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 魔物退治を行っているのは、ガルバさんと正直戦力にならないと思っていたワラビス、そして冒険者達だった。

 俺達は駆け抜けるように魔物の群れに突っ込み、俺が一切触ることがないまま、死体の山が出来上がった。

 それを冒険者達が挙って回収しようとしていた。

 現場は凄まじく酷い臭いで、雨でも降って全てを洗い流して欲しかったが、青空が広がっていて期待できそうに無かった。

 そのため俺は浄化魔法をかけながら進んできたのだが、最前線には尋常じゃない死体の山と臭いを消す労力を考えると、さすがに頭を抱えることになる。


 「グルガー!! 助かったのか」

 ガルバさんが目の前を通り過ぎ、気がつけばグルガーさんに抱きついていた。

 イエニスから帰還して直ぐに弟が死に掛けていたんだから、多くの魔物達はきっと惨い死を迎えたはずだ。

 死にそうな顔をしているワラビスの顔を見れば、一目瞭然だ。

 きっとグルガーさんが死んだら分かるように、奴隷のワラビスを置いていたんだろう。

 その徹底した性格はイエニスで、更に磨きがかかっているように見えた。

 「ああ。ルシエルに生かされた」

 グルガーさんの言葉に反応したガルバさんはこちらを向くと、笑顔で感謝を述べるのだった。

 さっきまで俺の顔を気がつかないほど、グルガーさんを心配していたんだな。 

 「ルシエル君、グルガーを助けてくれて本当にありがとう」

 「困ったときはお互い様ですよ。イエニスではお世話になりました」

 本当に嬉しそうな表情をしているが、俺にとっても恩人なのに、この人は本当に律儀な人だと思う。


 「そうだ。皆が見送り出来なくて悲しんでいたよ。良くあれだけの獣人の心を掴んだね」

 「……二人のご助力があったからですよ」

 自分で触れられたくない話題を振ってしまったことを後悔しながら、状況を確認しようとした。

 しかし、ガルバさんの鋭い眼光がブロド師匠に向けられた。

 「それに引き換えブロド、キマイラを倒したのはいいけど、そのまま指揮を無視して突っ込んで倒れるのは止めてくれ。迷惑だ」

 「そう睨むな。それで今の状況は?」

 師匠もグルガーさんが……仲間が血だるまになったから、キレたんだろうけど、指揮官としては失格ということなのだろう。

 まぁガルバさんも本気で怒っていないことは直ぐに分かった。

 殺気や怒気が全然出ていなかったから。

 ブロド師匠もそれが分かっていて、直ぐに状況確認に入る。

 俺があたりを見る限りだと、魔物と戦闘しているところはなく、剥ぎ取りなどをしているように見えた。


 「周辺から魔物が集まってきてはいるけど、そこまで強い個体はいないし、鉱山後から這い出てくる魔物も状態異常の攻撃以外は対したことはないね」

 どうやら大体は落ち着いたみたいだけど、まだこの場に留まるのだろうか?

 俺はブロド師匠に従うことにして、見守ることにした。

 「そうか。それでそっちの狸は役に立ったのか?」

 「う~ん……少しだけ?」

 ワラビスの能力は変身だけど直ぐに戻ってしまう。

 それがどんな役に立つのかが分からないので、俺は口を挟まないことにした。


 「必死ににおい消しの薬草を焚いたぷ~。もう叱られるのはこめんぷ~」

 ……あまりにも性格が変わっていないワラビスに声をかける。

 「ワラビス、奴隷生活はどうですか?」

 「奴隷生活が快適なわけ……せ、聖人様が何故ここにいるぷ~」

 俺が声を掛けただけで、ワラビスが震えだした。

 そこまで震えることに、何故か俺はショックを受けた。

 「聖人ではないですが、イエニスの任期を終えたのでメラトニへ期間したんですよ」

 「悪夢だぷ~。ガルバが帰還してから直ぐに、青白い光を放つ悪魔まで現れるなんて……」

 ワラビスが何かを囁くように呟いた声を俺は拾うことは出来なかったが、ケフィンとケティはしっかり聞いたらしく、鋭い眼光を向けていた。

 もうワラビスのことに時間や感情を傾けることをやめることにした。


 そして俺は遠めにも分かる封印の門を見つけてしまった。

 何故平地に……何故屋外にと本当に頭を抱えたくなりながら、状況を

 「……この現場を撤収するのはいつですか?」


 俺の言葉にブロド師匠とガルバさんが反応して、ブロド師匠が答えてくれる。

 「……どうだろうな、グランドルから魔物が来ているが、向こうの冒険者達が迷宮から沸く魔物を殲滅したらじゃないか? 鉱山で強い魔物は倒したから、こっちは当面平気だと思うがな」

 死にたくないから、聞いたと思われたのは仕方がない。

 それよりもあれをどうするか?

 俺が選ぶ選択肢は一択だけだった。


 「当面は回復係も必要はないですか?」

 「ああ。どうやらそこまで酷い怪我を負っているやつはい無そうだからな。何故そんなことを聞く?」

 「あそこに大きな門があるんですが、見える方はいますか?」

 皆は俺が指をさした方向を見るが、反応はとても薄いものだった。


 「ルシエル様、もしかして?」

 最初に気がついたのはケフィンだった。

 ライオネル達も驚くようにこちらを窺うが、一番驚いているのが俺だと知ってもらいたかった。

 「ああ。封印の門だな」


 「ルシエル、何かあるのか? その封印の門とは何だ? 詳しく説明しろ」

 ギルドマスターであるブロド教官なら知っているかもしれないと思っていたがそうでもないらしい。

 俺は師匠になら説明できると思い口を開きかけたが、エスティアとワラビスが目に入り、説明を止める。


 「……まず、ワラビスがここにいては話せません。俺が信用出来るもの意外にこの話は出来ません」

 「重大な話なんだね? だったらワラビスは私が連れて行こう」

 「すみませんガルバさん。悪いがエスティアも遠慮してもらえるか?」

 「はい。わかりました」

 ガルバさんはワラビスの首根っこを掴んで離れていき、それに続くようにエスティアを離した。

 まだエスティアに裏切られたなら仕方がないとは、俺には思えなかった。


 俺は皆に封印の門を話すこと以外に正式な情報を伝えることにした。

 その事前準備として誓約をしてもらうことを決めた。

 「ブロド師匠やグルガーさんだけじゃなく、皆にも誓約をしてもらう。対価は今から数分間の記憶。何らかの方法で誰かに教えようとした瞬間に記憶を失う」

 「分かった。俺はギルドマスターとして知る権利があるからな」

 ブロド師匠がそう言ってから、皆が誓約を受けてくれた。


 誓約が終わり、俺は説明を始める。

 「封印の門は龍が封印されている場所へ辿り着くためのものです。龍の封印を解くとこの付近に大きな魔石が出てきます。絶対に誰も手を触れないと約束してください。守れなければ全員が死にます」

 「……良く分からないが、その魔石は呪いがかけられていているか、ルシエルにとって重要なものなのか?」

 確かに魔石が欲しいと思われても仕方が無い。

 俺でもあの現場を見ていなければそう思う。


 「いえ……ただ邪神が現れて、魔石の周りにいる全てのものをアンデッドにしてしまう。それだけです」

 ???!!!!

 状況を知っているライオネル達も含め、俺が断言したことにより、皆は驚きを隠すことが出来なかった。


 「それなら、その封印されている龍をそのままにしておけばいいんじゃないか? それなら誰も死ななくて済むだろ?」

 「俺もそう思っていましたけど、残念ながらそうなると、勇者が産まれる前に世界が魔族や魔物に飲み込まれてしまうんですよね」

 ブロド師匠がいい人なのは分かっていたけど、本当にいい人だからこそ、この人に目の前の扉からに逃げ出したい心に蓋をしてもらうことにした。

 これについてはライオネル達にも話していない俺の考察だった。

 俺が力無く笑うと再び驚愕が場を支配した。

 「……そんな危険なことに何でお前が?」

 「成り行きですけど、龍の封印を俺が解いちゃっただけですよ。そこからは自分のやれる範囲で動いています」

 俺は胸を叩いて笑って見せる。

 「……そうか。知らない間に本物の冒険者になったな」

 「これが本物なら、ぜひ偽者になりたいですよ」

 ブロド師匠は何かを決意したように感じたが、それも一瞬のことで、笑顔になった。

 「そうか……わかった。こっちは任せておけ」

 「頼みますよ。皆はそれでも近づこうとしている奴がいたら、死なない程度に斬って構わない。後で回復魔法をかけるから」

 「「「はっ」」」

 「じゃあ浄化する前に、サクッと封印の解除をしてきます」

 俺はそう告げ、封印の門へと歩き始めた。

 門の周辺に魔物は居らず、俺が来るのを待っているように感じた。


 「触りたくないけど、仕方ないよな。出来れば大人しくしている龍でありますように」

 俺は願いを込めて、門に手を触れると魔力が吸われ始める。

 「迸るような黄色? と、いうことは雷龍?」

 そんなことを考えていると文様が浮かび上がり、扉が開いていく。

 俺が振り返って確認するも、やはり皆には見えていないことが顔を見れば分かった。

 俺は片手を上げて門を潜ると門がゆっくりと閉じていき、完全に退路が消えた。



 今までのように階段があるわけではなく、通路を越えた先に青と黄、そして黒の雷を放電している龍が横たわっているのが分かった。

 「これが罠だったら、軽く数回は死ぬ自信があるぞ」

 恐る恐るだが確実に先へ進み、もう少しで魔法陣が届くところで、脳内に声が鳴り響いた。 


 《邪神の封印を解き放つ解放者よ 聖龍 炎龍 土龍の呪い解き 今度は我の封印を解きに来たか》

 どうやら声の主は雷龍らしい。

 それよりも、おかしい。

 「封印されたままでも、意識が保てているのか!?」

 《我が龍族で最後に封印されたから 煩わしくはありが時間はある》

 確かに見た感じではドス黒い瘴気が身体を覆っているようには見えなかった。

 これなら攻撃されないだろうと、少しだけど心に余裕が出来てきた。

 この際だから、質問してみることにした。

「そうか。それなら質問してもいいだろうか?」

 《いいだろう 解放者は全てを知る権利がある》

 雷龍は気怠るそうだが、答えてくれるらしく、こちらに顔を向けた。


 「早速だが、封印は全てでいくつある?」

 《八つだ 我を解放すれば 残る封印は四》

「光、闇、水、風でいいか?」

 《ああ それと精霊は六精霊だ 賢者になるために必要な情報だろう》

「……分かっているのか?」

 賢者の条件が全精霊と全龍の加護なら、是非取りたくはないものだが……。


 《我等転生龍 全てを知るものだ》

「それなら龍を解放した後に残る魔石から、邪神が出てこないようにするには如何したらいい?」

 今、正に直面していることだが、これを乗り切れば、もうアンデッドを産まなくて良くなると俺は思っていた。

 しかし、そう簡単ではないことが、直ぐに雷龍から語られる。


 《迷宮の最深部で残るのは魔石ではない 残るのは迷宮の核だ 触れれば迷宮の管理者が呼ばれる》

 ……何という理不尽な世界なのか。

「対策はないのか? 他の神様に知らせて邪神の行動を止めるとか」

 《核を外に持ち出せば その瞬間迷宮は消滅する》


「それならここはどうなる? 鉱山が沈んだことで、封印の門が屋外にあったんだぞ」

 《?それはおかしい このグランドルにある謀略の迷宮は崩れてはいないはずだ》

「俺がこの門に入ったのは聖シュルール協和国のメラトニという街から、グランドルへ続く鉱山跡だぞ」

 《……ならば あの気配は…… 我を封印し急いでグランドルの迷宮へ向かえ》

 雷龍がいきなり身体を起こし、放電があちらこちらに飛んでくる。

 さすがに感電まで防げる気がしない俺は、何とか横に跳んだ。

「うぉ!! 危ないだろ。いきなり何なんだ?」

 運良く掠ることもなく、避けることに成功した。


 《このままだと 巫女が危ないのだ 急げ》

 その声が俺には悲痛の叫びに聞こえた。

 まるで愛する家族を心配するような、そんな声に。

「……俺が此処を出たら何処に出る?」

 《元いた場所に戻されるはずだ 直ぐにグランドルの迷宮へ 謀略の迷宮へ潜り助けだせ!!》

 雷龍のテンションが上がるとまた放電が飛んで来た。

「だから危ないだろうが!! 解放しないで帰るぞ」

 《運命の歯車を止めるな 必ず巫女を救ってくれ》

 運命の歯車……何かの歯車で動くつもりが、自分が出来ることはすることに決めた。

 さすがに魔族と魔物が闊歩する世界よりも、冒険者が闊歩する世界の方が住みやすいと思うから。

「……約束は出来ないが、全力は尽くす」

 《困難を切り抜けてみせよ》

 俺は聖域結界を発動する。相当な痛みがある筈なのに動じない雷龍を見て戦わずに済んでラッキーだと思っていると、徐々に黒い放電が無くなっていった。


「クックック。解放者ヨ、加護ト我ノ力ヲ託ス。ソノ腰ノ杖ヲ前ニ出セ」

 俺が幻想杖を前に出すと雷龍の光が幻想杖に吸い込まれていった。


「……巻キ込ンデ済マナイ 巫女ト未来ヲ守ッテクレ」

「龍が懇願するなんてことがあるんだな」

「ルシエルヨ、我等ガ騎士ヨ。今コソ世界ノ均衡ヲ保テ 我等ガ誓イ果タシタゾ…ラフィルーナ……」

 何か名前のようなものを呟いた雷龍の声を聞こうとした時、身体に痛みが駆け抜けた。

「グァアアアハイヒール」


 雷龍が倒れた後、部屋全体に稲妻が走った。

「……さすがに死ぬかと思ったぞ」

 まさかの全方位雷という置き土産に死にそうになりながら、慰謝料として雷龍の部屋にあるアイテムを全てもらっていくことにした。

 ここにアイテムやお金があるのが、迷宮の管理室であることを知った俺は頭を抱えながら、現れた魔法陣へ飛び込むのだった。

 光に包まれるといつもの機械音が、称号の取得をアナウンスするのだった。


 ピロン【称号 雷龍の加護を獲得しました】 


 光が収まり俺は目を開けた。

 どうやら門があったところから、少し移動したところへ転送されていたようだ。

 俺がそう状況判断をしていると師匠やライオネル達が走って駆けつけてくれた。

「無事に龍を倒したのか?」

「ルシエル様、帰還されましたか」

 二人の声に答えることはなく、俺は雷龍との約束を守るため、進むことにした。


「今から直ぐにグランドルの迷宮へ向かいます。師匠、ライオネル、皆力を貸してください」

 俺のいきなりの発言に皆が一瞬怯んだが、直ぐにその返答が来た。

「さっさと馬車を出せ。その様子だと急ぐんだろ?」

「我等はルシエル様の従者ですから、お伴致します」

「本当に感謝します」

 現場にはガルバさんとグルガーさんが残り、後は同行することになった。

「出来るだけ早く戻ってきますから、待っていてください」

「出来るなら、あっちの迷宮を踏破してくるといいよ」

「こっちに弁当が入っているから、後で食べろよ」

 ガルバさんとグルガーさんの優しさに感謝して、頼もしい仲間達と共に、迷宮都市国家グランドルへ旅立つのだった。


お読みいただきありがとう御座います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の話はいつもより更に誤字が多い気がする まあ、聖者無双って誤字多いから今更やけど
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