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157 襲撃者達の末路

 あれからいくら探しても奴隷商人は見つからなかった。


 あの奴隷商人の攻撃を受けた元奴隷達は、重傷者が多かったものの、奇跡的に死者はいなかった。

 俺は仕方なく魔力ポーションを飲んで、元奴隷達が死なない程度まで治療していくのだった。


「それにしても、師匠やライオネルが斬った者達が生きているとは思いませんでしたよ」

 あの時、豪快に斬っていたから、てっきり殺したと思っていたけど、全員生きていたことにはかなり驚いた。


「ルシエル、良く見てみろ。こいつ等は全員が奴隷じゃないだろ? 襲撃者達の実態は、奴隷、盗賊、冒険者に何処かの国の私兵が集まった連合だな。敵を欺いて情報を引き出そうとしていたんだ」

「情報ですか……師匠。それでも少しやられ過ぎだったのでは?」

 師匠は笑い出した。

 俺は意味が分からずに聞こうとすると、ライオネルもニヤニヤした笑顔になり、師匠の変わりに答えを教えてくれた。

「ルシエル様、いくら旋風といえ、あの数の総攻撃を完全に防ぐのは無理です。全盛期でこの前線に立っていたのなら、怪我を負う事もなかったでしょうが……」

「全然分かってねえだろが、ルシエルに嘘を吹き込むなよ。俺もこいつもわざと怪我をしたように見せかけたんだよ」

「???」

 俺の頭の中に?が並ぶ。

「はぁ~。薄皮一枚切られたように見せかけて優位な状況を作れば、自分に酔っている相手は勝手に饒舌になるだろう?」

「そういうことです。怪我をしたように見せかけて漸く黒幕が出てきたところにルシエル様が来られたのです」

 師匠は大きな溜息を吐いて、苦戦を装った作戦であることを教えてくれた。

 それにライオネルがあの時の状況説明をしてくれたのだが、俺には腑に落ちないところがあった。



 しかし先程のライオネルの言葉全てが、嘘だったのだろうか? あれはライオネルなりに師匠の状態を正確に見抜いていたのではないかと考える。

 そう考えてみると師匠は戦闘勘のようなものが、鈍っているかも知れないと感じる。

 ……師匠は冒険者ギルドの訓練場にいることが多かった。

 それは戦闘勘を養うためだったのではないか? 歳月が経つことで、出来ていたことが出来なくなることは、前世ではよくあることだ。

 昔の師匠は知らないけど、命を燃やして戦っていた冒険者時代と比べれば、冒険者ギルドの中にずっといる師匠は、スキルやステータスに反映されない感覚が鈍っていってもおかしくないことが十分考えられることだった。

 ステータスの最高数値は存在するが、あくまで最高数値でその状態でいつも過ごしている訳ではない。

 師匠は未だに実戦勘が取り戻せていない試運転の状態なのではないか?

 そんな結論になった。


「師匠、戦闘感覚、戦闘勘が戻っていませんか? 師匠が薄皮をわざと切られたのって、それを養うためでもあったんじゃないですか?」

 様は戦闘訓練をしていたのではないか? 俺はそう問い詰めたのだ。


「……少しだけだぞ。こいつ等の個々の能力はまぁまぁだったが、連携が異常なまでに取れていたことで、現在のAランク冒険者並の戦闘力を手にいれていたからな。まぁ質の悪いことに、連合だからなのか、仕掛けてくるタイミングがバラバラなのはいいが、仲間ごと攻撃してくる最悪な攻撃もあったから楽しかったぜ」


 俺の不安気な顔を見た師匠がそれらを振り払うように、相手の分析と状況の報告をしてくれた。

 むしろこの戦闘狂の心配した俺が馬鹿だったことに気がつかされる。


「Aランク並みの冒険者がどれほど強いかは分かまりせんが、俺なら数回は死んでいますよ」

「あれぐらいで死ぬなら、訓練の時は本当に死ぬかもな」

 あ、墓穴を掘った……あの目は失望させたら、半殺しの目だ。

 久しぶりのあの目を見た俺の膝が笑ってしまう。

 俺は話題を変えることにした。

 このままでは死んでしまうから……。

「で、でもあれだけの数の攻撃を捌いて、良く殺さなかったですね」

「最初は殺すのも仕方ないと思っていたが、奴隷として仕方なく戦っていた者達以外は弱かったんだ。それに持ちこたえるだけなら、ルシエルにも出来た筈だぞ」

「そうですかね?」

 師匠が俺の成長を認めてくれていたらしい。

「俺があれだけ鍛えたんだから、痛みで意識が飛ぶことはないだろ? あとは回復魔法を駆使すれば、時間稼ぎなら問題ないはずだ」

 まぁ戦えるとは言っていなかったからな。

 俺の武人としての成長はあるのだろうか?


「ルシエル様、それは旋風の照れ隠しです。今回の優れた状況判断と回復魔法で私も含めて救われました。もう少し遅れていたら、斬り殺さなければいけませんでした」

「まぁそうだな。奴隷は呪いによって縛られているからな。きっと中には無理矢理奴隷とされた者がいた筈だ。だから奴隷解除は助かったぞ」

 ……さっきまであれこれ考えていたけど、この二人は別次元なんだと確信した。

 あの状況下で敵を不殺で無効化することを考えていたのだろう。

 全力なら俺が介入するまでもなく、終わっていたということだ。

 まぁ冷静に考えるとそれが当然だと思えてくる。


 でもそれなら何故この二人が奴隷商人を捕まえなかったのか、それが気になった。

「……しかし、気になるのは、あの奴隷商人のことです」

「ルシエル、先に言っておくが、俺達が見ていた姿は偽者だからな」

「はっ?」

「隙をついて石つぶてを放ったが、すり抜けていったからな」

 俺に教えなかったのには、何か理由があるんだろう。

 それなら別に疑問に思ったことを聞くことにする。

「……狙われた理由は姉妹を購入したことでしょうが、それにしては動きが早過ぎませんか?」

「そうだな。それ以上にあの姉妹を狙っているだけで、この異常とも言える戦力の投下。奴の狙いはもしかすると、ブランジュかも知れんな」

「どういうことですか?」

 何故ブランジュになるのかが分からない。


「奴は狂気を孕んだ目をしていた……あれは大事な者を何か理不尽な力で奪われた者の目だ。グランドルは冒険者ギルドが運営してる国で、野蛮そうに見えるが冒険者のランクが全てだ。悪さをするとギルド本部の上位ランカーが火消しに動くから、一個人に対する恨みを抱いても、世界を破壊したい思想にはならない。……そうなると、相手は組織や貴族、国となっていく。あの姉妹はブランジュが出身らしいからな。実際のところは本人を捕まえなきゃわからないけどな」

 この人は本当に頭の回転が早い。

 組織だとすると……あの二人の国の私兵だと思われる襲撃者達に後できけばいいか。

「でも、なんでブランジュだと?」

「カンだ。だが姉妹が何処の誰かを知り、何故執拗に襲撃してきたのか、さらに言えば、其処の私兵に知らせたところを見れば、国際問題にもなりえる暴挙だ」

 戦闘が終わったばかりなのに、良く少ない情報から推理していくものだ。

 この洞察力こそが、この人の凄さなのかもしれないな。

 しかし気になる点が一点出来た。

「……その話が合っているなら、俺ってあの奴隷商人にかなり怨まれてませんか?」

「そう宣言されていたろ?」

 確かに名指しで、俺の夢を潰すって言われた。

 穏やかな人生を送るという素晴らしき夢を潰すと……。


「……まぁ済んだことはしょうがないですよ。それよりもこいつ等の処遇ですけど、どうしたらいいですか?」

「これが普通の盗賊なら、見せしめとして半分以上は殺す。取り調べるにしても時間が掛かるからな。まぁ今回は仕方ないから、グランドルまで運んで冒険者ギルド本部のプロ達に依頼することになるだろう」

 半ば自棄になりながら、師匠に襲撃者達のことを聞いたが、何のプロなのかは、恐くて聞くことが出来なかった。


 俺たちは一時間掛けて来た道を三時間掛けて戻り、冒険者ギルド本部に奴隷商人を呼んで、全員を奴隷に落とした後、取調べを冒険者ギルド本部に任せることにした。

「師匠、本当に冒険者ギルドに任せても大丈夫なんですか?」

「ああ。別にメラトニのギルドマスターが、ギルド本部に能無しと思われようと一向に構わない。調べていけば、自分達が探している情報が出てくるだろうからな。結果的に貸しが出来る」

 この人は先を読む天才だな。


「昨日から調べていた件ですか?」

「ああ。今回の事件が明るみになって困るのは、依頼の管理と冒険者の管理を怠った結果だと直ぐに分かるからな」

「さすが師匠ですね。分かりました。俺はどうしたら良いでしょうか?」

「そうだな……何もしなくていい。こいつらが逃げないようにしておいてくれるか」

「ええ。それは構いませんが……いえ、宜しくお願いします。ライオネル達にも逃げたら斬るように指示を出します」

「そうだな。じゃあ少し待っていろ」

 師匠はそう言って、冒険者ギルドへと入っていった。

 あの人の凄いところは、そこだってポイントを確実に押さえているところだよな。


 それにしても、何だかブロド師匠が楽しそうで良かった。

「師匠には甘えてばかりだからな……ライオネル、あの奴隷商人が召喚に成功していたら、何が出ていたと思う?」

 師匠と同レベルなら、分かることもあるだろう。


「あれだけの巨大な魔法陣だったところを考えると、大型の魔物、下手したら魔族が現れていたかも知れませんね」

「……メラトニに寄る前の村にも魔族がいたが、どう思う?」

 魔族と聞いて、やはり吃驚する。

 さすがにあれを使役出来る人間がいたら、化け物だ。

 あの村の魔族は帝国だけだと思ったけど、違うのかも知れないってことか?


「今回とは別の線でしょう。今回の奴隷商人は魔法陣を出現させて、従属させる召喚だったのでしょう。明らかに戦った魔族の格が違います」

「そういえば帝国と魔族領は近いんだろうけど、戦闘はあったのか?」

「ええ。二十年程前までは、よく衝突をしていましたね」

「……それは皇帝、宰相や大貴族の代が変更になった時期だったとかはないよな?」

「良く分かりましたな。前皇帝が崩御されてから、代が一斉に替わりました。まぁ将軍職に就いていた私にはもう関係が無いことでしたが」

「……一体いくつの時から将軍をやっていたんだ?」

「二十の時ですね。懐かしいものです

 今の俺よりも年下で……そう考えると、ライオネルが如何に優秀だったのか、分かる気がした。


 ライオネルが常人ではないことが確認できたところで、師匠と屈強な男達が来て、襲撃者達を冒険者ギルド内へ入るように伝え、連行していく。

「ルシエル、襲撃者達はこのまま奴隷となる。その売買金額は全てお前の口座に入金させることにしたからな」

「いいんですか? 師匠が受け取っても良かったんですよ。グランドルにつき合わせてしまっていますし……」

「それならメラトニへ帰った時に皆が怒らないように宥めながら、酒を奢ってやってくれよ」

「分かりました。そうだ、一応ケティとケフィンが捕まえた新人冒険者達が悪事を働く気がなく騙されていたのなら、解放してあげてください。やり直せるはずですから」

 グランドルに帰る道中で、奴隷に落とされた新人冒険者達の中には泣いているものもいた。

 それを見て、今回の件を本当に何も知らなかったのなら、解放してもらうことに決めたのだ。

 運が悪かったりしても、救われた気持ちになれば、どん底からでも這い上がろうと頑張れるはずだ。

 俺はそう信じることにした。


「……甘いな。だが、その甘さがなければ、あのような男を産んでしまうのかもしれないな。わかった。口添えはしておこう。それで中途半端な時刻になってしまったが、どうする?」

「野営も出来ますし、先に進みましょう。また罠を仕掛けられて身動きが取れなくなるよりは、少しでも研鑽を積める方に動くべきだと思います」

「ほぅ、よく言った。さすが俺の弟子だな。なら出発の準備をしておけ」

「はい」


 こうして襲撃者達を冒険者ギルド本部に任せ、俺達は研鑽の為に蟻の迷宮へと向かうのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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[一言] その話しが合っているなら、 ↓ その話が合っているなら、
[一言] この戦闘狂の心配した俺が馬鹿 ↓ この戦闘狂を心配した俺が馬鹿
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