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120 精霊が畏怖する存在

 息子の形見……俺はその魔石を浄化すると、そっとロックウェル王へと譲り渡した。


「こいつらがここまで来たことが気になる。もしかするとグランドさん達が怪我をしているかもしれない。急いで戻るぞ」俺は皆に声を掛けた。


するとライオネルが元奴隷達の処遇について聞いてきた。

「この奴隷達……いや元奴隷達は如何しますか?」

 俺が元奴隷達を一瞥すると、元奴隷達はこちらを怯えた表情で見つめ震えている。


「まずは戻るぞ。元奴隷諸君、逃げたいのなら逃げても構わない。但し命の保障はしかねる」

「そ、そんな」

「助けてください」

縋ってくるが、彼らや彼女らは、あの時に手を上げなかった者達だ。


 機会はあったのに……と、そんな線引きが出来るのなら、どんなに楽だろうか。

 俺はそう思いながら、元奴隷達がついて来るのであれば、処遇をどうすればいいのか考えることにしたが、それよりも今はグランドさん達の方が気がかりで、直ぐに移動することを伝えた。


「ロックウェル王。泣かれるのは、もう一人のご子息の無事を確認してからの方が良いのでは?」

「……分かった」

 グライオスだった魔石をロックウェル王は懐にしまい、涙を拭き立ち上がった。


 俺はエリアハイヒールを使うと元奴隷達、ドワーフ達の傷も完全に癒えた。

「今度は何があっても斬る。そのつもりで行動しろ。ケティ、ケフィン道案内を頼む」

『はっ』

 俺達はこうして洞窟の入り口を目指して移動を開始した。



「まだ魔物があちらこちらに居ますね」

「でも、数えるほどニャ」

 先頭を歩く二人は魔物を殲滅しながら、来た道を逆送する。

 途中、分岐路で物体Xを忘れずに回収した。


 ドワーフ達もロックウェル王が起こして、最後尾についてきている。

「これならドワーフだけでも守れるだろ?」

「……そうだな」

 ロックウェル王は厳しい表情のまま、口数も少なかった。


「しかしあれだけの蟻の死骸を破棄するには、相当な時間が掛かりそうだな」

「はい。魔石に関してはポーラとリシアンに任せるのが良いでしょう。魔物の死骸はロックフォードに提供すれば喜ばれるのでは?」


「さすがライオネル。まぁ俺達が魔石や死骸を持っていても、それを活用出来るかといえば、無理だし不要なものだからな」


「ええ。持っているよりも、任せた方が感謝されますし、うまく運用出来るでしょう」

「この魔石が、元奴隷達の準備資金にでもなればいいんだが……」

「それにはグランド殿達が無事であれば、ですね」

 自然と幻想杖を握る手に力が入るのを感じながら、俺達はドワーフ王国へと続く道を急いで戻るのだった。。



 通路を抜けて見た光景は、出発前と同じように和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気のままだった。


 そして何人かのドワーフがこちらに気がつくと、俺達が戻ったことを皆に知らせる様子を見て、心配が杞憂に終わった事が分かり、正直ホッとした。


 俺はグランドさんを見つけて近寄り話しかける。

「グランドさん、無事でしたか」


「ああ。こちらは何もなかった……と言うよりは、魔物たちが穴に引き返していったから無事だったぞ」


「そうですか。それは良かったですけど……グライオス達がここを通りませんでしたか?」


「いや、通ってないぞ?」

 その顔には嘘は無さそうに見え、ライオネルやケティも首を横に振った。


「それなら良いのです。蟻達を産む女王は倒しました。それにかなりの蟻達を倒したので、ドワーフ王国の兵達が残っている蟻の魔物を倒していけば、完全に脅威は去るでしょう」


「それは凄い! それでは直ぐにロックフォードへ戻るのか?」

「そうしたいのは山々ですが、怪我人を治すのと、宝をいただくことが優先です」

「怪我人がいるなら、それはそちらが優先だな」

「ええ」

 俺はにこやかに笑うと、グランドさんからは苦笑が漏れた。


 炊き出しのおかげか、ドワーフ王の住処に移動するときには、各方面からお礼の言葉が聞こえた。


 残り二つの穴からも、蟻の魔物が撤退したのだと分かり、心配していた状況に陥ることはなかったことに俺は安堵していた。



 ドワーフ王の住処に着くとそこからはロックウェル王が先頭を歩き、謁見の間、中央まで進むと足を止めて振り返り、土下座してきた。


「ルシエル殿、どうかアレスレイの腕を治してやってくれ。この通りだ」

 死なないように回復はしたけど、現在アレスレイの両腕が無い状態になっているので、分からなくもない」


 しかしアレスレイがこの国を継ぐのだったら、良い関係を築けるとはどうでしても思えなかった。


「……何故そこまで? 失礼だが能力が高く、人格もはっきりしているものを王に据えるのが、ドワーフ王国の為になるのでは?」


「王にするしない以前の問題なのだ。愚息だが、アレスレイのやつしか、もうワシには跡取りがおらんのだ。王位は関係ない」

「それで王位をいつ任せるつもりですか?」

「……ワシが全身全霊をかけて、立派な王になるまでだ。ワシの死する前までにその資質がないと判断した場合は、王位は他のものに譲ることを精霊と神に誓う」

「……本気か?」

 王位を捨てると言っているようなものだ。

 あれに国の未来を賭けるって、どうやってアレスレイにテコ入れをするつもりなんだ?


「それだけの迷惑をルシエル殿と国民にかけてしまった。それは簡単に許されるべきことではない」


 その様子から、とても嘘を吐いているようにも見えなかった俺は、それを了承することにした。

 もちろん条件付で、だ。


「いいだろう。精霊達は聞いているか?」

「……どうやら姿を現さないようだな」

「何か仕掛けが?」

「いや、あるとすれば……」

 ロックウェル王は、それ以上語らなかった。

 が、俺もその意図に気がついた。


「ライオネル、ケティ、ケフィン以外は奴隷部屋に戻っていろ。エスティアを含めて教会関係の君達もだ。これは命令だ」


 反論があると思ったが、皆大人しく……エスティアだけが、動こうとしなかった。


「さっさとするニャ。それとも何かあるのかニャ?」

「……ありません」

 エスティアがそのまま移動しそうだったところを俺は止めた。


「……エスティア、魔道具と装備を置いてこの部屋を出ろ」

「……分かりました」

 その場でライトと剣と盾を置いて部屋を出て行った。


 そこでロックウェル王は土扉を作り、誰も侵入が出来ないようにした。

「土の精霊様、姿は現さなくて結構です。声だけお聞かせ願えますか」

 そうロックウェル王が語りかけると、姿を現して精霊達は話し始める。


 《あいつ何者だ?》

 《まるで影みたいだった》

 《嫌な感じしかしなかった》

 《脳筋 マヌケ面 あれは俺達の天敵だぞ》

 《さっきの誓いごとは了承していいのか?》

 《大地の脅威が無くなったのに 私達の脅威が側にいるなんて》


「聞きたいことがある。何故、グライオスの変化に気がつけなかった? 精霊なら注意喚起することだって可能だっただろ?」

「……精霊様達が最近姿を現さなかったことと関係が?」

 俺に続きロックウェル王が口を挟んできた。


 《操られるのは趣味じゃない》

 《グライオスには何度も注意した》

 《知らないうちに近くにいる》

 《あれは危険だぞ 手に負えなくなる前に殺すべきだ》

 《ここ最近はあいつのせいで顕現することが怖かったのさ》

 《あれは私達を飲み込む》


「それは誰のことだ?」

 ロックウェル王がその名前を聞こうとするが、一人しかいないだろ。


「……エスティアのことだろ」

 俺がそう告げると、ライオネル達が口を開く


「……ルシエル様、エスティアとは誰のことですか?」

「そんな名前聞いたことが無いニャ」

「元奴隷の中にいたのですか?」

「何を真顔でとぼけている? 一緒に女王蟻を倒した精霊魔法剣士のことだ」

 しかし俺が思っていたこととは違うリアクションが返ってきた。


「ここにいる五人で突っ込んだではないですか」

「そうニャ。ルシエル様は夢でも見たのかニャ?」

「疲れているのなら、仮眠を取られますか?」

 三人は……ロックウェル王も不思議な顔をしているので、四人は全く覚えていないようだった。

 記憶が書き換えられるなんてことが起きるのか? 


「精霊達、どういうことだ?」

 《記憶の忘却》

 《幻術?》

 《闇ちゃんの力》

 《マヌケ面は対抗する力と加護を持っているから効かなかったみたいだな》

 《それなら僕達のおかげだから ハチミツや魔力をくれてもいいよ》

 《強いから気をつけた方がいいよ》


「だが、精霊の君達だって一度奴隷の休憩部屋で、顕現したじゃないか」

 《あれはあれが奴隷になっていたから気がつかなかったんだ》

 《奴隷の封印が解けた時の圧力はやばかった》

 《身体が引っ張られそうになったんだから》

 《もう近づくのは二度とごめんだ》

 《気をつけてハチミツと魔力をまたくれよ》

 《命を狙われることもあるから気をつけるのよ》

 精霊達は不吉な言葉を残して消えていった。


 ロックウェル王は精霊が話したことが信じられないような表情をしていたが、直ぐに信じることにしたらしい。


「どれがその元奴隷か分からないが、そいつは我が息子の敵でもあるはず……私が責任を持って対処する」

 そう気合を入れたようだった。


 俺はライオネル達に精霊とした会話の内容を話しながら、女王蟻と戦ったことを全て伝えると三人も少しだけ違和感があることに気がついた。


「まさか知らぬ間に術中に陥っているとは……」

「闇精霊って怖いニャ」

「幻術というよりは精神感応になるのでしょうか?」

 三人が三人とも落ち込みながら、引っかからないように対策を考えているようだった。


 俺はこのことを一度魔通玉で教皇様に、あの五名が本当に教会所属であるのかを確認することにした。


 連絡をして用件を話すと、調べておくことを告げられ、帝国の件も当面は近寄ることがないように告げられた。


 連絡が終わると俺は動くことにした。


「ロックウェル王、約束通り誓約は守ってもらうが……まずはエスティアを確認するから、あの土壁を消してくれ」


「分かった」

 ロックウェル王が頷くと、土壁は崩れ去った。


「エスティアをまずは戦闘不能に追い込む。その上で尋問するぞ」

『はっ』


 もしかすると精霊が選ぶ運命の相手だと思っていたので、俺は少し傷ついていた。


 確かに運命の相手がエスティアだとは言われていなかったが、そのためか意識的に格好良く接した自分を責めながら、奴隷の休憩所に移動した。


 奴隷の休憩所に入るとエスティアの姿はなかった。


 他に見たことがない顔のものが追加されているかも調べたが、エスティアの姿がない以外の変更点はなかった。

「……俺が暗示にかかっていないことに気がついていたのか?」


 俺は仕方なくアレスレイのところに向かい、人払いを済ませた後でエクストラヒールをかけた。


 腕が生えたアレスレイを確認したあとに、ロックウェル王から感謝された。


「礼はいい。後日ドランがこちらに来るから、その時に謝罪と宝物庫の中身を渡してくれ」


「分かった。それで直ぐに帰るのか?」

「そうしたいのは山々だけど、奴隷を解除した者達の処遇を話さないといけないし、一度グランドさんを交えて、エスティアの能力に対抗する装備も考えなくてはいけない」


「分かった。それで元奴隷達の引き取りだがどうするのだ?」


「……元奴隷達をロックフォードに連れて行きたくない。だから当面はここ

で預かってくれないか?」


「その判断でいいのか?」

「ああ。適当にここで蟻の残存している魔物を倒すことで、いくらかの生活費を稼ぐ事が出来るといえば問題はないだろう。出来るだけ早く迎えには来る」


「……分かった。それに従おう」

 ロックウェル王はそれを了承し、俺達は再び奴隷達の休憩所に移動した。

 そして馬車の用意やお金を工面する説明すると、すぐに地上に出たいというもの達もいたので、本人達に任せることにした。


「ドワーフや俺達に迷惑をかけないと誓約したのなら、自由に出ていくといい」

 それだけ告げると数名が誓約をして部屋を出て行った。

「残ったものの食事は頼む」

「承知している」

 ここでロックウェル王と別れ、俺達が王の住処を出るとグランドさんが待機していた。


「何故中まで来なかったんですか?」

「ここは故郷だから、色々と懐かしくてな」

「そうですか…ではロックフォードへ戻りましょう」

「ああ」


 こうして俺達はドワーフ王国から、ロックフォードへの帰路につくのだった。


お読みいただきありがとう御座います。

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