321 精霊女王と九龍
索敵と地図作製を駆使し、何とか敵が現れる全ての黒い穴を見つけことが出来たのは、三日目の夕方だった。
ただ全部で九箇所あることは分かったけど、それぞれの黒い穴までの距離があるので、無駄な魔力を使わずにディスぺルを一気に発動させることが必要になりそうだ。
本当にここは一人で攻略しなければいけなかったのか? そんな疑問がずっと心の中にある。
それこそ地図作製や距離を把握する能力に長けていなければ、ディスペルを使えなければ、魔法陣詠唱に多重詠唱が出来なければ、一生クリアなんて出来ないのではないだろうか?
そんなことを思いながら、俺は一つ一つの黒い穴に魔法陣を設置していき、全部で九つある穴へディスペルを発動させた。
すると黒い穴が消滅したと同時に、黒い穴があった場所を繋ぐように光の線が現れ、八角錐を象ったところで、頂点となる空から真下へ穴が開いた。
「あそこに飛び込めってことなんだろうな……はぁ~行きますか」
出口はないのだから仕方がないと、俺は新たに現れたその穴へと入っていく。
真っ暗闇の穴の中は光魔法で照らしても、何も映らず、やがて見えていた筈の空も暗闇によって閉ざされ、全方位が闇で覆われてしまった。
それでも落下している感覚があるのは間違いなく、いつでも動けるように身体強化は常時発動させていた。
どれぐらい落下していただろうか? 五分? それとも十分ぐらいだろうか? 何の前触れもなく暗闇の世界が色づいていき、また新たな世界が姿を見せた。
まずは風魔法で自由落下を止めて、新しい階層? を眺めると、そこは未開の森だった……但し、たぶん世界樹と呼ばれていた木が存在している時代の、だけど。
「それであの世界樹に精霊女王がいて、それを守るように何で龍神達や上の階層にいた魔物が現れるんだろうな」
仕方ないので近寄っていくと、いきなり距離があることお構いなしで、光龍が光のブレスを吐いてきた。
それはまるでフォレノワールの五重に魔法陣を束ねたレーザービームの様だった。
距離などお構いなし、魔物がいてもお構いなしで放ってきたけど、あの威力があるならそれは狙ってきてもおかしくないと思えた。
それでもそれを躱して世界樹へと進んで行くと、驚くことに精霊女王だと思われる女性は、まるでこの迷宮を維持するために世界樹へと 磔にされているように見えた。
「フォレノワールや闇の精霊が見たら、激高するどころの騒ぎじゃないだろうな」
まずは魔法陣詠唱でディスペルを発動してみる。
しかし何か見えない壁のような膜があり、ディスペルが発動したのは、見えない膜の前だった。
そしてそのディスペルを発動した俺は、完全に敵認定を受けたらしく、転生龍達を始めとした魔物の群れが次々と襲ってくることになった。
一対一ならまだしも、九体の転生龍、さらに魔物の群れを相手にするのはさすがに分が悪すぎる。
俺は世界樹から一旦離れることを決めた。
唯一の救いは、転生龍達が放ったブレスを避けるだけで、魔物達が次々とブレスに当たって落ちていくことだった。
おかげで戦わずして逃げ道を確保することが出来た。
一体ずつなら仕留められると思うけど、普通にあの転生龍達を相手には出来ない。
そして世界樹から離れて、世界樹が米粒程小さくなったところで、前方にも同じ大きさの世界樹らしきものが現れた。
「……もしかして無限ループ? それとも……」
俺はさらに前方に進もうとして、壁にぶち当たった。
どうやら鏡のように反射していて、この狭いエリアであの転生龍達と戦わなければいけないらしい。
幸い転生龍達は世界樹周辺を守っている為、この距離ではブレスも放ってこないみたいだ。
何か法則性があるのかもしれないな。
「長い戦いになりそうだな……」
俺はそう呟きながら、倒す順番を考え始めた。
厄介なのは回復魔法を操る聖龍、重力を操る闇龍、高速レーザービームを撃ち込んでくる光龍。
我慢強かったことを考えれば、雷龍が何処までの攻撃力を持っているかにもよるけど危険な存在であることは間違いない。
その順番で倒せればいいけど、どうなりますかね。
「まぁ何にせよ、本気で倒しにいかないといつまでも出られないし、魔石が食料に変化する訳じゃないから、時間との闘いにもなるか」
そもそも公国ブランジュを放っておいても大丈夫なのかという点についても思うところはある。
まぁ頑張りますかね。
魔力結晶球で魔力を回復させてから、転生龍達へと近づいていく。
やはり攻撃はしてくるものの、世界樹から一定距離を保っているのか近づいてくることはなく、攻撃の射程もそれぞれが違う。
ただ残念ながら、聖龍を除いた転生龍達が八角形を作って、世界樹と転生龍達の間を聖龍が飛んでいるから、聖龍を先に倒すのは無理っぽい。
でも一度は試してみますか。
「【龍剣九陣】」
レベルアップのおかげがさらに大きくなった龍剣が聖龍へと飛んでいく。
しかし転生龍達までの距離があったからなのか、こちらへ向いた風龍、炎龍、光龍、毒龍のブレスが龍剣へ向けてブレス放ち、空中で爆発を起こした。
龍剣が四体のブレスで相殺されたか。まあ近くにいた魔物が空から森へ降っていくから、少しは意味のあることだったかな。
そう思っていると、小さな龍神様が聖龍へと噛みついていた。
「あ、そういえば毒属性魔法だけは上がらなかったんだよな」
本来、人が扱える属性魔法では無い為、毒属性は滅多なことがないと上がらないらしい。
だがらミニチュアの龍神様だけがブレスと相殺されるタイミングを逃れていたのだ。
まぁ何にせよ、遠距離攻撃が駄目なら接近戦しかないか。
接近してどれだけ戦えるのか、そして転生龍達は龍がいても構わずにブレスを放ってくるかどうかを考えなければいけないだろうな。
こうして俺と転生龍達との闘いが幕を開けるのだった。
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