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207 二重スパイ

 師匠達との模擬戦を終えた俺達は、冒険者ギルドで食べて飲んでの大宴会を楽しむことになった。

 宴会が始まる前に、ドラン達をケティとケフィンが呼んで来てくれたこともあり、安心して楽しむことが出来た。


 冒険者達からは今後の師匠の面倒……模擬戦の相手を頼まれたり、自らも模擬戦の申し込みをしにきたりと、大いに盛り上がりを見せた。

 そしてもはや恒例なのか、ここでも俺の通り名が新しく作られ始めたのだが、それを聞く前に俺は師匠とガルバさんから、今回の黒幕についての話を聞くため、ギルドマスターの部屋へと移動することになった。


 ギルドマスターの部屋には、作戦会議が出来る大きなテーブルがあり、その上には大きな地図が置かれていた。

 そこへ師匠、ガルバさん、俺、ライオネル、ケティ、ケフィン、ナディアとリディアが集まった。


「さてと、宴の最中に悪かったな。だが、これは明日以降の動きに関わってくる内容だから、話しておく必要があった。ガルバ、説明を頼む」

「了解。じゃあ時間もあるし、前置きなしで本題に入るよ。ルシエル君の噂が広まり始めたのは、ルシエル君がこの街を離れてから十日程経ったぐらい。場所はグランドルからだったんだ」

「えっ? グランドル?」

 教会本部から漏れたとばかり思っていたけど、違ったのか?


「予想外だったかい? ルシエル君も覚えていると思うけど、イエニスで罪を犯して奴隷になった者達がいただろ?」

「……ええ」

 かなりの数が奴隷となり、殆どがグランドルへと送られた筈……!? まさかあの時の奴隷が、グランドルにいたのか? しかし、何故ばれたのかが分からない為、俺はガルバさんに話の先を促がす。

「実はその奴隷達を大量に購入したある国の貴族がいたんだ。イエニスをまとめ上げて掌握したルシエル君を怖がってね」

「……貴族ですか? 怖がっているとしたら、隣国ぐらいしか……公国ブランジュですか?」

 俺はテーブルに置かれて地図を見ながら聞いた。

「そう。公国ブランジュ。ルシエル君の情報を集めるついでに、その貴族は元々欲しがっていた情報も合わせて探していたのさ」

 貴族が欲しがる情報を俺は持っているだろうか? いや、持っていない。

 持っていたなら、既に襲われているもおかしくないだろう。


 そう考えながら、周囲を見渡すと、ナディアとリディアを見て合点がいった。

「……ナディアとリディアですか?」

「そう。その貴族とは、そちらのお嬢さん方の元婚約者であるブレイド・フォン・カミヤ伯爵だ」

 その時、二人が息を呑むのが分かった。

 まさかその名前が出て来るとは思っていなかったのだろう。


「じゃあその人が奴隷を使って俺の行動に探りを入れていたんですか?」

「まぁそんなとこだね。少し話を変えるけど、ルシエル君は教会本部にいたけど、他の人の出身地が分かったりするかな?」

 二人を見ながら、ガルバさんの質問に答える。

「まぁ数名ですけど、そういう話をしたことはあります。近隣だけでなく、他国からも優秀な人材は呼ばれているらしいです」

「それを知っているなら話が早いな。じゃあもう一つ、公国ブランジュが人族至上主義の国であることは知っているかい?」

「ええ。それについては最近知ったばかりですけど」

 結構タイムリーな話が多いのは、誰かが意図を引いているのだろうか? 

「それも知っているなら話しが早い。結論から言うと、公国ブランジュ……そのカミヤ卿と繋がりのある、教会本部にいる人族至上主義のトップが、ルシエル君の情報をリークしたんだ」

 人族至上主義のトップって言ったら、やっぱりあの人か。

 あの名前から、あの人の高笑いが聞えてくるような気がした。


「……なるほど。ですが、その情報が絶対だと、何故言い切れるんですか?」

 情報の裏が取れていないと、さすがに全てを鵜呑みにするわけにはいかない。

「ああ。僕にも教会本部の内通者がいるからね。ルシエル君も知っているよ。例えば最近ルシエル君が蹴り飛ばした相手とか」

 ガルバさんはそう言って笑うが、俺が蹴り飛ばしたのはカトリーヌさんしかいない。

「……カトリーヌさんですか?」

「正解。彼女には現在二重スパイをしてもらっているんだ」

「……全く話しが見えないんですけど?」

 確かに対峙した時、殺気も敵意も怒気すらも感じなかったけど、それが証明になるとも思えなかった。


「まぁそうだろうね。実は彼女、騎士団長として騎士団をまとめることに限界を感じていたんだ」

 ガルバさんは苦笑しながら、カトリーヌさんの話をし始めた。

 確かにカトリーヌさんが悩んでいたのは、ライオネル達も含めて知っている。

「それは知っています。俺達がネルダールへ行く前のカトリーヌさんはそんな感じでしたけど、最後には立ち直ったように見えましたけど?」

「うん。たぶんその件があって、騎士団長を辞めてもいいと踏ん切りがついたんだろうね。彼女は教会の膿を出すことに必死になった。けど必死になり過ぎる余り、教会の闇を思いっきり突いてしまったんだ」

 カトリーヌさん、やる気出し過ぎて空回りするなんて何してるんですか……。

 じゃあ、あの時対峙したのもポーズだったのか? ルミナさん達は知っていたのだろうか? 教会の闇ってことは執行部で間違いはないよな?

「……それは執行部のことですか?」

「そう。そんな彼女が救いを求めてきた時は驚いたけどね。今の執行部は人族至上主義の派閥が牛耳っているらしくてね。彼女は冤罪で処罰されるか、執行部の犬になるかを迫られたらしいよ」

「ですが、カトリーヌさんの武力なら、圧倒出来るんじゃないですか?」

「まぁ色々と弱みを握られていたみたいなんだよ。それに元神官騎士の隊長とかもいたらしくて、彼女が取れる選択肢は多くなかったんだよ」

 教皇様関連で人質とか取られたのか? それとも別件なのだろうか? しかも元神官騎士隊長って言ったら……ブル……。

 俺は頭を振って、自分の中に情報を落とし込む。

「……カトリーヌさんのことは分かりました。ですが、グランドルから噂が広まった割に、聖都で噂が出始めたのは、俺がネルダールへ旅だってから一ヶ月程度経った頃だと聞いてます。それにルーブルク王国へ情報が流れたのは、最近って聞きましたけど?」

「ルシエル君はルーブルク王国に情報網を持っているんだ。まぁ結局は噂だからね。そんなものは直ぐに風化してしまうんだよ。それにルシエル君の絶大な知名度と人気を嫉妬や逆恨みして、そんな噂が流れたって、ここじゃ皆で笑っていたぐらいだからね」

 何故だろう? 嬉しいけど、平穏からはどんどん遠ざかっているように感じる。

「……教会ではそんな穏やかな空気感はなく、殺伐としていましたけど? それにも何か理由が?」

「それはあることないことを吹き込まれたからだろうね。執行部は独自に調べた内容と虚偽の報告をして、信頼させていったみたいだし。わざわざ仕込みで神官騎士を襲わせていたらしいし」

「はぁ~。まぁ理解は出来ました。そう言えば噂を広めた人を捕まえているんでしたっけ?」

「そいつはもうこの世にはいない」

 俺の問いに答えたのはガルバさんではなく、師匠だった。


お読みいただきありがとうございます。

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