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213 空の旅

 飛行艇は目測百メートル程の高度を保ち聖都へと向かって飛行を続けていた。

 但し、スピードは五段階のモードがあり、その中で一番上、そうMAXスピードである。

 どうしてこうなったかと言えば、話は二時間程前まで遡る。


 飛行を開始した時はあまりになめらかな発進に驚きながらも、空を飛ぶこの乗り物に感動をしていた。

「凄いぞ、ドラン」

「くっくっく。あとは慣れたら速度を上げていくといい」

 そう言って空いている席へとドランは移動した。

 目線が変わり、森や山の見方まで変わり、全てがものが新鮮に見える、そんな気分だった。

 飛行艇は一段階目のモードに入れたまま飛行すると、馬で軽く走る程度には速度が出ていた。

 大体三十キロぐらいだろうか? さすがにこれでは遅いと思い、街道に人や馬車がいないかを確かめてから、水晶を前方に撫でた。

 すると、フォレノワールが馬達を引き連れて走ってきたのに匹敵する速さへと一気に加速した。

 どうやら五段階あるモードは、一段階毎に三十キロ程上がるらしいことも判明した。


 風を切らないと、その速さをイマイチ実感できないのは、バイクや車みたいな感じだな。

 そんなことを考えて、まだ前世と比較してしまう自分がおかしくなって、徐々に緊張が解けていった。


「ドラン達が俺達を追ってきたのは、何段……何速だったんだ?」

 何段って何気に言いにくいので、何速に言い直してみた。

「あれは三速だな」

 ドランは何の抵抗もなく、三速と答えてくれた。

きっとフォレノワールが俺を背に乗せた全力に近いか、それ以上の速度になるんだろう。

 俺は少しワクワクしながら、三速に上げることにした。

「分かった。じゃあ三速に上げるよ」

 こうして俺は三速に上げた。

 ここまでは普通だった。


 しかし、ここから三つの速度を上げる要因が出てくる。

 まずは慣れだ。

 メラトニから聖都までの道のりで、高度百メートルを越える障害物がないことに加え、風が吹こうがどうしようが、飛行艇は揺れることなく飛行していること。

 感覚的には舗装されたばかりのストレートな高速道路を走っているイメージで、機体が安定している為、スリップ等の心配もない。

 気をつけるところで言えば、バードストライクと魔物ぐらいのため、余裕が出来た。

 次に時間だ。

 ガルバさんから無言……の圧力を掛けられていた。

 処刑はされないかもしれないが、カトリーヌさんが拷問されていることを想像したらしく、「一刻も早く助けたい」と呟いているのが、呪詛のように聞こえてくるのだ。

 そしてそのガルバさんに誰も声を掛けてくれないから、全ての圧力がくる。


 最後に……師匠だ。

 本来であればガルバさんを弄ったりするのは、師匠の役目の筈だった。

 その師匠は先程まであれだけはしゃいでいたのに、借りてきた猫のようになってしまった。

 睡眠不足もあってか、どうやら外を見ていて酔ったようで、回復魔法をかけても、直ぐにまた気分が悪くなるらしく、「出来るだけ早く聖都へ」と言い残し、個室へと移動していった。

 それを皮切りにポーラとリシアンが魔道具の製作へ出て行き、ライオネル達がナディアとリディアに、この三ヶ月の詳細と公国ブランジュの情報を聞くため、食堂へと出て行った。


 そんな理由が重なり、段階を上げて全速の飛行をすることになったのだが、最初は速いと感じた速度も、徐々に目が慣れてきた頃には、昨日の早朝に立ち寄った村を通り越していた。

 この分だと、後数時間でかなり早く聖都へ到着するのではないかと思っている。


 さすがに目を切ることは出来ないが、考える余裕が生まれた俺は、念のために操縦室に残ってくれたドランが、後ろで何かをしているようだったので、話し掛けることにする。

「ドラン、さっきから何をしているんだ?」

「昔ルシエル様が言っていた、魔力検知する魔道具を試験している」

 それってドワーフ王国へ向かう時に言っていたやつだよな? それを設計していたのは確かリシアンだった気がする。

「……それってリシアンのか? 既に完成していたのか?」

「いや、ただの試作品だ。精度も低くて使い物にはならない」

「そうか。この船の空間拡張したポーラといい、あの二人も頑張っているんだな」

「ああ。友であり、ライバルであり、協力者でもある。ルシエル様には本当に感謝している」

「それなら俺もドランにも皆にも感謝しているさ」

「そうか」

 そう呟いたドランの声は、笑っているよう感じた。

 このドランとの会話で、ガルバさんの呟く呪詛を軽減させた俺は、更に二時間弱の運航を無事成し遂げるのだった。

 聖都が徐々に見えてきたので、距離に応じて徐々に減速していく。

「ガルバさん、師匠を起こしてもらってもいいですか?」

「了解」

 ガルバさんはそう言って、足早に操縦室を出て行った。

「ふぅ。これだけ近づくと、冒険者達にも見られている可能性があるし、下手をすると教会本部に敵襲だと因縁をつけられそうだし……」

 ガルバさんの張り詰めた空気感がなくなったことで、俺は息を吐き出すと、飛行艇を着地させる場所を考え始める。

「何を悩んでいる。このまま教会本部まで行けば良かろう」

「いや、それだと敵襲だと思われて攻撃されそうですし」

「鉱石を斬ることの出来る者達がいなければ、攻撃を受けたところでどうという事はない」

 あれ? ドランが何故か好戦的なように感じるんだけど、気のせいか?

「……現在は飛行艇に魔力が十分あるとしても、脱出も考えないといけないから、聖都の外にしようかと……」

「ルシエル、教会に降りろ」

 ドランに自分の考えを伝えようとした時に、後ろから声が聞こえた。

「……師匠、もう大丈夫なんですか?」

 後ろには師匠を始め、皆の姿が揃っていた。


「おう。久しぶり暴れられるかと思ったら、何か治ったわ」

 師匠は笑うが、教会本部に降り立つと不味い気しかしない。

「師匠、確かに訓練場なら飛行艇を着陸出来ますが、下手をしたら直ぐに戦闘になってしまいますよ?」

「別に悪いことをした訳ではないだろ? だったら堂々と乗り込めばいいだろ。それこそ教会の奴等が攻撃してきたら、とりあえず全員潰して、命令を出した奴まで捕まえればいいだろ?」

「確かに少人数に襲い掛かって返り討ちにあった等、恥ずかしすぎて外部に漏らすことも出来ませんし、良いのではないでしょうか」

 本当にこの二人の考え方はぶっ飛んでいるけど、何故か間違いに聞こえないから不思議だ。

「まぁ命令を出した奴は僕に任せてよ」

「殺しは駄目ですよ? 裁きは教皇様にしてもらいますから」

「大丈夫だよ。生きていることが辛いと思わせるだけだからフフッ」

 ガルバさんがとても黒い笑みを浮かべるので、視線を逸らして、飛行艇から降りた後のことを考える。


「……仮に飛行艇を直ぐに魔法袋にしまうことになるだろう。そうした時にドラン、ポーラとリシアンは騎士団と戦えるか?」

「ちと難しい。魔物なら全力でいけるが、殺してはいけないとなると、全力が出せないから防御しか出来ないだろう」

「ナディアとリディアは、ドランを含めた三人を守れるか?」

「騎士団の強さが分からないので、何とも言えません……」

「出来る限りのことはしますけど……」

 そういえば確かに、二人は騎士団と戦ったことがなかったな。

「本当に戦闘になってしまったら、まずはエリアバリアと回復魔法で支援しますが、出来たら戦闘はしたくありません。それに今回の件で確かめないといけないこともありますから、それまではこちらからは絶対に仕掛けないと約束してください」

「何かあるんだな?」

「はい。もしかすると、騎士団以外と戦闘になることも考えられますので、その時は師匠や皆を頼りにさせてもらいます。あ、ガルバさんはカトリーヌさんを探し行っていただいて構いません」

「ありがとう」

「いえ、今回は俺のけじめ的な意味合いもあるので、気にしないでください」

 俺は笑ってそう告げると、丁度飛行艇が聖都の上空に到達した。


 下を見れば、聖都の住人が驚くような顔をしている……か、どうかは分からないが、足を止めてこちらを見ているようだった。

 飛行艇をそのまま教会本部の裏にある大訓練場へと向けて飛行させると、たくさんの騎士達がいるのが確認出来た。

「さすがにこれだけの騎士団がいるとは予想外でしたが、このまま行きますよ」

 しかし俺の呼びかけに応じてくれる人は居なかった。

 俺は疑問に思い振り返ると、さっきまで居たはずの師匠達の姿が、既に何処にもなかった。

「えっ、皆戦う気満々なのか?」

 少し寂しくなりながらも、初めての着陸だったので、丁寧且つ安全に気をつけて、無事着陸に成功した。

「はぁ~、休んでいる暇はないか。しかしこれってどうやって停止させるんだ?」

 水晶から手を離したが、中々停止しなかったことに、ドキドキしていると、十秒程で動作が停止していく。

「停止して良かった。さて行きますか」

 俺はリフトまで歩きながら、教会での最後の仕事に全力を尽くすことを心に決めるのだった。


お読みいただきありがとう御座います

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