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228 自重

 冒険者ギルドで皆と一緒に食事を取り終えた俺は、帰りに地下へ移動して、師匠を回収し教会へと帰ることにした。

 そこで目撃したのは、ボロボロになっても不敵に笑う師匠と、さらにボロボロになって俺を縋るような目で見る冒険者達だった。


「師匠、やっぱり混じっていましたか」

「おう。こいつらは中々筋がいいぞ」

 師匠は嬉しそうに話すが、冒険者達の表情は曇っていた。


 きっと手加減して遊ばれたと思っているんだろうな。

「もう帰るので、師匠を呼びに来たんですよ。皆さんも師匠の相手お疲れ様でした。すぐに回復させますね」

「おい、俺が相手をしてもらったように言うな」


 俺は師匠を軽くスルーして、師匠と冒険者達にエリアハイヒールをかけて回復させた。

「旋風様、指導ありがとうございました」

「俺達ではまだまだ力不足でした」

「聖変様もありがとう」

「旋風様の弟子は、やはり聖変様にしか務まらないわ」

「私達は私達で頑張るわ」

 彼等は師匠と俺にお礼を言いながら、徐々に距離を取り、師匠の言葉を聞かずに訓練場の階段を掛け上がっていくのだった。


 師匠はその冒険者達の後姿に一言だけポツリと漏らす声が聞こえた。

「チッ、根性の無いやつ等だ」

 この世の中は理不尽がいっぱいあるんだな。

 そんなことを思いながら、俺達は教会へ帰るのだった。


 教会についてから寝泊りをする場所だが、師匠以外は皆、飛行艇の客室で過ごすことで納得し、師匠は大訓練場の空の下で眠ることが決まった。

 飛行艇で眠るには、落ち着かないらしく、飛行艇を見てあれだけはしゃいでいた師匠は、もう何処にも居なかった。

「師匠、本当にここで眠るんですか? 教会には客室だってあるんですよ」

「飛行艇に忍び込もうとする者が現れるかも知れないからな。だから俺はここで眠る。分かったら、さっさベッドを出してくれ」

「それでは飛行艇の護衛お願いします」

「ああ、任せろ」

 俺は魔法袋からベッドを出すと、師匠はそこへ腰掛け瞑想を始めるのだった。


 そんな師匠と離れたところで、自分の店に戻ると思っていたリィナとニーニャさんが目に付いた。

 そう二人は何故かついて来ていたのだった。

 そして今朝の師匠のように、はしゃぐ姿がそこにはあった。


 彼女達も含め、皆が俺の従者として特例で教会内部に入ることは出来ているが、本来はこれだけでも執行部に絡まれそうだな。

 まぁ色々な誓約はしてもらったから、外に機密が漏れることはないんだけど……。

 そんなことを考えて、リィナに話しかける。

「店はいいんですか?」

「だってこんな機会は、もう巡ってこないかも知れないじゃないですか」

「これだけのものを作れるなんて、さすがドワーフの技術力です」

「外観で判断することではない。内部を見てから判断するんだな」

 ドランは口と表情が合っておらず、常にドヤ顔で、ニヤける顔を堪えながら飛行艇を案内していくようだった。

 そしてその後ろにドヤ顔をしているポーラとリシアンもついて行くのだった。

「……もう、放っておこう」

 俺はそんなことを呟きながら、教皇様の元へ向かうことにした。


 今回もナディアとリディアを連れて行くことにした。

 二人の視線が、そう告げていたからだ。


 大訓練場から出ると、ナディアが口を開いた。

 「ルシエル様、公国ブランジュのことで何か分かったことはなかったのですか?」

 まぁ気になるよな。

 ドンガハハに魔族化の話を持ちかけたのはブランジュの人間だったらしいし。

 「ドンガハハが倒れた時の話は聞いていたよな?」

 「はい。ブランジュが黒幕だということを聞きました。しかしあれだけでは、分からないことが多過ぎて……」

 「心配か?」

 「はい。貴族という立場でなければ、ブランジュはとても良い国ですから」

 「気候も穏やかで自然も多く、隠者シリーズを作った魔法士が最後に暮らした地でもあるんですよ」

 それが今では、魔族を生み出す国となったか。笑えないな。


 「勇者召喚に関わるのは、皇族だけだったっけ?」

 「いえ、そこに警護をする為の騎士団と魔法師団が護衛につきます。しかしどういった儀式で召喚するまでは、分からない筈です」

 「勇者じゃない者を呼び出すことは?」

 「それは聞いたことがありません」

 「召喚の魔法陣があることは皆が知っていることですが、勇者以外を召喚する事故は今まで報告された事実はありません」

 「そうか。一応宣言しておくけど、もし仮に皇族も魔族、魔族化に関わっていたら、容赦は出来ないぞ?」

 「はい。その時は覚悟を決めます」

 「さすがに魔族を許容するわけにはいきません」

 しかし二人の言葉とは裏腹に、戸惑いが見てとれた。


 二人と敵対するつもりは無いが、仮にその場合は教会に置いて行くか、どうするか考えないといけないかもしれないな。

 考えるための材料は全て出すことするか。

 「今から教皇様にも伝えるが、ドンガハハに接触したのは、ブランジュの人間だということまでは分かった。そしてその男が勇者召喚で勇者よりも凄いものを召喚したらしい」

 「「…………」」

 ショックだったのか、それとも何か知っているのか、二人は言葉を紡げずに固まってしまった。

 これが普通の反応なのかも知れないな。

 家出して独立出来たはいいけど、家族や友人が危ない目に合う事が、分かったようなもんだからな。


 「もしそれが魔族や魔族化させるようなものなら、二人が言っていた豊かな自然はそこで終焉を迎えるかもしれない」

 二人は更に不安な顔になってしまった。


 しかし、実際問題下手をしなくても、きっと聖シュルール協和国は戦争に巻き込まれるだろう。

 放っておいたら、帝国と公国の挟み撃ち、その後は自由都市国家であるイエニスも危ないだろう。

 どう考えても、俺に平穏はなくなってしまう。

 それだけはどうしても避けなくてはならない。


 「俺は戦いたくない……でも、魔族化を解くことが出来るし、魔族を弱体化させることは出来る。俺には俺の出来ること、二人には二人に出来ることをすればいいと思う」

 そこで会話切り、俺は教皇様の部屋へと進むのだった。


 入室許可を得て中へ入ると、そこにはローザさんやエスティアの他に、ガルバさんとカトリーヌさんがいた。

 「教皇様、夜分失礼します。昼間の裁きは教皇様の優しさが混じった、良い裁きだったと思います」

 「……そう言ってくれること、嬉しく思う。妾はあれからもずっとあれが正しかったのか、ずっと迷ったままじゃ」

 「それが裁く者の責任です。それだけ教皇様が今回の件に対し、誠実に向き合ったということだと思っています」

 「そうか。なんと重きことよ」

 教皇様は沈痛の面持ちで、顔を伏せた。


 「教皇様ならば、きっと出来るでしょう。しかしその為には新執行部の中に教皇様へ全ての情報を通してくれる人物が必要だと思います」

 「ところで何故ガルバさんがここへ? しかもかなり疲れ切っていますが?」

 その横では満たされた感じのカトリーヌさんが、昔売店であったようなほんわかしたオーラを出していた。


 「うむ。ガルバ殿は情報収集能力に長けているとカトリーヌから推薦を受け、機密の誓約を交わしてもらって、教会の人事を手伝ってくれることになったのじゃ」

 「ガルバさん!? メラトニの冒険者ギルドは大丈夫なんですか」

 「……ブロドを明日にでもメラトニへ帰してくれると有り難い」

 「師匠は大訓練場で眠るって言っていましたから、説得をお願いします」

 「まぁそうか、そうだよね。人生ままならないものだね」

 いつものガルバさんらしくないが、藪蛇になるので頷くだけにする。


 「それでルシエル、この時間に訪れたのは、妾の様子を身に来ただけではあるまい」

 「ええ。まず近いうちに帝国へ行くことを決めました」

 「……大丈夫なのか?」

 「さぁ? ですが、ここで私が行かないと魔族化した人が帝国を支配、もしくは破壊してしまうでしょう。そうなれば次の目標がここになる可能性があります」

 「ここには騎士団の精鋭がいるのじゃ」

 「私の師と従者二人に負ける騎士団は精鋭とは呼べませんよ」

 「なっ!?」

 「騎士団には騎士団の戦い方があるのでしょうが、集ではなく、個の力で来られたら一日も凌ぐことが困難でしょう。下手をすれば壊滅もありえます。騎士団も叩き直すしかありません」

 「なんと……よもやそこまで教会自体の戦力も落ちていたのか」

 その騎士団長は話を聞いているが、何も話そうとはしなかった。

 きっとここにガルバさんがいなければキレていただろう。

 しかし、ここでも藪を突く趣味はない。

 ここで本題に入る。

 「教皇様、ドンガハハの件ですが、彼は遺書を残していました」

 「遺書じゃと!?」

 「はい。きっと教皇様はこれを見れば心を痛めるでしょう。ですが、これが教皇様の糧になればと思ってお渡しさせていただきます」

 ローザさんへドンガハハの遺書を渡すと、ローザさんは教皇様へと渡した。

 「それとドンガハハの机の中から、見慣れない封印されているような宝玉が出てきたのですが、何だか分かりますか?」

 魔法袋から宝玉を取り出して見せた瞬間、何故か教皇様が俺の目の前にいた……?! 全く視認出来なかった。

 もしかすると、これがテレポートかも知れない。しかも魔力の揺らぎすら感じることが無かった。

 やはりレインスター卿の娘である時点で、教皇様も規格外なのだと思い知らされる。


 「これは何処にあったのじゃ」

 そんな教皇様は俺の手から宝玉を受け取ると、直ぐ確かめるように聞いてきたが、どうやら先程の声は教皇様には届かなかったらしい。

 俺は改めて、宝玉が合った場所を説明する。

 「ドンガハハの引き出しの中にありましたが、一体これは何なのですか?」

 「これは精霊結晶、精霊の力を封じ込めるためのものじゃ……良かった、本当に良かったのじゃあああああ」

 教皇様は嬉しさのあまり泣き出してしまい、俺はただ呆然とすることしか出来なかった。


お読みいただきありがとうございます。

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