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199 召喚魔法

 朝日がしっかりと顔を出したところで、俺達は村へ到着した。

 しかし簡易的に作られた柵が閉じていて、見張りもいないので、中に入っていいのかを一瞬戸惑った。

「ルシエル様、何故止まられたんですか?」

「見張りがいない村に入っても罰則はありませんよ。冒険者ギルドでも入る分には問題がないと言われています」

「そうなんだ」

「はい。一般的に柵が閉じているのは、野生の狼や魔物が進入してくるのを防ぐためです」

「聖シュルール協和国は魔物も弱いので、この程度の柵でも問題ないんでしょうね」

 どうやら冒険者は村に入るのは問題がないらしい。


 そのことに戸惑いを覚えながら、柵を外して村の中へ入って、再び柵を閉じた。

「まずは村長に挨拶をしてから、馬を譲ってもらえるように交渉してみよう。まぁ馬がいなかったら、フォレノワールに今回は頼むけどな」

「譲っていただけるといいですね」

「それと出来れば食事もいただけたらいいですね」

 ナディアは俺に同意し、リディアはすっかりと食いしん坊キャラになってきたと思いながら、村長の家を目指す。


 歩いていると、各家から生活音が聞えてくるので、村人は起きるのが早いなと感心しながら、村長の家に辿り着いた。

「さてと、起きているといいんだけど」

「ルシエル様、ここは私達が用件を伝えてきます」

「ルシエル様はここでお待ちください」

 本当に従者が板についてきてしまった二人に複雑な心境になるが、交渉は俺がした方がスムーズに進む気がしたので、簡単な説得を試みる。

「二人は村長と面識がないでしょ? まぁ俺も新しい村長とは一度だけしか話したことはないけど、ここは俺が行くのが筋だから」

 俺は二人にそう告げると、二人は頷き同意したので、一歩前に出て村長の家の扉をノックした。


「早朝から申し訳ありませんが、村長様はご在宅でしょうか?」

 すると中から物音が聞えたので、起きていたらしく、少しして扉が開いた。


「誰だ? 朝っぱらから、何の……って、ルシエル様じゃないですか」

 不機嫌そうな村長は俺の顔を見るなり、笑顔になった。

「おはよう御座います。早朝から押しかけてすみません」

「い、いえ。それよりもどうなされたんですか?」

「聖都へと向かう途中で馬が潰れてしまいまして、出来れば融通して頂きたいのです。もちろん通常よりもかなりの色をつけましょう」

「そうですか、聖都へ。ですが、これはあくまで噂ですが、ルシエル様には神罰が下ったとか何とか」

 恐る恐る神罰の話を聞いてくるあたり、抜け目なく感じるが、ここで時間をロスしてもつまらないので、実際に魔法を使用して見せることにする。

「まぁただの噂ですよ。ヒール」

 俺が村長にヒールをかけると、少し右肩が下がっていた村長の姿勢が、均等が取れた姿勢に変わる。


「おおっ! 腰痛が嘘のように消えましたよ。これなら……」

 腰を捻りながら、嬉しそうにして、最後の言葉を飲み込んだ。


「まぁ噂ですからね。そんな訳で村に迷惑が掛かることもありませんよ」

「えっ? ああ、それは気にしていませんし、ルシエル様にはこの村を救っていただいたことありますから。あのでは、まずは中へ」

「ありがとう御座います」

 動揺を隠して村長は家の中へと招き入れてくれた。

 家の中に入ると、以前訪れた時とは違い、書物が散乱していた


「散らかっていて済みません」

 村長はそう言って、恥ずかしそうに本を端に除ける。


「先程も申し上げましたが、こちらが突然押しかけてしまったのですから、お気になさらず。それにしてもこれだけの書物をお持ちなんですね」

 すると、村長は頭を振りながら答えた。

「これは全部、前村長の所有物です。本来なら教会に回収されると思っていたんですが、このまま残されていたので、こうして暇を見つけては読んでいます」

 以前ここを片付けた時雄には見なかったが、何処かにしまっていたのだろうと、深くは詮索しないで、本題に入る前に、その好きだという本の話で警戒を解くことにした。


「それは良い趣味ですね。一体どのようなものがあるんですか?」

「村を統治する為に必要なことが記載されているものや、人族至上主義の思想を説いたものが多いですな。それこそ人族至上主義発祥の地である公国ブランジュのものもありますよ。あとはレインスター卿に関するものが多いですかね」

 思ったより変り種の本はないのかもしれない。

 少し物量が多かったので、別段読むこともないかもしれないな。

 それにしても人族至上主義とか、俺とは対極にいるような組織だよな。

 もし人族至上主義の団体が教会の中で暗躍してたら、今回の騒動の犯人は宗教組織になってしまう。

 その場合、面識のあるあの人が、今回の騒動の火付け役ということになる。 

 それを考えると憂鬱になりそうだったので、話を続ける。


「なるほど。実は私も本を読むのが好きで、色々読み漁る雑多なタイプなんですよ。それでここに変わったものがあればと思っていたんですけど」

「それなら、精霊や龍、迷宮に関する伝承が記載されたものから、怪しいものですが、召喚に関する書物と不老長寿なんていう変り種までありますよ」

 俺が笑って告げたら、村長の何かを刺激したらしく、多ジャンルをドヤ顔で告げてきた。

 しかし気になるタイトルが出てきた。

 召喚魔法と不老長寿……でも教会の関係者は何故本を回収していかなかったんだ?


「……それって、教会の人間は調べていったんですよね?」

「ええ。たぶんですが。元々眉唾なものですし、公国ブランジュで書かれていたものらしいですが、こういう書籍は何処にでも存在しているらしいので」

 騎士団が何を調べに来たのか、不安で堪らない。

 本当に大丈夫なんだろうか? それとも教会の内部に……これ以上は考えちゃ駄目だな。


 俺は一度間を取り、本題を告げる。

「……そうですか。それで馬なのですが、御用意いただけますか?」

「この村に良馬はいませんが、それでも宜しいですか?」

「はい。無理を言って済みません。一頭金貨十枚で宜しければ。三頭お譲りください」

「そんなに頂けるのであればぜひ。直ぐに馬を管理しているもののところまで行ってきますので、少々こちらでお待ちいただけますか?」

「ええ。その間に本を読ませていただいても」

「もちろん構いませんよ」

 そう言って、村長は嬉しそうに家を飛び出していった。

 あの調子なら、馬はいるんだろう。


「さてと、どう思う?」

「確かに私達も人族至上主義でした。ですが、冒険者になってからは、その壁は薄れてきました」

「精霊のこともあったので、私はそこまで忌避することはなかったです」

 二人とも人族至上主義に対しての反応を見せたのだが、主語がなかったことを思い出し、俺は苦笑しながら、聞きたいことをきちんと伝える。

「いや、すまない。目的語がなかった。魔族がいきなり現れた謎が、その召喚だったんじゃないかなと思ってな。そういえば公国ブランジュでは、今でも勇者召喚を行っているのか?」


 仕切り直して聞けば、二人はそれぞれが知っていることを話してくれた。

「はい。ですが、詳細は貴族であっても知ることは殆どありません」

「勇者召喚を行った事実は伝わりますが、召喚が成功したかどうかも知ることはないのです」

「それは魔王や魔族が現れていないからか?」

「それについても分かりません」

「私達は成人して直ぐに家を出ましたし、権力のある貴族ではなかったので……」

 そういえば縁談を迫られってそれが嫌で冒険者になったと言っていたな。

 普通の貴族……そう言えば、ネルダールにいたエリナスさんも伯爵令嬢だったけど、政略結婚がしたくないから研究しているようなこと言っていたな。

 公国ブランジュの将来は大丈夫なのだろうか? 目ぼしい情報は得られなかったが、まぁとにかく少しでも手掛かりを探すことにする。


「……そうか。時間もないから、やるべきことを絞ろう。二人は少しでも気になるものがあったら、言ってくれ」

「「分かりました」」

 俺は二人にそう継げた後に、村長の言っていた召喚と不老長寿の本を読むことにした。


 前回この村で起こった魔族騒動と、今回のブランジュで見かけたと噂されている魔族共通点は今のところ分からない。

 あれから半年も経つのだが、未だにあの時のことを覚えているのは、きっとあの時に消えた瘴気を放つ魔法陣と、ケティ達が見たと言っていた、怪しい杖と壺を使った儀式が、何だったのか気になっていたからだろう。

 もしあの時の儀式が、この召喚魔法や不老長寿に記載されている内容であれば、魔族達の狙いが分かるかも知れない。

 俺はそう思い、本を探し始めると直ぐにその本は見つかった。

 しっかりと包装がされたいかにも高そうな本だったのだが、その中身は汚れが酷く、とても古ぼけた感じで、文字も読むのがやっとだった。

 文字以外を浄化したいが、文字まで汚れと判断されたらこの本を読めなくなってしまうので、我慢して読み始めた。



 召喚魔法は時空魔法に分類される為、一般的には伝説のような存在になっているが、実はそうでもないらしい。

 実は属性がなくても、対価を差し出す契約を魔法陣に刻めば、可能になるのだろうか。

 ここでいう対価とは、人を召喚するのであれば、当然その対価も人ということになる。

 しかし、全ての契約が命を対価にする訳ではなく、魔力を対価にすることも出来るらしい。


「あれだけの瘴気が漏れていたんだから、きっと対価は全ての村人達の命だっただろうな。どう考えても普通ではない存在を呼び出そうとしていたのは間違いないだろう」

 更にページを捲っていくと、道具を使った召喚の部分があり、壺を使った儀式を見てみると、魂魄交換や魂魄憑依といった恐ろしいことが書かれていた。

 仮にあの時の召喚魔法陣が発動していたら、村人の魂は召喚と同時に消滅して、呼び出された魔族の魂が、村人の身体に入っていたことになる。


 このとんでもない内容が本当だとすると、あの時、もう少し遅れてこの村に到着していたら、魂が魔族の村人が誕生していたことになる。

「こんなことを考えるなんて、ちょっと普通の神経じゃないぞ」

 更にページを捲っていくと、そこにはとんでもないことが書かれていた。

「これは言い値で買い取らせてもらおう」


 俺は召喚の本を閉じると、外が騒がしくなっていたことに気がつき、ナディアとリディアと共に外へと出ることにした。



お読みいただきありがとうございます、

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