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1-5 侵入者

 武器屋を後にした三人が飲食街を歩いていると、相変わらずカレンの肩にちょこんと座るムサシの様子が沈んでいる事にカレンが気付いた。


「どうしたんだいムサシ? お腹でも痛いのかい?」


 オロオロとみっともなく狼狽するカレンに、ムサシは首を横に振るだけで否定する。


「ムサシ……カレンママが心配しているから、黙っていちゃダメだぞ」


 横から事情を察しているらしい小次郎が助け舟を出した。


「カレンママ……力の事黙っててごめんね、ムサシの事嫌いにならないで……ごめんなさい……」


 ポツリポツリと小声で呟きながら、ムサシが今迄怪力を内緒にしていた事を謝罪し始めた。


「ははっ……なんだそんな事か」


 カレンは肩に乗るムサシをひょいと抱え上げ、自分の胸に抱き締める。


「女の子が大きな力を持つ事の辛さは、あたしが誰よりも解っているさ、それにムサシの力に気付いたのは、あたしの店の手伝いを一生懸命やってくれたからなんだ。地下の酒樽の整理をしてくれたのを見てたのさ、ムサシがどんな力を持っていようとあたしはムサシを否定しない、そんな些細な事であたしがムサシを嫌いになるもんか」


 物心ついた頃から母親の愛情を知らず、年の離れた兄からの愛情だけで育てられて来たムサシは、カレンの無限とも思える包容力に、声をあげて大泣きした。


「ムサシ、さっきはあたしを守ってくれてありがとうね、ムサシの力は誰かを守れる素敵な力なんだ。誰かを守る時にはその力を隠しちゃダメだよ、それ以外はムサシの自由だ。守りたい人を守れなかったと後悔して泣かない様に、あたしが力の使い方を教えてやるさ」


 小次郎の前でさえ声を殺して泣いていたムサシが、誰憚る事なくカレンの胸で大泣きをした挙句、安堵からかコトンとスイッチを切った様に眠ってしまった。


 それを横で見ていた小次郎も苦笑いをしながら、カレンと一緒に通りに面した御茶屋のベンチに座り、ムサシが今迄に置かれて来た状況を掻い摘んで話し始めた。


 カレンの飲む野草茶が三杯目を数える頃になり、黙って小次郎の話を聞いていたカレンは、やおら小次郎を空いた手で抱き締めて頭を撫で始めた。


「頑張ったな、いいお兄ちゃんだ。流石はあたしの息子だよ!」


 小次郎は実の親との親交も多少はあるが、実の親に褒められるよりもカレンに褒められる方が数十倍心に響き、頑張ってムサシの保護者をやって来た自分を認められた嬉しさから、ポロリと小さな涙を零すが、それを見ない振りをしてくれるカレンの優しさにまた感謝した。


 こうして仮初めの親子は、実の親子よりも強い絆を結び、整えられたドウェルグ特製の旅装も物置小屋の隅に追いやったまま、日々を穏やかに過ごして行った。


 城下町のカレンの店は連日の大賑わいで、新しい看板娘のムサシとやたら腕の良い闇医者小次郎と、無敵の用心棒ママ、カレンは今夜もヘトヘトに疲れてグッスリと眠り込んでいたが、一人別室で眠っていた小次郎が、突然髪の毛を掴み上げられ深い眠りから引きずり出された。


 気付くと小次郎は誰かに床板に仰向けで組み敷かれ、身動きが取れない状態だった。


 開け放たれた木窓から差し込む月明かりに照らされて、ギラリと光る湾曲した特徴的なナイフを、喉元に突き付けられている事は辛うじて理解出来たが、それ以外はサッパリ理解出来ずにパニックを起こしていた。


「騒ぐな、動くな」


 小次郎を組み敷いた人物は小声で呟き、小次郎の口の中にシーツの端を丸めて詰め込んだ。


 魔法詠唱を封じられた瞬間、小次郎は背中に冷たい汗をかいた。


 魔導士級の魔法を使える事に、心の何処かであった油断をあっさりと突かれて、こうも簡単に無力化される自分に焦り、狼狽する。


「あなた、やり過ぎよ」


 耳元でボソボソと呟く様に侵入者が話しかけて来た。


「あなた達のせいで向こうに帰れなくなったのよ、このまま殺してやりたいけど、カレンの顔を立てて生かしておいてあげる」


 侵入者が呟いた。向こうに帰れなくなったと言う言葉に小次郎は目を剥いた。


「エンチャンターか、プリーストってところかしら? こっちの世界はゲームと違って甘くないわよ、何処かの集落でひっそりと隠れた方があなたの為よ、マウレツェッペから離れなさい」


 侵入者は小次郎から身体を離すと、まるで重力を無視したかの様に、背後にある木窓に向かって後ろ向きで跳躍した。




 ガン!




 侵入者は後頭部を木窓の縁にしたたかに打ち付けたが、そのまま何事も無かった様に夜の闇に溶けて消えた。


 小次郎は慌てて身を起こし口の中からシーツを吐き出し、木窓から身を乗り出して侵入者の姿を探した。店の外に積まれている酒樽の影で、月明かりに照らされながら後頭部を抑えてうずくまる黒装束の侵入者が見えたが、哀れに思えて大声を出すのは遠慮して気付かない振りをして、寝床を整え再度眠りにつく。


 この時に空気を読まずに侵入者を捕まえて、しっかりと尋問しておけば良かったと小次郎は後に後悔する事になる

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