聖者無双 アニメ放送一話前 いつかの未来
《聖者無双》
この物語は十五歳の少年が治癒士のジョブを神から授かり、村を旅立ったところから始まる。
ルシエルは物語の始まりである出だしを読むと、ふぅ~と息を吐き出して本を閉じて目を瞑った。
「本当にこれがルシエル商会で出版されたの?」
「はい。ルシエル様の記録書と手記をまとめ上げ、一冊に編集して出版することが出来ました(外伝のことはまだ黙っておこう)」
ルシエルはキラキラした目で見てくるケフィンにそれ以上追及することが出来なかった。
「十五歳……懐かしいな。だけど当時ケフィンとはまだ会ったことがなかったし、結構フィクションが混ざっているんじゃないの?」
「心配には及びません。ルシエル様は治癒士として最初から考えが異端だったらしく、当時の情報は簡単に集まり、ブロド様達にも精査していただきましたから」
ルシエルは再び《聖者無双》へ目を落とした。
「身内だけの情報だけだと信憑性もないでしょ」
「はい。そのため当時からルシエルを恨んでいた治癒士や冒険者の書いていた日記、傭兵ギルドや闇ギルドが持っていた依頼書まで全て漁りました」
「はっははぁ~」
ケフィンのやってやりました感の強いドヤ顔をよそに、そこまでして書き上げた《聖者無双》を読むことが怖くなった。
しかしルシエルに齎される情報はこれだけではなかった。
「フィクションというのであれば、アリスとハットリが民衆の娯楽としてレインスター卿とルシエル様の戦記を物語としてシリーズ化したいとフォレンスに相談していましたが……」
「何だって!! それだけは絶対に止める」
ルシエルは転移するために幻想杖を魔法袋から取り出した……のだが、転移することは出来なかった。
その理由は……。
「それでは隠遁生活を終え、表舞台へと返り咲く気になられたのですね」
そう。ルシエルは邪神をこの世界から消滅させた後、世界各地で聖者の名に恥じぬ行いを続けた。
しかし一般人として生きた過去がルシエルの精神を摩耗させた。
そこでレインスター卿の助言を信じて飛行艇で大海原を飛行させ新たな大地を発見することになる。
その大地には既に絶滅したと思われていた魔物が生息しており、少ないながら原住民も生活しており、最初は見ず知らずのルシエルを警戒していた原住民達だったが、魔物を討伐し浄化魔法で食料に変えてしまうルシエル達を受け入れて近所づきあいをする間柄になった。
誰にも知られていない土地がルシエルにとっては居心地のいい場所だった。
しかし新たな大陸の発見はさらに新たな大地を求める探求心を刺激し、探索を開始してから一年後、ついにルシエル達は新たな無人島を発見するのだが、その無人島が普通ではなかった。
強力な魔物が出現する迷宮の入り口が島の中央に存在していたのだ。
その報告を聞いたブロドとライオネルは迷宮へと潜りたいと言い出し、何故か教会本部に所属している戦乙女聖騎士隊も参戦を表明した。
けれどルシエル自身は迷宮攻略に興味は湧かず、平穏な生活を望んでいたルシエルにとってはまさに仲間達と楽しく過ごせる夢と希望の詰まった大地だった。
だからこそルシエルはこの無人島を住みやすい環境へと整備し、俗世から離れ無人島の主として仲間をもてなしながら平和で穏やかな暮らし、時々迷宮攻略という生活を選択したのだ。
それからルシエルは数えるくらいしか、しかもお忍びでしか元の大陸へは戻っておらず、ケフィンのように来訪してくるのを心待ちにするようになっていた。
「災害時でもない限り聖者の肩書は俺には重いんだよ。ルシエル商会も優秀な皆のおかげで人々の暮らしに寄り添えているし、今の生活が満足なんだ」
「ルシエル様……」
「た、大変ニャ。あのオッサン、やりやがったニャ」
ケフィンがルシエルの本音を聞いて何も言えなくなっていたところへ飛び込んできたのはケティだった。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「旋風のオッサンが《聖者無双》を映像化させたニャ。これがさっきまでの映像ニャ」
「はっ?」
「これを見るニャ」
ケティが取り出したのは魔通玉と似ているが、リアルタイムの映像までやり取りが出来るリィナの着想からポーラとリシアンが形にした魔道具だった。
『ルシエル、この《聖者無双》だが、途中から俺の出番がなくなる。だから俺が編集してやったぞ。おっとそろそろ各地に設置した巨大スクリーンで《聖者無双》の映像を流れるぞ。感謝しろ』
そこで映像が終わった。
「忘れてた。昔よりも強くなった師匠をぶっ飛ばすことを……」
ルシエルは今度こそ幻想杖に魔力を込め、ブロドを一戦交えるために転移していった。
その場に残されたケフィンはケティへ口を開く。
「本当にこれで良かったと思うか?」
「心配し過ぎニャ。奥方の依頼ニャ。そもそもルシエル様が穏やかに暮らしを満喫できたのは一ヵ月ぐらいで、それからは殆ど迷宮の中で過ごして刺激を求めていたニャ」
「そうだな。さて、俺達も飛行艇に戻って初回の《聖者無双》を鑑賞しようか」
ケフィンが促すとケティはケフィンの腕に抱き着いた。
「それにしても本当に旋風の編集はムカつくニャ。自分の出番がなくなるからって、大幅にメラトニの日常を増やして私達の登場を阻止するなんて……」
「まぁまぁ。評判が良ければ私達の出番もやってくるだろう」
「期待より希望したいニャ」
二人はそう口にして飛行艇へ戻り、《聖者無双》の初回放送を楽しみ待つのだった。
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TBS 7月13日(木)深夜1:28~
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BS117月14日(金)よる11:30~
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