45 新しい装備は大好物でした。
あのルミナさん達との演習から、早くも三ヶ月が経過していた。
俺は迷宮に潜ったり、騎士団の演習という名の焼肉パーティーをする為の、浄化要員として、その争奪戦に巻き込まれたりしていた。
そのおかげで、すっかりと地上に出る魔物には、恐怖心よりも供養の心を持つという、変な感じになってしまっていた。
救いなのは、騎士団以外がそのことを知らない為に、悪食などの通り名がつかないことだった。
そのおかげで、騎士団の隊員達とも少しは打ち解けられるようになってきた。
やはり食事をするときは、皆の気が緩んでいるんだんぁ。っと前世でも、午後一の商談は上手くいくことが多かった気がしたのは、こんなこともあったのだろうか?
そんなことを考えて、俺は今、鍛冶屋に来ていた。
そう。俺の装備が出来たと連絡が入ったのだ。
鍛冶屋を乗っ取ったように、鍛冶屋の主がグランドさんとトラットさんになってしまった気もしていたが、この工房の主は、何故かそれを喜んでいた。
まぁ箔が出るのもそうなのだが、見ることが勉強となり、歳を重ねても、素晴らしい技術を、新しく覚えるのが、魅力なのは変わらない。
普段は教える立場であっても、その機会がチャンスだと思える、この工房の主は柔軟な思考の持ち主なんだと感心していた。
平均売り上げをもらっているとはいえ、頑固に突っぱねてしまう、そんな人も中にはいるからだ。
そして俺は現在、その二人が作った装備を見て、驚きのあまりに固まってしまっていた。
目の前にある装備が、二度見してしまう程、予想外だったためだ。俺は二人を信じて丸投げをした。素人の俺の考えより、俺のことがわかってしまいそうな、そんな眼力だったからだ。
「フォフォフォ。ねぇ、ど~うぉ?凄いでしょう?これって、瘴気を防ぎながら、体温調整の機能とか、魔力や気を遮断する効果もあるのよ。もちろん耐刃、耐魔の効力もあるわ。」
「くっくっく。驚いたか?これは魔力を流すことで、固くなるようになっている。さらに魔法補助として、これに魔力を通せば、魔力量は一緒でも魔法効果が上がるブースターみたいにも使えるぞ。」
二人はいい仕事をした。そんな達成感に満ち溢れていた感じの顔をしていた。ただ俺は相変わらずに口を開くことが出来なかった。
剣を振り、尻を触られ、稼動域や魔法陣を刻む位置を話し合い、内股を撫でられ、戦闘スタイルを伝えていた。その筈だ。目を瞑り、深呼吸を深く二度してから、二人に問いかけることにした。
「まずグランドさん、私は剣を振っていたはずなのに、何で、杖ができているんですか?それにトレットさん、あれだけ鎧と身体を触っていたのに、何で鎧とかじゃなくて、普通に鎧の下に着るインナーなんですか?」
俺には理解が出来なかったのだ。
「あ?ああ。これは仕込み杖っていってな、刀って武器を使っていた剣士が考案をしたらしい。ここをこうすると。」そう言いながら杖を操作するとなんと剣に変わった。
「はっ?」
前世で見たことのある、瞬間着替えよりもイリュージョンだった。仕込み杖は、鞘があるが、これは無い。いきなり片手剣に早変わりしたのだ。
「驚いたか?持ち手のこの龍の文様に細工があるんだぜ。」
その少年のような眼差しで剣を見つめるグランドさんがいて、その龍の文様また見事だった。
「ならもしかして、こっちもそんな感じなんですか?」
「えっ?そんな訳ないじゃない。でも、強度はきっと今着ている鎧よりもあるわよ?それに公の席で、治癒士が着込んでいたらおかしいでしょ?」
「服が鎧を超えるんですか?!」
「フォーってテンションが上がったからねぇ。あと身体を触ったのは・・・趣味よ。///」
・・・それは聞き無くなかったです。つーか伝説の一族は半端じゃなかったようです。
変身剣を手に取って、杖と剣に変えてみる。はい。大好物でした。持ち手の細工なんて、ある漫画の主人公の父が持っていた龍の剣。それ並に格好良くて、声を掛けられるまで興奮してしまった。
「ちょっと、ルシエル君。こっちも着てみて欲しいわ。」
トレットさんに声を掛けられてから、皆の視線に気がつき置き換えタイムになった。
「どうですかね?」
「似合っているわ。もうちょっとオジ様になられてからでも、十分着ることが出来るわよ~。やっフォーね。」
「うん。似合っていると思うわよ。気品もあるし、それにローブを着れば、S級治癒士として見た場合でも、様になると思うわ。」
「それにこの仕込み杖・・・幻想杖を混ぜれば完璧だな。」
「いいわ。それと、はい。」
トレットさんがそう言って魔法の鞄を漁ると姿見鏡が出てきた。
「これってもしかして?」
「ええ。ルシエル君、いえ、ルシエルちゃんが欲しがってた変身鏡ドレッサーよ。この服を作るのが長くなりそうだったから、持ってきてもらっていたのよ。」
「ありがとうございます。」
「喜んでもらえてよかったわ。」
「おう。こっちもいい仕事をして、金も入って、万々歳だな。もしまた何か作ったり、メンテナンスが必要なら俺に連絡しろ。下のものには伝えておいてやる。」
「私もよ。それとお願いされていたものは、試作が出来たら、連絡するわ。まぁ職人の街に来ることがあったら、よってね。色々とサービスしてあ・げ・る。」
ブルルっと。鳥肌が立ったが、笑顔を貼り付けたまま笑った。
その後に職人の街に来る時は、ブロド師匠と酒を飲んでおけとも言われて、俺とカトリーヌさんは教会戻る。その道すがら、あることが気になり俺はカトリーヌさんに聞くことにした。
「そういえば先程、グランドさんが言っていた装備の製作費っていくらなんですか?」
するとカトリーヌさんは笑って言った。
「人は知らないほうが幸せなこともあるのよ。まぁ値引きはあったし、龍の素材をいくつか提供したから、ルシエル君が迷宮に潜って稼いだ魔石の総額ぐらいよ。」
そう答えてくれた。
「そうなんですか。」
俺はこのとき、魔石の値段を知らなかったし、俺がいくら稼いでいたのかも知らなかった。このことを遠い未来で知ることになるのだが、その時の俺は青ざめることとなる。




