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217 標的

 魔族化していた騎士達の身体から瘴気が溢れ出ているのは変わらない。

 しかし先程までとは違い、肌の色が徐々に青くなっていき、真っ赤に光る目には知性のかけらもなくなっていた。

 まるで物語に出てくる狂戦士バーサーカーの様相を呈していた。


 「ドンガハハさん、まさか執行部のトップである貴方が出てくるとは、思ってもみませんでしたよ。そちらから来られないでも、こちらから伺いましたのに」

 狂戦士となった彼等には触れず、まずは話すことで、出来るだけ時間を延ばすことにする。

 「それには及びませんよ、賢者殿。死に逝くものに優しくするのは、当然のことですからな」

 どうやら圧倒的に有利だと思っているのか、ドンガハハは話に付き合ってくれるようだ。


 「私が死ぬような言い方ですね?」

 「がっはっは、この状況でまだ強がるとは、さすが賢者殿ですな」

 魔族化が更に進んだ騎士達が、ブルトゥ-スを含めて十一人。

 魔族化がどれだけ強いかは分からないが、騎士団の中で互角に戦える者は少ないだろう。

 「そちらこそ自信満々ですね。それだけ自信がお有りになるのでしたら、後学の為に教えを乞いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「後学があるとは思わんが、構わんよ。賢者殿も、もしかすると仲間になるかも知れないからな」

 自信満々にドンガハハはそう俺に言い放ったが、仲間というのは魔族化、もしくは隷属させるということだろう。

 完全に下種だな。

 教皇様はこいつの本質に気がついていなかったのか? それとも気がついていたけれど、何か負い目でもあるから放置していたのか? まぁどちらにせよ質問も出来るし、時間も稼げたな。


 「この教会本部には強固な破魔の結界が張ってある筈なのに、どうして魔族化したとはいえ、魔族が入り込めたんでしょうか?」

 「くっくっく、破魔の結界? そんなものが既にあるわけがないだろう。何故迷宮が教会の中心部に現れたと思っているのだ」

 迷宮が出現した時点で結界の効果がなくなったことに気がついていたのか。

 迷宮が出現したのは半世紀も昔のことだから、彼とは直接関わりがないだろう。

 なら何故教皇様に報告しなかったのだろう?


 「結界が消えていることに気がついていたのなら、何故放置を? 仮にも貴方は教会本部の重鎮でしょう。執行部のミスで迷宮が出現したことを知ったのなら、それに教皇様に報告する義務があったのでは?」

 「そんなもの、私が教会に、教皇様に対しい恨みを抱いているからに決まっているだろ」

 先程までの笑みを浮かべていた顔が一変し、彼は鋭い目つきでこちらを睨む。


 教会と教皇様への強い憎悪の感情が伝わってきた。

 「恨み? 教会の重鎮が教会や教皇様に恨み……ですか。私の場合は、貴方方が色々仕掛けてきたからですが、貴方は何故恨みを?」

 「当時の無能な執行部と教皇が浅慮なせいで、私の父が死ぬことになったからだ」

 以外としっかりとした理由がありそうだ。


 だけど、教皇様の現状を知っているのだから、それがただの逆恨みになることを彼だって分かっている筈だ。

 「今になって何故、復讐をすることにしたんですか?」

 「復讐か……確かにある意味そうなのかも知れない。だが、今になってという理由ならはっきりしている。それは貴方ですよ、賢者殿」

 「私?」

 俺が理由ってことだが、別段彼に何かをした覚えは無い。


 「貴方が迷宮を踏破してくれたおかげで、迷宮に取り残された父が供養されたと、教皇様がこの遺品をくれたんですよ。そして当時の記憶が甦ったのです」

 「その杖は」

 俺が迷宮から持ち帰った杖だった。

 「これは父が持っていた杖だったんですよ。まだ本殿が迷宮化する前、父は本殿を管理する責任者をしていまいしたからね」

 あの時、老人となって消えていった五十層のボスが、ドンガハハの父だというなら、老人だと思ったのは見間違いだったのか、それとも彼が養子だったのだろうか?

 「拡張工事を了承しただけで、教皇様を恨むのは筋違いではないのか?」

 「そんなことで、ここまで恨むと思うか? 当時迷宮化する直前、教皇様が父に忘れ物を頼んだのだよ。父はその後、運悪く迷宮化に巻き込まれてしまったのだ」

 「それでずっと恨んできたのか?」 


 「それは少し違うな。教皇様は父の息子であるというだけで、教会本部に招き入れ厚遇に扱い、どんどん出世させてくれた。当時は感謝こそしたが、恨む気持ちになどなれなかった」

 「それでは何故だ?」

 「私が執行部に配属された後、昔の執行部の記録を調べる機会があったんだが、その時にたまたま見つけたんだよ。父が人族至上主義だった為に、当時の執行部に執拗に聴取されていた記録と、教皇様が父にお願いした忘れ物の記録が」

 凄く嫌な予感がする。

 人族至上主義であった由縁はまだしも、忘れ物とか嫌な予感しかしない。


 「その記録が正しいものかどうかの精査はしたんだろうが、それは恩を仇で返すようなものだったのか?」

 「恩……教皇様にとっては償いだった筈だ。何故なら父に取りに行かせたのが、当時お気に入りだった首飾りだったそうだ。教皇様からも直接聞いたから間違いない。聞いたのは迷宮の攻略を諦めると宣言した日だった」

 それが本当にただの首飾りだったのかは、今は措いておくとして、確かにそれならば恨んでも仕方ないのかもしれない。

 大事なものなら身に付けておけばいいのだ。

 「それから教会を潰そうとしたと?」

 「フッ、それならば、私の恨みは何らかの形で結末を迎え、終焉していただろう。だが、迷宮攻略を諦めると聞いてから、間もなく教会は私が手を下すこともないまま、勝手に腐敗していったのだ」

 ドンガハハはその状況をとても嘆かわしかったと言って、首を横に振って見せた。

 騎士だけでなく、治癒士も大量投入してことで、一気に序列が変わったって言っていたし、今でも騎士団はその影響がある。

 過剰な戦力を投入したのが裏目に出て、それでも踏破出来なかったことで、教皇様は完全なお飾りになったんだったな。


 確かにそう思うが、今になって何故という気持ちが強くなっていく。

 「……それならば、そのまま教会の為に尽力してくれれば良かったのでは? こっちはいい迷惑です」

 「貴方には感謝しています。我が派閥が分裂しようとも、それだけの価値が貴方にはあった。迷宮を踏破するだけでなく、悪徳治癒士達を潰し、あっという間に教会の名声や威厳を取り戻していった」

 「……私だけの力ではありませんよ。それに貴方だって、ガイドラインや法案の練りこみをしてくれたでしょう」

 「私達がしたことは、特別な事ではない。その若さで人に出来ないことをやってのけた貴方だからこそですよ。民衆はカリスマ性を持つ者に弱いのです。圧倒的な何かがあれば、それだけで惹かれ者は多い」

 「……ブランジュや帝国と幅広く付き合っているみたいだけど、いつから妨害をしていたんだ?」

 「妨害ですか? これは異なことをおっしゃられる。それは貴方でしょう。召喚した魔族を使って、村を丸ごと魔族化させる計画を潰し、そのままグランドルへ向かって、低級の迷宮で張らせた魔族をその日のうちに倒すなんて、どれだけこちらの動きを読んでいたのですか」

 全ての情報を掴んでいる……か。しかし教会から動けない彼が、ここまで詳細に把握出来るのは外部に協力者がいないと無理な筈だ。

 何故なら教皇様に語っていないことまで、彼は饒舌に話しているのだ。


 「あれも全て貴方が仕組んだことだったんですか?」

 「ええ。もちろん協力者はいますがね」

 「じゃあ、神罰を受けたと噂を流したのも?」

 「あれは真実に少しの嘘を混ぜただけですよ。貴方が勝手に自滅したのが、いけないのですよ。私の復讐計画が途中で狂ってしまい、練り直す必要が出てきてしまった」

 きっと治癒士としての能力を失ったことを言っているんだろう。

 だが、彼の言動にどうも違和感を覚える。

 自ら協力者がいることを認めるとか、主犯を自分だと思い込ませたいみたいだ。


 「それで教会にダメージを与えられそうな噂にしたのか」

 「貴方は治癒士の能力を失ったところで、用無しとなってしまったんですよ。仕方なく情報をばら撒かせたんですけど、貴方は随分と民衆に人気があるようで、これも中々うまくはいきませんでした」 

 ……なんだろう。少し嬉しくなって、顔がニヤケそうになってしまう。

 「だったらそこで諦めるとかの選択肢はなかったのか?」

 「がっはっは。こちらの予想を遥かに飛び越えて、たった三ヶ月で賢者になって戻ってくる者を、捨て置くなど勿体無いでしょう」

 この言い方だと、俺を標的ターゲットにしているような……!?

 「……もしかして、カトリーヌさんや戦乙女聖騎士隊を狙ったのは、俺を誘い出すための罠だったのか」

 「ようやく気がついたかね。魔族化を解けるのはまたしても誤算だったが……ここで君を潰して、教会本部を破壊することで、私の復讐は終焉させることにしよう」

 「……最後に聞かせてくれ。この計画を立てたのは誰だ? 貴方がどれだけ計画を立てようと、魔族を呼び出せるなんて思えない」

 「……良く回る頭ですね。残念ですが、死んでいく者に全てを教えるわけにいきません。丁度準備も終わりましたから!」

 「ちぃいい!!」

 狂戦士となってしまった騎士達全員の魔族化を気づかれないように解いていたのだが、全員の解呪には間に合わず、仕方なく聖域結界を反転して張ることが限界だった。

 「ほぅ。魔族化した者達を救うために、結界を張りましたか。随分と余裕がありそうだ」

 魔族化した騎士達は結界を攻撃するが、出ることは出来なそうだった。

 「余裕はないが、そちらの手札は減ったんじゃないか?」

 「がっはっは、本命は既に完成してますよ」

 「完成しているだと? 魔力が練れない? まさか?!」

 あまりの余裕におかしいと思ったら、魔力が練れないことに気がついた。

 「ええ。強力な封魔結界を張り巡らせました。貴方に状態異常が効かないことは分かっていますので、この作戦を考えました。さぁ絶望を浮かべたまま、終焉を迎えなさい」

 どうやら試練の迷宮の十階層のボス部屋と同じように、魔法を封じられたらしい。

 本当によく俺のことを研究しているらしいな。

 あの時と一緒だとしたら、自らは魔法をつかえるのだろう。


 そう思っていると案の上、ドンガハハの持っている杖が赤く輝くと、赤黒い魔法陣がドンガハハの目の前に浮かび上がっていくのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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