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232 大事の前の小事?

 師匠達の前に積まれた騎士達は、昨日と違い師匠達に教えを乞うた志願者だということが判明した。

 どうやら俺の朝の訓練を見ていたらしく、口先だけでなく何度倒されても師匠達へ向かっていく姿勢が、彼等の胸を打ったらしい。


 そして大訓練場へ戻ってきた師匠達の中に俺がいないことを確認すると、師匠やライオネルに模擬戦を挑んだのだとか。

「昨日よりも気迫があったから、楽しめたぞ」

 師匠は楽しそうに語った。

 ライオネルも朝から充実した訓練が出来て、とても機嫌が良さそうに見えた。


 倒れていた騎士達を治療すると彼らは礼を述べ、騎士団へと帰っていく。

 その光景を見て、師匠が騎士達の背中へ声を掛ける。

「悔しさと諦めない心があれば、御主らはきっと強くなるぞ」

 すると、師匠達と戦った騎士達は、立ち止まり頭を下げてから騎士団の中に消えていくのだった。


「ルシエル、メラトニへは行かなくていいぞ。俺も帝国へついて行く……と言いたいところだが、今回はメラトニへ帰ることにする。幸い教会から馬を借りられたから、一人で大丈夫だ」

 師匠は本当に残念だという顔をしながら、メラトニへ一人で帰ると言い出した。

「飛行艇なら半日も掛かりませんよ?」

「その分魔力や魔石を使うんだろ? それは戦いの前に不要な消耗だ。俺も帝国へは行きたいが、さすがに今回はガルバがあれだけ必死に頭を下げたから、仕方なく帰ることにしたんだ」

 師匠が戦場になるかもしれない場所へ行かないなんて、普通では考えられないことだが、ガルバさんのことがあるし、ここに来るときもグルガーさんの了承を得て来たわけじゃないから自重したんだな。

 今は戦闘狂にしか見えないけど、本来はもっと思慮深い人だしな。

 まぁ戦闘狂に変わりはないんだけど……。


「師匠、道中気をつけて帰ってくださいね。師匠には帝国の魔族騒動を止めたら、また力になってもらいたいんですから」

「こっちの心配をするよりも、失敗するんじゃないぞ」

「はい」

 俺の返事を聞くと、ライオネルを見つめる。

「戦鬼、ルシエルを頼んだぞ」

「ああ。命を賭して守り抜くことを誓おう」

 師匠とライオネルはガッチリと握手を交わした。


「じゃあ俺は行くぜ」

 師匠は俺達を見送ることはせず、騎士団の元へと向かっていくのだった。

「まぁ見送られるのもまた違うか……ライオネル、飛行艇でまず作戦会議だ。その後、帝国へ向けて出発するぞ」

「承知しました」

 ライオネルはいつもと変わらないように見えるが、少しピリッとした空気感を醸し出していた。



 飛行艇の食堂で俺は全員を集めて、作戦会議を始めた。

 内容を全て単純シンプルに、飛行艇の進路と翼竜対策、帝国兵がどういう行動を起こすのか等の戦略を練っていく。


「飛行艇を帝都上空まで飛行させることは可能だろうか?」

「可能だと思われます。翼竜部隊はルーブルク王国との前線に出ている部隊と帝都を守護している部隊がいますが、翼竜が常に徘徊していることはありません」

「飛行してくるものを撃ち落とす兵器などは?」

「私が帝国に居た頃は、防衛としてバリスタという弩と魔法で防衛をしていました。もちろん対象は人ではなく、魔物や魔族でしたが」

 ライオネルの情報で、飛行艇の飛行ルートには問題ないことが分かった。しかし別の問題が……。

 バリスタ……実際見たことはないけど、きっと一発でも身体の中心に当ったら死ぬレベルのものだ。

 高度を出来るだけ上げて、弓が届かないところまでいけば、何とかなるか? でもそうなると降下の問題が出てくる。

 目立つパラシュートで降下すれば、確実に狙い打たれるし、そもそもパラシュートがない。


「やはり歩いていくしかないのか。それとも闇夜に紛れて帝都へ降り立つかしかないか」

「矢のことを心配しているのなら、考えなくてよいぞ」

 そこで声を上げたのはドランだった。


「いや、もし当ったら撃墜される可能性があるだろ」

「全く問題ない。こいつが強弩ぐらいで沈むことはありえない。翼竜がしつこく飛行艇に噛み付いたり、ブレスを浴びせ続けたりしなれば装甲が剥げてしまう可能性はあるが、弓程度なら問題ない」

 ドランの目が、土龍で作った飛行艇を信じろ。そう言っている気がした。


「技術部長の言うことを信じよう」

「うむ。遠距離からの魔法攻撃は、魔法障壁で守られているから、禁術じゃない限り案ずることはない」

 ドランは追加情報でフラグを建ててくれたが、気にしないことにした。


「よし。それならルートは聖都から山越えの直線ルート、帝都へは上空から降下して侵入する。問題は降下する場所だけど、そのまま城へ降下か、城下へ降下するか、迷うところだけど……」

「城への侵入経路はたくさんあるニャ。どちらでも問題ないニャ」

 ケティも帝都の城に潜り込んだ経験があるのかもしれないな。

 それとも暗部だから知っていたということもあるのだろうか? どちらにせよ一番大事なのは安全だ。

 だけど、人民を掌握するには、ライオネルという顔が必要だと思う。

 もしこれで圧制を敷いているならば、それこそライオネルには、帝国を正す広告塔になってもらわなければいけない。


「……前にも言ったが、出来ることならライオネルの顔を晒しながら、堂々と攻め込みたい」

「それなら帝都中心地から、歩いて堂々と城へ向かいましょう。そこで襲ってくるものがいれば、魔族かも知れませんし、偽の私の差し金かも知れませんから、情報が得られるかもしれません」

 ライオネルには既に覚悟があった。

 ケティも同じように決意した目をしていることから、偽ライオネルの命は風前の灯のように思えるのだった。


 そんな中、帝国へ行きたいと望んだエスティアは、浮かない表情をしていた。

「エスティア、何かあるか?」

「帝都では多くの子供奴隷がいます。それも無理矢理連れて来られた子が殆どで、私はそんな子達を全員救ってあげたいです」

 まずは子供奴隷の保護を訴える……か。

 エスティアにはゆっくりでいいから、闇の精霊に頼らなくなってほしい。俺は何となくそう思うのだった。

「奴隷か……分かった。魔族化の研究所を潰したら、その次に奴隷の解放をしよう」

「ありがとうございます」

 エスティアが礼を述べたことに頷きながら、全員を見渡して最後に問う。

「何かいい残していることがあるなら言ってくれ」

 するとライオネルが手を上げ、皆に覚悟を話す。

「帝国兵は強い。一瞬の迷いが命取りになることは十分考えられる。対峙したら相手を戦闘不能にするまでは、一切気を抜かないでほしい」

 ライオネルの言葉は、ライオネル自分に言い聞かせているように思えた。

 何しろ自分が育てた部隊や顔見知りと対峙することも十分考えられるのだ。


 俺がもし同じ立場だったら、どこまで非常になれるか、考えさせられる言葉だった。

 皆の視線がまた俺に注がれたところで、会議を締めることにした。


「……最後にもう一度言っておく。今回の目的は魔族化の研究所と研究の破壊。魔族化の解呪と偽ライオネルだ。絶対に皆で生きて帰るぞ」

「「「はっ (はい)」」」

 こうして作戦会議を終えた俺達は帝都へ向けて飛行艇を発進させるのだった。



 飛行艇の舵を取るのは二度目だが、やはり空を飛ぶことはロマンが溢れている。

 そう考えていると、操縦室に聞きなれない声が入って来た。

「空をこれだけの速度で飛んでいるのに、揺れを殆ど感じないってことは、制御システムがしっかりしているってことね。それにGを感じることがないのは、外の魔法障壁が機体に掛かる圧力を分散させている……」

「聖都がもうあんなに離れています」

 ブツブツ呟いているのはリィナ、子供のようにはしゃぐのがナーニャだった。


「あれ? 昨日のうちに下りたんじゃ……」

「ルシエル様、おはよう御座います」

「オーナーおはよう御座います」

 戸惑いながら二人に聞くと、二人は挨拶をしてから、互いの顔を見合わせ、リィナが意外な言葉を口にする。

「えっと、師匠達と明け方まで話をしていて、客間をお借りしたんですよ」

 ドランはきっと確信犯に違いない。

 それにしても明け方までドランと話して……達? そうなるとポーラとリシアンも混じったのか。

 それならしょうがないかもしれない。

 しかし、それなら早く言って欲しかった。


「……今の状況は分かってない……よね?」

「状況ですか? 空を飛んでいる以外に何かあるんですか?」

「これから行く場所とか……」

「これって試運転なのでは?」

「…………」

 既に噛み合っていないことを察したナーニャさんは、徐々に顔から血の気が引いていく。


「もうこの飛行艇はイルマシア帝国の帝都へ向けて発進しているんだ」

「直ぐにUターンを希望します」

「まだ死にたくないです」

 二人は自分達がおかれた立場を理解したらしく、聖都への帰還を申し出た。

 しかし飛行艇はそんなに簡単に止められるものではない。

 飛行を始めてから三十分程だが、飛行艇は始動するときに莫大な魔力が使われる。

 それこそ俺の魔力の半分近くの量をごっそりとだ。

 まぁ飛行する分には、殆ど消費しないので問題はないのだが、今止めてしまうと今日帝国に戦を仕掛けることは中止せざるを得ない。


 あれだけ気合を入れたので、このまま帝都へ行きたい……が、さすがに何の覚悟もさせないまま連れて行くのは気が引けた。

 溜息を吐いてから頭を切り替え、聖シュルール協和国内で飛行艇を着陸させて、明日の朝一番に帝都に向かうことを決めた。

 しかしUターンする気にもなれず、最寄りの町を探すが、何処にも町らしきものを発見出来ずにいた。

「誰か、この辺の地理が詳しい者はいるか?」

「私が分かります」

 するとエスティアが挙手していた。


「エスティア、ここら辺の地形は分かるか?」

「はい。進路をもう少し左寄りに進んで行けば、帝国領から二番目に近いエビーザの町が見えて来ます」

「エビーザ……何処かで聞いた気がするな」

「私が所属していた町です」

 それって奴隷になった町ってことだよな。

 治安が悪い町にならないか?

「治癒士ギルドに居てもらえば、大丈夫だと思います」

 俺の思考を読んだのか、エスティアが先にそう告げたので、その言葉を信じてエビーザの町へ舵を取ることにした。


 エスティアがいなかったら聖都へUターンしていたな。

 これは久しぶりに運が向いてきているのかも知れない。

 俺はポジティブにそう思うことにして、飛行艇の舵を取るのだった。



お読みいただきありがとうござます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ところでブロドとライオネルの現在のステータスと最盛期のステータスははどのくらい?
[気になる点] >>ドランはきっと確信犯に違いない。 「確信犯」 本来は「政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」と事で法律用語であり宗教犯が該当するが、…
[一言] ブレスを浴びせ続けたりしなれば装甲が剥げてしまう可能性はあるが ↓ ブレスを浴びせ続けたりすれば装甲が剥げてしまう可能性はあるが
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