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278 終戦

 公国ブランジュからの潜入者達は最初のみ些細な抵抗をしてきたが、逃亡が無駄だと分かると直ぐにその口を割ってくれた。


 まずバクレイ子爵家だけど、以前聞いた話では各方面にかなりの借金があり、カミヤ伯爵の援助がなければ直ぐにでも立ち行かなくなり、それはお家の断絶になりかねない状態だと聞いていた。

 それを踏まえて潜入者達の話を聞くと、どうやらカミヤ伯爵が資金を出して、それを実行しているのがバクレイ子爵家の後継者らしい。

 バクレイ子爵家の領地は自然が溢れているが、有名な特産物があるわけでもないので、彼らのような盗賊を捕まえはメインリッヒ家に売り渡しているらしい。

 たぶん私兵を動かしているだろうから、これはカミヤ卿から資金が出ているのは間違いないだろう……。

 そしてバクレイ子爵家がそこまで追い込まれたのはきっと……。


 続いてメインリッヒ伯爵家の話となったのだが、話が進むに連れ途中でフォレノワールがキレた。

『各地の精霊石を集めて、精霊石に宿った精霊を吸い取る魔道具ですって!? そんなことしたら、折角生まれた精霊が死んでしまうし、世界のバランスが崩れてしまうわ。絶対に許さない』

 そして俺も頭を抱えたい心境だった。


 ネルダールで会ったメインリッヒ伯爵令嬢が、まさかそんな物を開発していたなんて、夢にも思わなかったのだ。

 正確には魔力を含んだ鉱石を発見する為の魔道具を開発したのだが、それを改造、悪用されたのだから、それを補助してしまったようなものだ。


『貴方達も灰になりなさい』

「待て、フォレノワール。それはまだ駄目だ」

 全てを聞き出す前に潜入者達に魔法陣を展開したフォレノワールを止めて、(なだ)めてから、潜入者達の前で物体Xの樽を叩きながら洗いざらい話してもらった。


 フォレノワールの魔法陣を見たからか、潜入者達の口はとても滑らかになり、どんどん情報が出てきた。

 その話によると精霊石を集める魔道具には希少な材料が必要らしく、まだ数も少なく、精度が低いようで、それを聞いてようやくフォレノワールも落ち着いてきた。


 そして話は公国ブランジュが召喚したものの話しになっていく。

 彼らがメインリッヒ伯爵家で魔族の力を植えつけられた日に、メインリッヒ伯爵家の研究所には来客があったらしい。


 その来客者が公国ブランジュが召喚したものの名を口にしたのだという。

 痛みによって目を覚ましていた男達は、魔族の力を取り込んだ影響なのか、とても感覚が鋭くなっていて、その来客者とメインリッヒ伯爵の話し声が何故か鮮明に聞こえていたらしい。


 その召喚したもモノの命令でメインリッヒ伯爵には精霊石を集める命令が下され、各地に潜入者を配置しながら、精霊石を集めさせることになったのだとか。

 そして精霊石を集めるように指示を出した人物は、ブランジュの王族にあたる大公だったと彼らは断言した。


「それで結局、この世界を掌握出来るだけの力を持つ召喚したモノとは一体なんなんだ?」

 男達は顔を見合わせえて、最後まで逃亡を諦めなかった男が口を開いて告げた。

「公国ブランジュの守護神、光龍だ」

「なっ!? やっぱりそうなのか……」

 闇龍との闘いで確かにその可能性は考えていたけど、龍とまともにやったら、勝てる気がしないぞ。


『そう……それが本当なら、まずは龍の谷にある龍の麓まで行かないといけないわね』

「……龍神の棲んでいるとされるところか?」

『ええ、ちょうど仲間に巫女もいるんだし、何者かに操られたあの光龍(バカ)の好きにさせないわ。そして世界の自然を守る精霊に喧嘩を売ったこと後悔させるわ』

 フォレノワールからは魔力が立ち上っていて、魔力を吸われている感覚はあったけど、色々怖くて何にも言えなかったし、聞くことも出来なかった。



 こうして潜入者達から情報を入手した俺達は、彼らの植えつけられたという魔族の力を取り除いて、彼らの身柄をルーブルク王国軍へと預けた。

 あまりのショックで元気がないウィズダム卿に代わり、第三王女のルノアさんに全てが片付いたらルーブルク王国へ訪問することを伝え、これから帝国軍の砦へと向かうことを告げる。

「真に残念ではありますが、どうやら長居をすることは叶わないようです。全てが終わったら、貴国に訪問させていただこうと思います」

「お気になさらないでください。私達とは違い、世界を守るために戦われているなんて、お忙しいのも当然ですもの。あれだけの戦力は世界を救うためだったのですね」

 色々と勘違いされている気もするけど、別に訂正することでもないので、ただ頷きながら別れの挨拶を済ませる。


「それでは平和が貴国にも訪れることを祈っています。念のためですけど、帝国が引いたところで攻撃をしないでくださいね。無駄な犠牲は出したくないので……」

 これ以上、戦争での泥沼化は避けなけれないけないからな。

「き、きちんと理解しております」

『ちゃんと牽制を入れるなんて成長しているわね』

「えっ? ああ」

 まぁこれで頭の良さそうなルノア王女なら、問題なく撤退してくれるだろう。


 怪我人の収容施設から出ると、直ぐにフォレノワールに跨り、両手にポーラとリシアンの手を繋ぎ、俺達はルーブルク王国軍の兵士達に見送られる形で、帝国軍の砦へと飛び立ったのだった。




 そして帝国軍の砦を訪れたのだが……とても酷い状態になっていた。

 ライオネルとケティに加え、ナディアとリディアも傷を負っているようだったけど、帝国軍の最前線で戦っていた兵士達はそのほとんどが砦の中で転がっていた。


 ちなみに皇帝やアルベルト殿下達は無傷で、グラディス殿とメルフィナさんが護衛するような形だった。

「……あれ? 奴隷商人とライザックがいないけど、何処に行ったんだ?」

 立っている者の中にはいなかった。


「あそこ」

 ポーラが指さした場所を見てみると、確かに奴隷商人とライザックはいた。

 しかし見るからにボロボロで、注意してみなければ判別が難しい状態だった。


「……確かにあの二人の性根を少しは鍛えた方が、これからの帝国にはいいのかも知れないな」

『時には厳しさも必要よ。でも今はそんな暢気(のんき)にもしていられないわ』

「そうだな……」

 俺達はライオネル達の下へと降下していく。

 その途中でポーラから魔力を指輪に込めるように強請られたが、帝国兵は戦闘をする気力がないと判断して、今回は拒否することになった。

 とてもつまらなそうな顔をしていたが、デストロイヤーの魔石を解析するのがそれだけ遅れることになるかもしれない……そう伝えると、渋々了承してくれた。


「ライオネル、帝国兵の叩き直しは終わったか?」

「いえ、まだまだ時間が足りないようです。あと三ヶ月程はみっちりと鍛えたいところです」

 険しい顔をして帝国兵を見るライオネルは、やはり帝国で将軍だったのだと理解するには十分だった。


 俺はライオネル達にハイヒールを発動しながら、ルーブルク王国軍での話をすると、ライオネルは深く頷き、兵士達を一括した。

「これより帝国は、ルーブルク王国と停戦し、魔族と、それを操る者共と戦闘準備に入る」

 兵士達はほとんどの者が倒れている為、反発が上がることはない。


「賢者であられるルシエル様が、あの伝承に出てくる巨大なアンデッドを倒してくれたからこそ、我らの命があることをここに自覚し、我らは我らの帝国を守るために帝国へと帰還する」

 ライオネルがそう言い切ったけど、現在のこの軍の総大将とかはいったいどうなっているんだろうか? 後方にいるアルベルト殿下を見ると、唖然としているようだった。

 グラディス殿はライオネルに憧れているような視線を向けているし、大丈夫なんだろか?


 そんなことを考えながら、ライオネルに頼まれたので、兵士達にエリアハイヒールを発動させ怪我を治していくと、必要以上に感謝されて、隊ごとに整列していく。

 ライオネルは皇帝と殿下を連れてきて、アルベルト殿下が帰還命令を出したのだが、アルベルト殿下を知る者は少なく、知っていても廃嫡されているので、戸惑っていた。

 しかしここで皇帝がひと言だけ呟くように口を開いた。

「全軍帰還せよ」

 それだけで場が一旦静まり、そして兵士達は片膝を付いて右手を胸に当てた。

「順次行動せよ」

 ライオネルが最後にそう告げると、帝国兵は帰還するための準備を始めていき、一時間もしない間に第一陣は帝国へ向けて出発し始めた。


 アルベルト殿下は沈んでいたが、メルフィナさんも回復しているようなので、任せることにした。

 そして俺達は……。


「ライオネルには先程伝えたけど、公国の動きが分かった。一度寄り道をして、今日は一先ずイエニスへ向って、それから龍の麓へ行って龍神と会うと思う。力を貸してくれ」

「「「「「はっ」」」」」

 こうして戦争に介入した俺たちは、多少のイレギュラーなことが重なったけど、狙い通りイルマシア帝国軍とルーブルク王国軍の戦争は終戦させることに成功した。

 そしてアルベルト殿下達をそのまま砦において、飛行艇に戻……りたかったが、さすがにライオネルから待ったがかかり、まずは帝都へと飛行艇を飛ばすことになった。



お読みいただきありがとうございます。

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