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200 騎兵隊

予約投稿ミスってました。

 村長の家から出る際に、一応二人が気になったという、精霊と竜にまつわる書物を持って、騒がしくなった外へ向かうことを告げる。


「さっきの村長からは、悪い感じは受けなかった。だとすると、何かアクシデントに見舞われた可能性が高い」

「追っ手でしょうか?」

 ナディアは可能性の中から追っ手を想定したが、俺は直ぐにそれを否定することにする。

「いや、先程俺達は、聖都に向かうと村長に告げた。教会の関係者であれば、騒ぎにならないだろう。ありえるのは魔物が現れたとか、怪我人が出たとかだろう思う」

「それなら大変です。直ぐに行きましょう」

「困っている人がいるなら、助けなくてはいけません」

 二人は何か使命感のようなものを持ち出しているように感じながらも、人命が掛かっているならと同意する。


「とにかく外へ行こう。あ、でもその前に、気になる本はあった?」

「特になかったです」

「龍や精霊の伝承について記載してある書籍は、ネルダールにもありましたから。特筆すべきものはありませんでした」

「じゃあこの一冊だけか」

 召喚に関する書籍を回収してから玄関の扉を開くと、騒ぎの中心にいたのは白狼の血脈の皆さんだった。


「一体何をしているんだ?」

 俺は呟きながら近づいて行くと、こちらに気がついたハザンさん達が声を掛けて来た。

「お、ルシエル、久しぶりだな」

「おお、ルシエル君が本当にいるなんて、ハザンの嗅覚はもはや人外だね」

「ルシエル、久しいな」

 ハザンさん、セキロスさん、バスラさんが順に話しかけて来た。


「おはようございます。皆さんどうしたのですか? 村長、彼等が何かされましたか?」

「……ルシエル様は、この獣人の冒険者達の知り合いだったのですか?」

 少し戸惑うように村長が聞いてきたところを見ると、人族至上主義の本に感化されているように感じた。


 まぁ今回はこれ以上問題になっても嫌なので、正確に彼等との関係を教える。

「知り合いですよ。彼等はメラトニの上位冒険者パーティーである白狼の血脈の皆さんです」

「だから知り合いだって言っただろ。ルシエル、少し心配だからって、旋風から依頼を受けて迎えにきたんだ」

 面倒だと言わんばかりのその口調は、村長の態度を示していた。

 きっと今までも同じように、人種差別を受けてきたのだろう。

 それを思うと、少しだけ悲しい気持ちになるのだった。


 しかしここで一つの問題が生じた。

 聖都に行くと言った手前、迎えではなく護衛と言って欲しかったが、村長はそのことを思ってか、少し渋い顔をしていた。

 誤魔化せるかは分からなかったが、ニュアンスを変えて話しをしてみることにした。

「師匠から護衛を頼まれたんですね。私達は馬が要り用になったので、この村で融通してもらうことにしたんですよ」

 すると、村長の顔を険しさが消えていく。

「それなら俺達も馬車で来たから乗っていくといい」

 ガルバさんが気を利かせて言ってくれたが、その瞬間の村長の目が鋭くなった気がしたので、ここはやんわりと断ることにする。

「折角譲っていただくことにしましたから、それに他にも譲っていただきたいものが出来たので」

「おや、何ですかな?」

 先程とは違い、晴れやかな笑顔での応対に、彼について深く考えることは止めた。

 どうやら村長はお金が目的らしいので、考えるだけ損なのだ。


「この召喚の本なのですが、読んだことがなかったので、ぜひ読みたかったのですが、そこまで時間的に余裕がないので、譲っていただきたいのです。もちろんそれ相応の対価は払わせていただきますよ」

「ああ、その本なら差し上げますよ。この村で暮らす私では、とてもその本に載っている材料を集められそうにありませんし、怪しげなものですから」

 以外なことに対価を求めないところを見ると、馬を売ることで頭がいっぱいになっているか、それとも価値がないものだと判断したのだろう。


「ありがとうございます。それで馬ですが?」

「既に準備は整っていますが、もし宜しければ食事をしていかれていかがですか?」

 村長はそう言ってくれるが、白狼の血脈がいる以上は墓穴を掘るかも知れないので、断ることにする。

 リディアから、お腹すいたオーラが出ていているので、村から出たら何か手軽に食べれるものを渡すことにした。


「ありがたい申し出ですが、今回は遠慮させていただきます。案内をお願いします」

「畏まりました。どうぞこちらへ」

 どうやら社交辞令だったようで、村長は断っても、気にする素振りも見せなかった。

 そして馬房まで先を歩き出したので、それについて行くことにする。


 後ろの方では、セキロスさんとナディアがなにやら話していて、その雰囲気はどこか知り合いのような印象を受けたが、そこでバザンさんが話しかけてきた。

「ルシエル、賢者になったんだってな。大変だっただろうけど、嬉しいぜ」

 鋭い犬歯を見せながら笑うバザンさんは、俺が賢者になったことを、本当に喜んでいるようだった。

 そのことに嬉しくなるが、まだ迎えに来てくれたことに対して、お礼を告げていなかったことを思い出し、お礼を告げる。

「まぁ今回は、本当に生きた心地はしませんでしたけどね。それよりもお迎えありがとう御座います。ここにいるってことは、だいぶ飛ばして来たんじゃないですか?」

「ああ。それでも命の恩人が命を狙われていることを知ったんだ。一番に駆けつけたかったんだよ」

 命の恩人っていつも大げさだよな。

 でも、治せる力があって、治せる患者がいて、巡り巡って今度は俺の力になってくれるんだから、感慨深いものだよな。

「……ありがとうございます。それで師匠の様子なんですが、どうですか?」

「……その話は本人から口止めされているが、俺達と戦って良い勝負に成るぐらいまでには回復しているよ」

 一瞬だが、何処か躊躇いを見せたことが気になったが、Aランクのバザンさんと戦えるぐらいに復活しているなら問題はないのだろう。


「三ヶ月しか経っていないのに、Aランク級の冒険者と戦えるって……さすが師匠ですね。人外なだけあります」

「まぁあの人のせいで、連日模擬戦が組まれていて、冒険者ギルドが変にピリピリしているんだけどな」

 ハザンさんはそう苦笑しながら言ったが、現在進行形なところを考えると、この三ヶ月間は同じようなことをしているのだろう。


 師匠のレベルとスキルの初期化は、封印されたわけではないから、今までの動きを取り戻すとしたら、地道な模擬戦闘と実戦を繰り返す他ない。

 そのため師匠は率先して、新人冒険者についていったり、模擬戦をしたりするのだろう。

 まぁ師匠が弱体化していることを知った冒険者達が、今なら勝てると思って挑むことで、実戦相手には困らないかも知れないけど……。 


 まぁギルドマスターである師匠が低レベルのままだと困るから、きっとガルバさんとグルガーさんも、師匠の手伝いをしているだろうが……あの二人が模擬戦を許すなんて、不安しかない。

「……冒険者達は大丈夫だったんですか? 依頼が滞ってしまうとか……」

「気絶する被害は続出したが、何だかんだ言っても、今の冒険者ギルドは活気に溢れているぞ」

「活気が溢れているならいいですけどね」

 気絶の件はスルーすることにした。

 きっと開けてはいけないパンドラ系の臭いがしたのだ。


「それでルシエルはここまで、どうやって来たんだ? 馬がいないところを見ると、三頭とも潰してしまったのか?」

 バザンさんは話題を変えてくれたが、説明しづらいので、あとで教えることする。

「いえ、さっきまでは一人だったんですよ。まぁそれは村を出たらお話ししますよ」

「それもそうだな。おっ、あれがそうか? 穏やかそうな感じだな」

「……まぁ駄馬でないことを祈りますよ」

 村長と馬主の男が一人待っていて、そこには何処かほのぼのとした顔の馬が三頭並んでいた。

「実は駿馬かも知れないぞ」

「それなら嬉しい誤算ですけどね」


 馬をバザンさん達に確認してもらい、問題が無さそうなので、村長に三頭分の対価として、金貨三十枚の入った布袋を渡す。

「なかなか良さそうな馬ですね。これは代金です」

「おおっ。確かにいただきました。この村で走れる三頭ですから、聖都までは十分持つでしょう」

 それはもうニンマリって言葉がよく似合う笑顔だった。


「もし教会の者が訊ねてきたら、既に聖都へと戻ったと伝えておいてくれると助かります」

「それぐらいなら問題ありません」

「じゃあこれはチップです。村の皆がひもじい思いをしないように、お願いしますよ」

「ははっ。ありがとう御座います」

 金貨を差し出した瞬間には、目の前に手があったことに驚きながらも、何とか普通に渡した。

 ずっと見られていると、聖都方面とは逆に向かうことが分かってしまうので、ここで別れを済ませることにした。

「見送りは彼等も居ますので、結構です」

「分かりました。ルシエル様達のご無事を祈らせていただきます」

「ありがとう」

 ナディアとリディアが一頭ずつ連れ、俺が近づこうとすると、馬が逃げるので、仕方なくバスラさんが手綱を引くことで、村を出ることに成功した。


 村長は返品されるか不安がっていたが、何とかする旨を伝えると、頭を下げて自宅に帰っていった。

「あれだけお金に執着する人を久しぶりに見たな」

「それよりもルシエル、さすがにこの馬に乗っていくことは無理だろ? こっちの馬車に乗っていくか?」

「いえ、それには及びませんよ。俺には相棒がいるので」

 隠者の鍵を使って厩舎を出現させると、バザンさん達はとても驚いていたが、一番驚いたのは馬達だろう。


 厩舎から出てきたフォレノワールの存在感に、穏やかそうな雰囲気が一変した。

「ブルルルルル」

 それだけ告げると、馬達が一斉フォレノワール平伏してしまった。


「……何だか分からないが妙な気配がするぞ? それ普通の馬じゃないだろ」

「ええ。だから俺の相棒なんですよ。見たところバザンさん達の馬車は、馬を二頭繋いでいるみたいですし、荷台をしまって身軽に全員騎兵で行きましょう」

「ルシエル……昔と比べて逞しくなったな」

「ははっ。そうだといいんですけどね」

 バザンさんがそう言ってくれて、少し照れてしまったが、手早く馬車の荷台をしまう。

 こうして準備が整った俺達は、騎馬隊となって、メラトニへと向かうのだった。


 その際、馬達は必死にフォレノワールに従う形になっていた為、自ずと俺が先頭になってしまうのだが、皆が護衛の為に前に出ようとするも、馬達をフォレノワールの前に出ることはなく、仕方なくこのまま移動することになるのだった。




お読みいただきありがとう御座います。



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