだらけですよ、何よりもコイツを悪用して子供を親元から拐かすなんて言語道断です! 見てください、ヤニに埃が付着して引火しているじゃないですか、こんな汚い宿り木で身体を休める神様なんて、性質の悪い神様に決まっています! 劣悪な環境のサーバーには邪神が宿ります! 邪神が宿ったサーバーは異世界から子供を拐かします! 故にこのサーバーは邪神が宿っています! なので邪神を崇めている貴方達は邪教徒となります!」


「ひ、ひいいい……」


「お兄ちゃん……怖いんだよ……」


 ムサシは半ば洗脳を行う小次郎が恐ろしくなり、呟いた言葉尻を拾い上げ、小次郎は畳み掛ける。


「怖がる事はないよ、ムサシ、邪神は俺が封じるから大丈夫だ」


 ムサシは内心「怖いのはお兄ちゃんなんだよ!」と突っ込みながらも小次郎の洗脳トークに雰囲気だけは乗っかる形をとった。


「い……一体私はどうすれば……」


 モームがすっかり知らず知らずのうちに、邪神を崇めていた事に対して狼狽している所に、小次郎が打って変わった優しい口調で囁きかける。


「モームさん……まだ手はありますよ、神は見放しはしません」


 モームは天啓を受けた様に涙を零しながら小次郎に縋り付く。


「な、何か手立てがあるのですか?」


 優しく微笑みかける小次郎はモームの肩に手を置いて、朗々と歌い上げる様に言葉を続ける。


「そう、先ずはこのサーバーに必要なのは清める事です。ただ清めるだけでは邪神は離れてはくれません、古今東西邪悪な物を祓うのに用いられる塩を溶かし込んだ清らかな水で毎日清めるのです。毎日清めているうちに邪神が苦しみから、赤茶色の血を流しはじめますので、そうなればこっちの物、塩を混入させた聖水で邪神が血を流さなくなるまで毎日清めてくださいね、雷魔法が使える者がいれば更に効き目が高まります。助かって良かったですねモームさん、これも神様のお導きです」


 モームは小次郎の背後から後光が差している様に見えているらしく、跪き眩しげに見つめながら涙を流していた。


「パソコン筐体に塩水……ここに鬼がいるんだよ……」


 小次郎はドン引きするムサシを引きずりながら、神殿を後にした。


「お兄ちゃんムサシ達は帰らなきゃいけないのかな?」


 小次郎はムサシの言葉を聞いて言葉に詰まる。


「ムサシ……」


 命の軽いこの世界でムサシを置いておきたくはないが、実際この世界に来てからのムサシは明るい笑顔が目立つ。この世界がいいのか元の世界が良いのかと悩みかけた所に聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「下賤の召喚者よ! いや、反逆者よ! 王城に攻め込んで来るとはとんだ田舎者だな! 貴様等のしでかした事の意味を篤と教えてやるわ!」


 神殿騎士団団長のシュテッケン=ベアードが数十人の兵を従えて目の前に立ちはだかった。


「戦場に出た事もない童子が王城に攻め込むなど……」


「ファイアウォール」


 シュテッケンが大声で前口上を述べている最中に、小次郎がボソリと呟くように魔法名を唱えると、騎士団の足下から炎の壁が立ち上がる。


「うお! 下がれ! 下がれい!」


 今まで見た事の無い規模のファイアウォールにたじろぎ、騎士団が慌てて距離を取る。

「むーはっはっはっは! 見たかあ! 魔法少女ムサシちゃんの超絶魔法を!」


 小次郎の前に立ちはだかり、ムサシが高笑いをあげる。


「お、おいムサシ前に出るな、危ないだろ」


 小次郎が慌ててムサシを制するが、ムサシも言い返す。


「お兄ちゃんは防御が紙なのに、前衛の代わりにターゲットを惹きつけてどうするかな? ここは前衛職の出番なんだよ! けっして魔法使い気分を味わいたいわけじゃないんだよ!」


 鼻の穴をぷくぷくと膨らませたムサシが、とても良い笑顔で小次郎にサムズアップをする。 確かに前回の交戦では防御の薄い小次郎が、弓矢の良い的になっていた事を思い出し、小次郎はぶるりと身震いする。


「し、しかし……」


「お兄ちゃんは空気を読んで、ムサシに合わせて魔法を撃ちこめばいいんだよ、ムサシは野蛮スキルのおかげで弓矢なんかじゃ怪我しないよ、ゲームの立ち位置を思い出すんだよ!」


 ムサシの身勝手な理屈に謎の説得力を感じて、小次郎は頷く。


「むーはっはっは! 我は大魔法使いムサシ! 我が望めば苔むした城の壁など特売のトイレットペーパーと一緒なんだよ! 燃えろファイアウォール!」


 ムサシが指差す城壁の上部に小次郎が慌ててファイアウォールを立ち上げる。


「この薄暗く闇の多い王城を真実の炎で照らし出してやるんだよ!」


 ムサシのファイアウォールに合わせて、城を囲む壁は炎で燃え上がった。


「えええい! 魔法使いなど口を塞げばなんとでもなるわ! 弓隊!」


 騎士団の前に立ちはだかる炎の壁を突き破り、騎士団の放った矢がムサシに向かって飛んで来る。


「ムサシ!」


 小次郎の叫び声も虚しく矢はムサシに襲いかかった。


「むーはっはっは! コタツで居眠りしてすっかり湿気ったポップコーンよりも歯ごたえのない無い攻撃なんだよ!」


 ムサシに襲いかかった無数の矢は、ムサシの身体に尽く跳ね返されて足下にバラバラと散らばった。


 小次郎はゲームのキャラクターデータを思い出す。重戦士の物理攻撃無効補正は例え裸でも大魔導師のフル装備よりも数倍上だった事を……


「よく鍛えられた筋肉は魔法と区別がつかない……」


 小次郎は妹のハッタリ魔法が本物の魔法に見えて来た。

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