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406 記録書と手記

 空中国家都市ネルダールを訪れた理由は、世界樹を今後どうするのか精霊達と話し合うためだ。

 本来であれば、世界樹は瘴気を吸い大気の魔力へと変換し循環する役割を担う。


 当時、邪神の目論見によって瘴気で蝕まれてしまった世界樹を、邪神を消滅させるために切り落としたのがレインスター卿だった。

 レインスター卿は世界樹を切り落としたことで全ステータスと記憶を徐々に失う呪いを受け、精霊女王もまた創造神クライヤから世界樹の役割を担わせられることになった。

 創造神クライヤはレインスター卿に次代の世界樹を育てさせ、解呪させるつもりでいたが世界樹の呪いは解呪されなかった。

 ハイエルフだった教皇様のお母様が創造神クライヤと交渉し、レインスター卿のステータスや記憶を失わせないように願い、それと引き換えにハイエルフだけの秘術を使い世界樹の護り手となる世界樹の精霊となった。

 

 俺はその話を聞いた時にあまりにも酷い話だと憤ったが、創造神クライヤと秩序と均衡を司っていた神テミトポサスから真実を聞き、レインスター卿が日課として次元を切り裂いてまで創造神を攻撃していた気持ちが理解できた。

 それと同ぐらい急に家族を失うことになった教皇様を想像するだけで胸が痛かった。

 だからなのかもしれない。創造神クライヤと神テミトポサスから語られた真実を俺は誰にも話せずにいた。

 しかし何かをしなくても時間は進む。 

 


 世界樹の役割を担っていた精霊女王を解放し、暗黒大陸の結界が崩壊したことで瘴気の濃度がごく僅かではあるが上昇していると、精霊女王本人から伝えられた。

 そして邪神の脅威が去った今、ネルダールから移植する提案を受けたのだ。

 確かに世界樹を大地へ植樹すれば瘴気の問題は解決し、世界樹も本来の役割を果たすことになる。  


 ただ邪神の脅威が去ったことで、ようやく教皇様が自由にネルダールへ来ることが出来るようなったのだ。

 それなのに教皇様が世界樹の精霊となったお母様と自由に会える機会を奪ってもいいものなのかと頭を悩ませることになった。

 教皇様にそのまま伝えれば教皇様は自分を抑え大地へ植樹することを選択するのは目に見えていた。

 しかし教皇様にずっと黙っていることも出来ず、世界首脳会合が終わったタイミングで話し合いの場を設けることを伝えた。

 すると教皇様は既に覚悟を決めていたか、こうして翌日にネルダールへ赴くことになったのだ。

 

「ルシエル、悩ませて悪かったのじゃ」

「いえ……」

 ネルダールへやってきて交わした言葉はそれだけだった。

 俺と教皇様が世界樹の下へ向かうと、既に精霊達が集まっていた。


 世界樹へ歩み寄ったところで教皇様を精霊女王が抱きしめると、代わる代わる教皇様を抱きしめていく。

 それがとても静かで厳かな儀式みたいだった。

 教皇様はそのまま世界樹へ歩み寄り、世界樹へ手を当てた。

 それから暫くして教皇様が振り返った。


「世界樹を大地へ戻す時が来たようじゃ。世界樹のことは皆に任せるのじゃ」

 そう宣言した教皇様の目からは涙が溢れていた。

 それは美しき決別だったのかもしれないが、どうしても俺には納得できなかった。   

 だから少しだけ俺なりの悪足掻きをすることに決めた。



 魔法袋から幻想杖を取り出し、ありったけの魔力を込め詠唱していく。

「【時と空間を司る神よ、神の依り代である時空龍よ、因果を歪め運命(さだめ)を捻じ曲げた代償を引き戻す審判を仰ぐ】」

 レインスター卿のおかげで、ありったけの魔力を込めれば時空龍を召喚することが出来ると思っていた。

 そしてその考えは正しかったらしい。召喚魔法陣が出現すると、そこから時空龍が姿を現した。


『そんな気軽に呼ばれると困るんだけど……』

「ふぅ~。気軽に召喚するとでも?」

 魔力枯渇寸前まで魔力を消費して召喚すると、一瞬だけど身体の感覚が失われるのだ。

 そして創造神クライヤなら俺がここに時空龍として召喚した理由も分かるはずだ。 


 ジト目で時空龍を睨むと、仕方なさそうな雰囲気で世界樹を見た。

『世界樹の相談、世界樹を大地に移植するんだね?』

「ええ。世界樹を大地へ移植したら、世界樹の精霊となった教皇のお母様を世界樹から解放し、レインスター卿の精神世界へと誘ってほしいのです」

『はぁ~無茶を言う。確かにある程度は成長したから世界樹としての役割は果たせるだろう。しかし世界樹の護り手となった世界樹の精霊を解放しろというのは……』


 俺はそこで魔法袋からポーラとリシアンに増産してもらった魔力結晶球を次々と取り出し、幻想杖に魔力を込めていく。

「それならばレインスター卿を再度この地に降ろしますか?」

『そんなことをしたら、どうなるかは分かっているだろう』

 俺はその言葉を聞いて笑った。


「ええ。死ぬ可能性が高いでしょう。しかし教皇様やレインスター卿、教皇様のお母様だけが邪神(・・)の因果を歪められたままです。それを放置することは出来そうにありません」

 前世では仕方ないことだと諦め、理不尽なことに抗うことはしてこなかった。それが大人になることなのだと思っていた。

 だけど本当は理不尽なことに抗う覚悟と勇気がなかっただけだ。抗うことで失うことが怖かったのだ。

 この世界でも失う怖さは変わらないけど、前世よりも頑張ったおかげで失うとしてもそれほど怖くない。きっと俺はそれだけこの世界で満たされたのだろう。


『レインスターもそうだけど、君も創造神としてもっと僕を敬ってほしいよ』

「願いを聞き届けていただけるのなら、神々の石像を設置した神殿を作り、定期的に祈りを捧げましょう」

『はぁ~仕方ない。世界樹を大地に植樹したら、また僕を召喚するといい。そこのレインスターの娘に祝福を与えよう』

 そう告げ、時空龍は消えていった。

  

「ふぅ~」

 交渉することが出来て良かったと思った直後、教皇様から抱きつかれた。

「ルシエル! ルシエル! ルシエル……ありがとう……なのじゃ」

「いえ、俺は教皇様やレインスター卿のおかげでここまでこられたのです。だから少しでも恩返しになったのであれば良かったです」

 俺は抱き締めてくる教皇様が落ち着くまで頭を撫で続けた。

 

 それから精霊女王を始め、六精霊達と世界樹を大地へ植樹するための準備期間を設けることになった。

 そしてこの日から一ヵ月後に無事世界樹を大地へ植樹することが出来た。

 世界樹を植樹したことで創造神クライヤはその功績を称え教皇様へ祝福を与え、まず世界各地にあるレインスター卿の精神世界へ出入り出来る転生者と同じ資格を与えた。

 さらに世界樹の精霊の役目を解放された教皇様のお母様の魂は天へと昇ることになったのだが、レインスター卿の精神世界へその記憶の一部を転写させ教皇様と会えるサービスまでつけてくれた。

 俺は大盤振る舞いの創造神クライヤを見直したが、世界樹の護り手として死ぬまで定期的に結界を張る役目を俺に与えたことで、見直すことを見直すことになったのは記憶に新しい。




 そのことを俺は精神世界にてレインスター卿に伝えた。

「創造神クライヤにしてはかなり頑張ったみたいだね」

「これも地上への干渉に当たるからでしょうか?」

「神となると面倒な制約がいろいろとね。だからこそ人の身でありながら創造神クライヤと交渉し、この光景を見せてくれたことに心から感謝する。ありがとう」

 レインスター卿は少し離れたところで楽しそうに語らう教皇様とお母様であるユーシルさんの姿に目を細めながら告げた。


「時間が限られているとはいえ、孤独を埋める時間を渡すことで恩返しが出来て良かったです」

「ところで『娘さんをください』は本当にしないの? この世界は重婚可だよ?」

 レインスター卿はどうやらその下りがしたいらしいが、残念ながらその余裕は俺にはない。


「しませんよ。あ、教皇様がどうとかではなく、そういうことを考えられる余裕がないんです。あとレインスター卿は重婚拒否しているのによく俺に言えますね」

「う~ん……それを言われると何にも云えないね。それでフルーナが教皇を退身する話は聞いたけど、なんでルシエル君は次期教皇にならないの? 別に目立ちたくないとかの話じゃないよね?」

「はい。教皇の地位に縛られると俺がしたいことが出来なくなりそうなので、外部から聖シュルール教会を支える相談役としてこれからも尽力していこうと思っています」

 そのためにじっくり各方面へ根回しを進めているのだから。


「したいことと言うのは、人助けではないよね?」

「はい。この世界が地球を模して創造され、その大きさは地球と変わらないというのが真実なのか確かめたくて」

 俺が龍の谷でレインスター卿に稽古をつけてもらっていたことに聞いた話だった。

 それを確かめようにも邪神の件があって難しかったのだ。


「それなら真実をその目で確かめてくるといい」

「はい」

「そうか。それだと新教皇はどうするんだい?」

「治癒士として尊敬する人に託そうかと思います」

 新しい教皇を思い浮かべた時に俺の中では一人しか候補がいなかった。


「随分と信頼しているみたいだね」

「はい」

「まぁ私は定期的にフルーナを精神世界へ連れてくることを忘れなければそれで構わないよ」

「レインスター卿、定期的と言われても精神世界へ来られるのは最低でも一年は掛かりますからね」

「だから一年ごとに各地にある精神世界へフルーナを連れてきてほしい。もちろん君の相談役として色々と指南もしてあげるから安心するいい」

 全く悪意を感じさせないキラキラスマイルに、とても勝てる気がしなかった。




 ☆★☆


 それから暫くして教皇フルーナが、聖シュルール教会本部の大訓練場にて退身することを発表し、各地でかなりの衝撃が奔った。

「皆の者、これからは新教皇の下、努力を忘れることなく、治世に貢献する教会の理念に基づき行動することを願うのじゃ」

「「「はっ」」」

「それでは新教皇、頼むぞ」

「教皇様、何故なのです。まだ納得……いえ、そもそも理解すら出来ていません。なぜ私が教皇なのです。ルシエルく……様を差し置くなど」

「そのルシエルからの推薦じゃ。それにほれ、御主も承認しているのじゃ」

 フルーナをそう告げ、騒ぐ新教皇に一枚の紙を見せた。

 そこにはしっかりと新教皇の名前が直筆で記されていた。


「あーーーーそれは!!」

「まぁそういうことじゃ。執行部はグランハルトが指揮っておるし、騎士団長もカトリーヌで変わらん。もし困ったことがあれば妾とルシエルが外部相談役として相談にのるから安心するのじゃ」

 そう新教皇の肩を叩いた。


「そのルシエル君はいまどこにいるんですか!?」

「今頃、仲間達と新天地を探す旅路の最中であろうな」

「ルシエル君の薄情者~!!」

 それが新教皇ジョルドの教皇としての第一声だった。


 ☆★☆ 



                  

「へっくしょん、もしかするとジョルドさんかな」

 俺が新教皇に推したのはジョルドさんだった。

 ジュルドさんは治癒士としての能力が高いだけでなく、人に寄り添うことが出来る人だ。

 それにコミュニケーション能力も高く、周りを見て行動することが出来る冷静沈着な面も持ち合わせている。

 だから新教皇にはジョルドさんしか考えられなかった。ただストレスも溜まるだろうから、定期的に美味しい物を差し入れたり、各地を旅行に連れだしたりしようと思っている。


「ルシエル、何をニヤついているんだ?」

「新教皇様のことを考えていました。師匠は飛行艇には慣れましたか?」

「慣れん。地上に着いたら教えてくれ」

「分かりました」

 俺は師匠がデッキから出ていくのを見送った。


「だから着いたら転移するって言ったのに」

「旋風は後からではなく、皆と一緒に騒ぎたい性分なのです」

 ライオネルはナーリアとの間に生まれたライナ君を腕に抱きかかえていた。


 新天地があるかもしれない。皆へそう声をかけたら、全員が新天地を探す旅に同行したいと希望した。

 そのためドラン、ポーラ、リシアン、リィナに飛行艇をパワーアップしてもらい、ついに俺達は冒険の旅へ向かうことになった。

 それが新教皇発表日とぶつかったのは天の采配だから仕方ないだろう……。


 この世界に転生してきてから様々なことを経験してきた。そしてこれからもしていくだろう。

 時には理不尽な目に合うことや悲しみを経験することもあるだろう。

 それでも転生して良かったと振り返ることが出来るよう、これからもこの世界で精一杯生きていこうと思う。  


「あっ、あれは!」

 俺の声に呼応するようにブリッジに歓声が上がった。 




 ☆★☆


 実はこの時、ルシエルに内緒で従者(ケフィン)がまとめたルシエルの記録書と、それにまつわる手記をルシエル商会から発表していた。

 それはルシエルが治癒士として才能を開花させ、邪神を討伐するまでのことが詳細に記された記録書と手記だった。


 記録書には載っていない手記には、ルシエルがルシエル商会を通じて各国の援助に尽力したことまで記載してあった。

 またルシエルの戦歴が記録書にまとめられており、聖属性魔法しか使えなかった治癒士が困難を乗り越え賢者となったこと、魔族や魔物に一度も負けることがなかった無敗の記録書だった。

 その記録書と手記を読んだ人々はルシエルの通り名に注目した。


 そして新たな英雄の通り名として一番有名な【聖変】と【賢者】を併せ【聖者】、魔族や魔物に負けたことがなかったことから【魔滅の聖者】と呼ぶようになる。


 ちなみに前教皇フルーナと新たに教皇となったジョルドは、ルシエルが世界を救うまでの過程でジョブが三つ所持していることを発表した。

 それがルシエルへの嫌がらせだったのかまでは定かではない。それでも発表されたジョブが【聖者】【賢者】【龍神騎】であったことから、レインスター卿の生まれ変わりなのではないとも言われたが、これを前教皇のフルーナが即時否定している。


 後年、この記録書と手記は編集され、ルシエルを記した伝記【聖者無双】というタイトルが付けられた。

 また外伝としてルシエルの恋愛模様が(つまび)らやかに書かれている手記を発表したのはケフィンの妻ケティであった。


 ルシエルがそのことを知って胃痛を経験し、その傍らで少し赤く頬染め、おかしそうに笑う女性の姿を見て微笑むのはもう少し先の話。

 ☆★☆



 ☆★☆オマケ☆★☆




ステータス


 名前:ルシエル


 JOB :聖者― 賢者Ⅹ 龍神騎Ⅹ


 年齢:23


 LV :1000


 HP :99999 MP:99999 


 STR :9999 VIT:9999 DEX:9999 AGI:9999


 INT :9999 MGI:9999 RMG:9999 SP :999


【スキル】


 熟練度鑑定― 運極― 限界突破― 見通す者― 把握する者― 統率者―  


 武術を極めし者― 魔導を極めし者― 状態異常無効― ステータスを極めし者―


 物理攻撃耐性Ⅹ 魔法攻撃耐性Ⅹ  



【称号】


 運命を変えたもの 運命神の加護 聖治神の祝福 多龍の加護 六精霊の加護


 龍滅士 竜族殺し 巨人殺し 魔獣殺し 邪神を退けた者 龍神の加護 精霊女王の祝福及び加護


 魔族の天敵 死霊殺し 英霊の弟子 英霊の友 英霊の加護 世界を守護する者 創造神の使徒


 神の依り代 半魔神(魔王)と友誼を結ぶ者 バランスブレイカー 神殺し 神を救済した者  


 封印を解き放つもの 龍神に導かれるもの 精霊と共にある者 秩序と均衡の使者 聖なる心で悪魔の囁きを退ける者


長らくご愛顧を賜り誠にありがとうございました。

今後の活動につきましては活動報告の方に記載させていただきます。

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― 新着の感想 ―
伝記「ドMゾンビ」じゃなくてよかった。
[一言] 変者じゃなかったのか
[良い点] 時代劇のような面白さ [気になる点] タイプミス(後半特に多いね) [一言] 読み返したけどやっぱり面白い、ベトナムにて睡眠不足を起こしてしまいました。帰国時に単行本を買う予定です、今後も…
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