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214 線引き

 先行した皆を追ってリフトまで来ると、ドラン達が降下するところだった。

「待ってくれ。俺も行くから」

「おっ! ルシエル様を忘れていた」

「ルシエル、遅い」

「ルシエルさん、急いでください」

 ドラン、ポーラ、リシアンがそれぞれ声を掛けてくれるが、三人とも微妙に酷いと思いながらも、直ぐにリフトへ乗りこんだ。


 リフトが降下していくと、騎士団が集まっていたのだが、どうも少し様子がおかしい。

 皆が飛行艇に唖然としている様子は、いたって普通の反応と思う。

 しかし彼等は模擬戦でもしていたのか、武器を持って対峙している姿勢を崩すことはないことに違和感を覚えたのだ。


「師匠、ライオネルどういった状況ですか……あれ? ガルバさんは?」

 そう聞きながら、周囲を見渡すと、ガルバさんは中央付近で囲まれているカトリーヌさんの下へ既に辿り着いていた。

 カトリーヌさんと戦乙女聖騎士隊が他の騎士団に囲まれているような感じだった。

「ガルバなら、スパイをさせていた騎士団長のことを見つけたら、あの集団の中に躊躇無く飛び込んだ」

「良く無事でしたね」

「騎士団は練度が甘く、予想外の出来事に困惑している様子で、動けるものはいませんでしたね」

「さてと、じゃあ行きますか。ライオネルは飛行艇をしまってくれるか?」

「はっ」

 ライオネルは俺の指示で直ぐに魔法袋に飛行艇をしまってくれた。

 それを確認してから、騎士団の元へと歩みを進める。


 俺の姿を見て皆が一様に固まっているのは、賢者と至ったことを知っているからか、それともライオネルやケティ、ケフィンといった騎士団を壊滅出来る戦力が整っているからか、何にせよ彼等の動きは未だに止まっていた。

 きっと指示を出す隊長格も、俺が飛行する乗り物に乗ってくるなど、頭には無かったのだろう。


「騎士団の皆さん、一昨日はどうも。知らない方もいらっしゃるかも知れないので、自己紹介をさせていただきます。先日、治癒士から賢者へジョブ変更になった元S級治癒士で、現在賢者のルシエルです。今回は恩人である狼獣人のガルバさんのお願いを聞いて聖都へやってきましたが、朝から模擬戦でもしていたのですか?」

 朝と言っても、既に十時を回っているぐらいだろう。

 しかし語り掛けている筈なのだが、誰もが口を閉ざしたままだった。

「まぁとりあえず、噂を信じた者達がどれだけ騎士団にいるかは分からないので、自分の身を持って噂が噂でしかないことを実感しなさい」

 パチンと指パッチンを鳴らすと、戦乙女聖騎士隊の面々も含めて、他の騎士団にも複数のエリアミドルヒールを一気に発動させた。

 実は喋りながら、ゆっくりと魔法陣詠唱を紡いでいたのだ。

 騎士団の中には魔力感知出来るものもいるだろうが、あれは師匠やライオネル並みの達人でなければ、集中していないと感じることはない。

 だから演出として、エリアミドルヒールを六ヶ所同時に、しかも瞬時に発動させたのだ。

 これで聖属性魔法が使えないという噂が、完全にただの噂だということの証明した筈だ。

 周囲は本当に回復魔法を使えたことに驚き、ざわつきだした。

 これでもまだ敵対する姿勢を貫くのであれば、彼等とは相容れないということで、線引きしようと決めていた。


「それで戦乙女聖騎士隊とカトリーヌ騎士団長が囲まれているのは何故でしょうか?」

 俺がそう口を開くと、先程までのざわつきが嘘のように、静寂が訪れた。

 誰もがこの話題に触れて欲しくないように思っているのだろう。

 だからカトリーヌさん達を包囲している騎士達へと近づいていく。

 すると、騎士達は構えを解いて、道を開けてくれた。

 そして道を開けてくれたところで、ルミナさんと顔が合った。

「ルミナさん、偶然ですが、一昨日の借りは返せましたかね?」

「ルシエル君……どうして?」

「ガルバさんが、カトリーヌさんを助けたいと言ったからですね。まぁ私もやり残したことが、この教会本部にあったからですけど……それより、これはどういうことですか?」

「今朝方、カトリーヌ様にスパイ容疑で捕縛と処刑命令が下ったのだ」

 スパイ容疑は事実だけど、これをここで言っても意味はないので、伏せておく。

「それも執行部ですか?」

「ああ。執行部から出されたもので間違いない。ルシエル君の時も噂だけで命令が下ったことに驚いていたが、カトリーヌ様まで続くと、何かの陰謀にしか思えなくてな」

「執行部へ抗議しに行ったら、ルミナさん達まで捕縛命令が出ましたか?」

「その通りだけど、賢者になると全てが見通せるようにでもなるの?」

「いえ、そんな超人的なことは出来ませんよ」

 俺はルミナさんに微笑むと、騎士団の全員に語り掛ける。

「さて教会本部の砦である騎士団の皆さん、現在の執行部はあることないことを皆さんにやらせているようです。皆さんは上からの命令ですから、従わなければいけないのも分かっています。ですが、次、罪人に仕立て上げられるのは、貴方方の誰かかも知れません」

 皆の顔を見ると、大半は迷っているように映るが、数人からは殺気が漏れ始めている。

 だが、師匠達が俺を守るように展開している為、手出しが出来ないと思っているのか、襲い掛かっては来ない。


「貴方方が騎士団にいるのは、教会の秩序と聖シュルール協和国を様々な脅威から守るためですよね? 私はそう思っています。これから現在執行部を牛耳っている者達を、こちらから全員引きずり出してきます」

 俺の宣言に騎士達はもちろん、ルミナさん達も唖然と固まる。

 まぁ教会本部において、教皇様の管轄化にない独立している執行部を、叩くと宣言したのだから、当たり前なのかもしれない。

 騎士達は迷いの表情を浮かべたまま、攻撃をしてくるものはいなかった。

「念の為、そのまま私が刷新しても良いのですが、それは教皇様に全て託します。さて目的は話しましたので、敵対する方々は掛かって来てください。それ以外の方は武器を納めてください」

「ルシエル君、本気なの?」

 ずっと黙っていたカトリーヌさんが、ようやく喋った。

「ええ。じゃあカトリーヌさん、執行部の人達がいる場所へ案内し「ガキィィィン」」

 カトリーヌさんに、執行部の場所を聞いている最中に、甲高い音が闘技場に響いた。

 俺の死角から、投擲用の短剣が、飛来してきたのを師匠が弾いてくれていた。

 しかもその短剣にはご丁寧にも、毒のような液体が塗ってあった。


「執行部に仇なす者は、いくらS級治癒士といえども見逃す訳にはいかないのだよ、ルシエル君」

 短剣の飛んできた方向に視線を向けると、そこにはブルトゥースさんが笑みを浮かべながら、口上を述べた。

「これはブルトゥースさん、ご無沙汰しておりました。まさか貴方の方から来ていただけるとは思っても見ませんでしたよ」

 まさかここまで予想通りだと、本当に魔族化してそうだな。

 俺は師匠達の位置取りを把握して、戦闘準備を速やかに始める。

「フッ、白々しい。カトリーヌにスパイをやらせるなんて、とんだ背徳者だったな」

「いえいえ。それは人族至上主義の思想を、教会の意思と捻じ曲げて解釈した妄信者の方々に、そっくりそのままお返しさせていただきますよ」

 売り言葉に買い言葉ではないが、挑発していく。

「ルシエル君、ブルトゥースは私では歯が立たないぐらいに強くなっているわ」

 するとカトリーヌさんが、ブルトゥースの強さを語るが、俺には昔は勝てたけど、今は勝てないと言っているように聞こえた。

 この人は確か、怪我で神官騎士隊の隊長を辞めたと言っていた筈だ。ということは、一気にパワーアップしたことになる。

「フン、カトリーヌか。我々の崇高な意思が理解できず、狼獣人などに好意を持つとは馬鹿な奴だ。しかしS級治癒士様は、二十歳そこそこの青二才の分際で、言う様になったではないか」

 彼は人族至上主義であることを、最早隠す気はなさそうだった。

「ええ。人の揚げ足ばかりを狙って、努力することを忘れてしまった方々が多いので、自然と成長出来ました。それに尊敬出来る方々が私の周りには大勢いますからね」

「本当に言いたいことをズバズバ言うようになった。だが、結果が伴わなければ、口は災いの元にしかならないことを、先に教えてもらうのだったな」

 一瞬赤い光が見えたと思ったら、騎士団の中から数人の騎士達が、俺達と戦乙女聖騎士隊に襲い掛かってきた。

 ……やはり赤い光が出てきたか。

 これが本当に魔族化の証なら、あれを試してみるか。

 騎士達の攻撃は、師匠達が止めてくれると信じて、俺は自分に出来ることをする。

「なるほど。では金言のお返しに、新作魔法を発動しますよブルトゥース。【聖なる治癒の御手よ、母なる大地の息吹よ、魔に堕ちた存在を、不浄なる存在を、全てを飲み込む浄化の波となって払え、 ピュリフィケイションウェーブ】」

 新作魔法を唱えると、俺を中心に青白い光が波紋のように幾重にも拡がっていく。


 この魔法はネルダールにいたときに、もし魔族に囲まれたら逃げる時のために開発していたもので、実は一度も試したことが無かった。

 それでも何故か出来ると確信していたのは、ネルダールでの地味な勉強のおかげだろう。

 ピュリフィケイションウェーブは、一般人が触れてもただ汚れが綺麗になるだけの便利魔法なのだが、魔族やアンデッド等の瘴気が力の源である存在にしてみれば、無慈悲な毒でしかない。

 聖域円環も考えたのだが、聖属性魔法の威力が上がり過ぎていて、情報を聞きだす前に消滅させてしまう可能性もあって、今回は断念したのだ。


 襲い掛かってきた者達を含め、ブルトゥースもピュリフィケイションウェーブが効いたようで、痛みによる絶叫が闘技場に響き渡った。

 当然襲い掛かって来た魔族化しそうな騎士達は、そんな状態で戦えるはずもなく、師匠達が一気に蹴散らしてくれた。


 しかし俺の意識は騎士達ではなく、痛み苦しむ、戦乙女聖騎士隊の隊員であるルーシィーとエリザベスに向けられていたのだった。



お読みいただきありがとうございます。

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