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386 瘴気の渦



 暗黒大陸の荒れ果てた大地はところどころ隆起しており、まるで剣山のように尖った箇所が存在している。

 しかも非常に硬いため、足下を見ずに足を踏み出したら怪我をしてしまいそうだが、その危険な箇所を先導する師匠とルミナさんが、斬撃を飛ばし破壊することで排除してくれている。

 俺はその危険な箇所を排除する度に舞う粉塵を二人の視界が妨げられないように浄化波で消し去っていく。

 この調子なら直ぐにあの城の攻略に取り掛かれそうだな。

 そう思ったところで雷鳴が轟くと、黒紫色に発光していた城を残し、崖が崩れて始めた。


「止まれ!!」

 師匠の声が耳に届くと同時に俺達はその場で身構えた。

 もしかすると地滑りでも起きたのだろうか? いや、あれは――。


「どうやら崖じゃなかったみたいだな」

「そのようですね」 

「戦うのは問題ありませんが、さすがに骨が折れそうです」 

「よもや崖ではなく、あの城の光に魅せられた魔物の群れだとは思わなかったのじゃ」  

「「「「それで」」」」

「どうするんだ?」「どうするのですか?」「どうされますか?」「どうするのじゃ?」

 崖だと思っていたのに、まさか魔物の群れだったとは……。

 ただ、本当に驚かされたのだが、それよりも俺の指示を仰ぐために皆の視線がこちらに集中した緊張が驚きの感情を上回り、魔物の群れがそこまで深刻なことではなく思えた。


「召喚された暗黒大陸の魔物でも、聖域結界を突破することができた魔物はいなかったので、目的は変わらずに城を目指しましょう」  

「それなら進路上の魔物だけでいいんだな?」

「はい。師匠とルミナさんはこれまでと同じように先導をお願いします」 

 師匠とルミナさんが倒しきれなくても、城へ向かうことの支障がなくなれば、魔物を殲滅する必要もないだろう。

 逆に殲滅したとしてもここは暗黒大陸なのだから、瘴気からまた新しい魔物が出現する可能性が高い。

 あくまでも俺達の目的はあの城の内部へ侵入することなのだから、どちらが効率的なのかは言葉にするまでもない。


「魔物が落下してきた場合は?」

「それは俺の結界か、教皇様の魔法で対処します。教皇様もそれでいいですよね?」

「うむ。任されたのじゃ」

「それではそのように」

 確かにルミナさんが言うように、魔物が落下してくるその重さを考えると不安もある。

 少し対策を考えておこう。


「そうなると、私は引き続きルシエル様と教皇様を守護する役目ですね」

「ライオネルが防御を固めたら俺と教皇様も安心だからね。もちろん独自の判断で攻撃してくれても構わないから」

「では、そのように」

「雑魚に集中し過ぎて遅れるなよ」

「ふっ、先導が優秀であれば雑魚に構う暇もないだろう」

 ライオネルが防御に徹すれば即死することはないのだから、かなり頼りにしている。   

 それにしても師匠がいつものように煽っても、ライオネルは同じ役目をルミナさんが担うことになるから、言葉を選んでいて大人だな。

 まぁ師匠もライオネルのことが心配だから声をかけているのがバレバレだから面白いんのだけど……。


「人の顔を見てにやけているんだ? 何だか無性にイラッとするぞ」

「いえいえ、あ、進行方向に幾つか聖域結界を発動した方がいいですか?」

「それはルシエルの判断に任せる。まぁ乱戦になった場合は少しでも時間が稼げる場所があった方が楽だけどな」

「承知しました。では、師匠、ルミナさん先導をお願いします」


「おう」「ええ」

 それから俺達は再び走り出し、崖崩れのように城から転がり落ちてくる魔物との戦闘に突入した。


「邪魔だ」

 師匠は分身でもしているかのように、同時に幾つもの斬撃を放ち、進路上を塞ぐ魔物の群れを吹き飛ばしていく。

 そこへ俺が浄化波を発動させると、師匠が吹き飛ばした魔物の群れだけではなく、その周辺にいた魔物の群れまで一気に青白い炎に包まれ、瞬く間に消えていく。

 その光景を見て、暗黒大陸の魔物は聖属性に対する耐性が高くないのかもしれないと判断し、浄化波を放つペースを上げることも考えた。

 しかし、俺達の目的は殲滅ではないため、直ぐにその考えを改める。

 

「ルシエル、一人でもあの魔物の群れを殲滅することが出来るんじゃないか?」

 俺が前方の敵を一掃したことで師匠は走る速度を緩め、俺を試すような発言をしてきた。

「それは浄化魔法で直ぐに消滅してくれる魔物だけならば、ですよ」

「はっ、どんどん可愛げがなくなっていくな」

 言葉とは裏腹に師匠は楽しそうな笑みを浮かべていた。


「人はそれを成長と……いえ、何でもないです」

 テンションが高くなっている師匠に軽口を叩くと、碌なことがないと魂に刷り込まれているため、しっかりと自制した。

 ただ、その時には既に師匠の視線は前方斜め上に固定されていた。


「そろそろ魔物が降ってくるから警戒だけはしておけよ。おっ、三頭竜までいるなんてついているな」

 師匠はその言葉を残して前線へと戻っていった。

 しかし、師匠が三頭竜と戦うことはなかった。


「唸れ、セイクリッドスパイラル」

 その声が微かに俺の耳へ届いたところで、ルミナさんの放った渦巻のような剣技が三頭竜の胴体にぶち当たり、弱まることなくその胴体を貫通して後ろにいる魔物達まで巻き込んでいった。


「教皇様、どれだけルミナさんのことを強化したんですか?」

「落ち着くのじゃ、ルシエル。そもそも自称魔王を単独で討伐しているのだから、竜の一頭ぐらいは軽く倒せて当たり前なのじゃ(あそこまで強化が覚醒して強くなっているとは思わなかったのじゃ)」

「そう言われれば確かにそうですね」

 確かに教皇様の言う通り、ルミナさんはただでさえ強かったのに強化されたんだから、敵との属性相性によっては師匠やライオネルよりも楽に魔物を倒せるだろう。

 俺は自分の仕事として浄化波を発動させ、三頭竜とその周辺の死体を消滅させたのだが、浄化波の勢いは弱まることなく城まで届いた。


 その瞬間、城がハリネズミのような棘を出し、黒紫色に発光する城に魅せられた魔物の群れは次々と串刺しとなった。

 あまりの衝撃な出来事に俺達は固まってしまったが、串刺しとなった魔物の群れから徐々に瘴気が噴き出すのが見えた。

 その瘴気が徐々に渦を巻き始めたのが見えたところで、嫌な予感がした俺は浄化波を何度も放ったのだが、明らかに青白い炎となって消えた魔物よりも、瘴気になった魔物の方が多かった。

 そして浄化波で瘴気を消そうとしても、何故か消すことができなかった。


 その瘴気の渦は城の上空に立ち上っていき、ある一定の高さで止まったまま、渦の回転が徐々に速くなっている気がした。

 一体何故? と、考えを巡らせようとした俺に鋭い声が届く。

「ルシエル、あの瘴気は父様の張った結界を破るためのものじゃ」 

「レインスター卿の結界って、この暗黒大陸を覆っている結界ですか!?」

 俺は上空を見上げるが、結界が張ってあるかは確認ができない。

 それでも教皇様がこれだけ慌てているのだから、事実なのだろう。


「そうじゃ。あれを阻止せねば世界に魔物が溢れるようになってしまうのじゃ」

「何かあれを止める方法は?」

「そんなもん、邪神を倒せば何とでもなるだろ」

 俺の問いに答えたのは教皇様ではなく、師匠だった。

 しかも目先のことに囚われ過ぎだと言わんばかりに、とても単純(シンプル)な回答だった。

 

「左様。結界が消えてしまうのなら、再び結界を張ればいいだけの話です」

「私もルシエル君なら強固な結界を張ることができると思うよ」

 師匠だけじゃなく、ライオネルもルミナさんも結界はどうとでもなるという判断なのだろう。


「慌ててしまって申し訳なかったのじゃ。確かに結界が破られたとしても、邪神を倒せなければ同じことじゃたな」

 教皇様は慌てたことを謝罪し、城へ視線を移した。


「まぁいきなり色々なことが起こりましたけど、魔物もいなくなりましたし、城に侵入もしやすくなりました。それで提案なのですが、一気に城の上層階から攻略を始めませんか?」

「そうだな。正直、魔族の城に宝物庫があるかもどうかも分からないし、急いだ方がいいのは確かだしな」

 師匠が俺の提案を肯定してくれたことで、城の上層階へ外から侵入することになった。


「それでは【【親愛なる光の精霊よ 聖龍の清浄なる浄化の光をこの身に纏わせ 常闇へと堕ちた魂を救済する光となれ 聖龍幻化(げんけ)】】」

 詠唱を終えると、青白い光の粒子が俺達に集まり、輝くと聖龍が出現し、俺達は聖龍の喉元へ浮かび上がった。そして聖龍は俺の意志と連動するように空中を泳ぎ、城の上層階へ向かう。

 そして城壁が迫ってくるが、構うことなく城壁へ突撃し、破壊して城の中へと侵入することに成功した。


お読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよ城壁を越えて内部へ! 熱い展開だー!
[良い点] 再開待ってました! いよいよ最後の戦いになるのかな?
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